65 開戦
とうとうルキシア王国と聖母教会の教皇派の連合軍が攻めて来た。諜報部隊の報告によると総勢1万、隣領のアバウス伯爵領に集結しているようだ。こちらはその半分の5000の人員をかき集め、改築した砦で迎え討つ。相手方の大将はアバウス伯爵で、アバウス伯爵領の人員を総動員している。
アバウス伯爵は私たちのことを一番恨んでいる貴族の一人だ。私たちが神聖国ルキシアとして独立する以前から、オルマン帝国との貿易を活発にし、北街道を整備して、近隣の領もアバウス伯爵領を通行しなくなってしまい、大幅に収入が減っている。
そして、今では領の運営にも支障をきたすくらいで、自領での大規模な増税で賄っていた。しかし、これも限界で、多くの領民が逃げ出すという悪循環に陥っている。通行料で暴利を貪り、近隣の領に不当要求を繰り返していたので、自業自得と言ってもいい。
まあ、彼らにしてみれば、私は聖女ではなく、疫病神みたいなもんだろう。
そして私は今、連合軍を迎え討つため、砦で待機している。お父様も一緒に出陣すると言って聞かなかったが、そこは説得した。代表であるお父様が聖都を離れるわけにはいかないからね。
当然、私が軍を指揮するわけではない。そんな能力は持ち合わせていない。コウジュンをはじめとした従者が指揮をしてくれる。私に与えられた役目は聖女として、味方を鼓舞することだ。
だから人前では不安な表情を見せられない。常に笑顔で自信に満ち溢れた姿を見せなければならないのだ。そして、積極的に兵たちに声掛けもしていく。
そんな中、浮かない顔をしている者がいた。コウジュンだ。私はコウジュンに声を掛ける。
「どうしたの?何か作戦で困ったことがあるの?」
「いえ、作戦は完璧です。ただ、兵糧のことで少し・・・」
コウジュンは一人の美少女を見詰めていた。ファイリス様だ。
ファイリス様は、戦場までついてきてしまったのだ。本人が言うには古龍の長老会に確認したら、同行するくらいならOKとのことだったらしい。古龍の掟のため、直接戦闘はできないが、居るだけで心強いのだが・・・
「その・・・ファイリス様が予定以上に召し上がられるので・・・兵糧のほうが少し・・・」
言いにくそうに言う。
こういうことは私が責任者として言わなければならない。
「私が言うわ。任せて」
私はファイリス様に近付き、事情を説明する。
「ファイリス様・・・大変申し上げにくいのですが・・・兵糧のほうが少し心許なく・・・・食事量を減らさせていただければと思うのですが・・・」
「なんだと!!妾をタダ飯喰らいの穀潰しというのか!!何と失礼な!!」
そこまでは言っていないが、今の状況はそうだ。
「そういう意味では・・・備蓄している食料が無限にあるわけではありませんし、皆我慢しております」
「なら最初からそう言えばよい!!じゃが、妾は我慢なんかせんぞ。つまり、食材があれば食べ放題ということだな?」
「あればですが・・・・」
そしてその日からファイリス様は狩りに出かけて、魔物を大量に狩ってきたり、わざわざジョーンズ伯爵領まで行って、新鮮な魚を持ってくるようになった。
これで逆に砦の食料事情が劇的に改善してしまった。兵士たちは大喜びだ。怪我の功名というやつだ。
★★★
食料関係も改善し、後は敵を迎え討つだけなのだが、少し気になることがあった。最近、新鮮な魚をファイリス様が大量に持ってくるのだ。もしかしたら、ポールさんやアンジェリカさんに無理を言って、持って来ているのかもしれないと思った。
なので、ファイリス様の狩りにエリーナを同行させることにした。当然エリーナには事情を説明している。ファイリス様はというと私の指示に感心していた。
「貴重な戦力であるエリーナを同行させるなど、感心じゃな。エリーナよ、妾から多くのことを学ぶがよいぞ」
次の日、兵士たちが騒然となっていた。すぐに報告が来る。
「ファイリス様と一緒に巨大な亀が飛んでいます!!」
空飛ぶ巨大な亀?
思考が追い付かない。
しばらくして、その亀は砦に着陸した。なんとエリーナは、その亀の背中に乗っていた。
「エリーナ!!これはどういうこと?」
「こちらは亀ではなく、ファイリス様と同じ古龍のロックス様です。ロックス様は岩龍であらせられ、ファイリス様の婚約者でもあるのです」
「はい?」
エリーナから事情を聞く。
ファイリス様は、ジョーンズ伯爵領の近海の孤島に住むロックス様に魚をもらっていたのだ。そして、ロックス様に龍騎士のエリーナを紹介して自慢し、更に料理の美味しさも自慢したところ、どうしても砦に来たくなったらしい。
ロックス様はファイリス様が人化したのに合わせて、人化された。ずんぐりしたドワーフ体型の優しそうな青年の姿だった。
「いやあ、君が聖女さんかな?料理も美味しいらしいし、僕の眷属もお世話になっているみたいだしね」
「眷属といいますと?」
エリーナが解説する。
「シェルドンたちのことです。火龍であるファイリス様にとってのミニサラたちのような存在らしいです」
何となくは理解した。
見掛けは優しそうだが、ロックス様も古龍であるので、絶大な力を持っていることは間違いない。なので、すぐにおもてなしをすることにした。持ってこられた魚を手分けして調理する。幸いロックス様には好評だった。
「聞いていたとおり、すごく美味しいよ。お礼をしようと思うんだけど、何がいいかな・・・・そうだ!!我が眷属の能力を解放してあげよう」
そう言うとシェルドンたちに近付いて、手をかざして呪文のようなものを唱え始めた。するとシェルドンたちが光輝く。その光はすぐに収まった。見たところ、あまり変わっていない。
「ロックスよ。何をやっておるのじゃ?」
「眷属の能力解放だよ。ファイリスもやればいいんじゃないのか?こんなにお世話になっているのに」
「そうじゃのう。ところで、どうやるのか教えるがよい」
そうすると今度はファイリス様がミニサラたちに同じようなことをした。こちらも光に包まれたが、見た目はほとんど変わっていない。
ロックス様が言う。
「眷属たちの新しい能力が解放されたよ。驚くことになるよ」
私たちは、どのような能力が備わったのかと、期待に胸を膨らませた。
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