67 新たな戦場
砦での防衛戦は順調だった。投石機とシェルドン、ミニサラたちのスキルの相性が非常によく、敵を寄せ付けない。何とか搔い潜ってきても、バリスタで一方的に殲滅する。敵もこのまま無駄に兵力を使い潰すわけにはいかないと思ったのだろう、砦を避けて、少数の部隊で山越えをして来る作戦に切り替えた。
しかし、これも魔族を中心とした密偵が情報を事前に入手し、万全の体制で待ち構えていたアズイーサが率いる神官騎士団に殲滅されている。
そんな戦いも2ヶ月に及んでいる。相手は一向に攻撃を止める気配はないが、2~3発ブラストボールを撃ち込んでやれば、すぐに撤退してしまう。
私はというと、オルマン帝国貴族の接待に追われていた。
アズイーサの実家であるブラックローズ家の関係者を中心に観戦武官を受け入れているのだ。
戦争を見世物にするなんて!!
と現代日本の感覚を持つ私からすると、もってのほかと思うのだが、コウジュンに助言を貰い、受け入れることにした。
「メリットはいくつかあります。まず、見栄っ張りのオルマン帝国貴族ですから、手ぶらでくることはないでしょう。また、ブラストボールは、できるだけ秘匿にしますが、ゲディラ特製のバリスタなどは、いくらか買ってくれますからね。そして、これの一番大きな理由は戦後処理の関係です」
私たちの目的は、神聖国ルキシアとして独立することである。領土を広げようという野心はない。なので、ルキシア王国側が諦めてくれれば、それでいいのだ。そこで問題になるのは、いつ戦争を終わらせるかだ。希望的観測だが、この砦での攻防戦で、相手に手痛い打撃を与えて、講和に持ち込めればと思っている。そのときに重要になるのが、仲裁者だ。今の予定では、オルマン帝国に頼もうと思っていたのだ。
オルマン帝国としては、最近は大規模な戦争の実戦がなく、軍関係者に学習をさせたい思惑があり、今回の観戦武官を受け入れることを条件に仲裁者になることを密約しているのだ。オルマン帝国が仲裁者となれば、世界に帝国の威信を示すことができ、オルマン帝国としてもメリットがあるようだ。
観戦武官の筆頭で来ていたブラックローズ公爵にアズイーサが声を掛ける。
「お祖父様、お久しぶりでございます。いかがでしょうか?」
「息災で何よりだ。お前の指揮も見事であるし、オルマン帝国出身の義勇兵も練度が高く頼もしい。余程厳しい訓練をしたのであろうな」
「もちろんです」
「ただ、少し気掛かりなことがある・・・どうも相手は、この砦を本気で落とそうとしているようには見えん。まるで、ここに兵力を留め置きたい意図が見え隠れするな・・・」
これにコウジュンが何か気付いたような顔になり、すぐに会話に割って入った。
「会話の途中、失礼いたします。ブラックローズ公爵閣下、それはどういう意味でしょうか?もしかして、オルマン帝国を経由して、南部のレーベから別動隊が・・・・」
レーベと聞いて、レーベ出身のエリーナは青くなっている。
「それはない。他国の軍隊を素通りさせるようなことは有り得んし、100歩譲ってあったとしても、我が配下の領は一歩も通さん」
言われてみれば、ブラックローズ公爵の意見は的を得ている。となると、どこから攻めて来るのだろうか?
そんなことを思っているとファイリス様とロックス様が食料調達から帰って来た。ファイリス様の背にはなんと、ポールさんとアンジェリカさんが乗っていた。
挨拶もそこそこにポールさんが言う。
「密偵からの情報で、相手は海上から我がジョーンズ伯爵領を攻めようとしているんですよ。約50隻の軍艦を用意しているそうです。それで、私とアンジェリカが相談に来た次第です」
嫌な予感は当たるものだ。
「分かりました、ポールさん。すぐに対策会議を開きます」
しかし、それに待ったを掛ける人物がいた。ファイリス様だ。
「何をいっておるのじゃ!!これから寿司を食べるに決まっておる。妾はわざわざリザードマンの里まで行って、ワサビも取って来たのじゃからな」
寿司とか言う前に緊急事態なんだけど・・・・
「ファイリス様、私が目の前で握りますよ。ファイリス様とロックス様は別室に」
「うむ、アンジェリカはよく分かっておる」
ファイリス様を別室に案内しているところで、アンジェリカさんが耳打ちをしてきた。
「ここに連れて来てもらう条件が、お寿司をご馳走することだったからね。こっちはこっちで上手くやるから大丈夫よ」
ファイリス様の話では、頑張っている私たちのためにお寿司をご馳走したかったらしい。会議が終わる頃には私たちのところにも寿司を持って来てくれるそうだ。
★★★
早速会議が始まる。
ポールさんから詳しく状況説明を受けた。
「戦力ですが、相手は約50隻、こちらは商船をかき集めても10隻にもなりません。その中で軍艦と呼べる船は3隻だけです。海戦では全く歯が立たないと思われます。ですので、心苦しいですが、上陸を許した後に防衛戦を戦おうと検討しています。但し、そうなるとかなり損害を被り、多くの領民が被害を受けるのです。苦渋の決断というやつです」
コウジュンが質問する。
「上陸を許した後の防衛戦での勝算は?」
「損害を無視すれば・・・あります」
ここで、アドバイザーとして会議に参加してもらっていたブラックローズ公爵が発言する。
「相手の狙いはジョーンズ伯爵領の占領にあるのではない。まあ、占領できればそれにこしたことはないが、目的は神聖国ルキシアの国力を奪うことだ」
言われてみればそうだ。ジョーンズ伯爵領は大きな港町でもあり、海上交易で栄えている。大ぴらにはできないが、魔族とこっそりと取引もしていて、資金も豊富にある。更にアンジェリカさんの監修のもと、名物料理による観光都市としても有名だ。北街道の存在意義も、聖都エルサラとジョーンズ伯爵領を結んでいる。少し言い方は悪いが、北街道沿いの領は交易のおこぼれをもらっているにすぎないのだ。つまり、ジョーンズ伯爵領が壊滅的な被害を受けると、この国の経済は回らなくなるということだ。
一同が暗い雰囲気になる中、空気の読めないファイリス様が会議室にやって来た。
「アンジェリカから、寿司を喰いながらではあるが、事情は聞いておる。つまり、寿司が食べられなくなるかもしれないということであろう?」
結果としてそうなるだろうが、それが一番の問題ではない。
「だったら、妾に考えがある」
全く期待していなかったが、ただ寿司が食べたいだけの古龍に、私たちは助けられることになるのだった。
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