62 聖女、準備をする
ルキシア王国と教会との決別を決めたからといって、すぐに独立を宣言するようなことはしない。猶予期間を使者に求め、結局1ヶ月後に答えを出すことになった。その間にできる準備をしっかりと行う。最初にエリーナとファイリス様に頼んで、北街道沿いの領主たちに説明に回った。みんな協力してくれるとのことだった。
次は砦の最終確認だ。
アバウス伯爵領に通じる街道を封鎖するために元からあった砦を急ピッチで増築していく。今まで砦を増築しなかったのはルキシア王国側を刺激しないためだ。
そして、ドロシーが中心となって工事を行い、ゲディラ特製の投石器やバリスタを設置していく。北街道の整備や巨大なガイア像の建設などで鍛えられた神官騎士団が昼夜を問わずに工事し続け、わずか1週間で完成させていた。
砦を視察に来たブラックローズ公爵が言う。
「このような見事な砦はオルマン帝国にもないぞ。これ攻め落とすのに苦労するだろうな」
「ありがとうございます」
「直接他国の内戦に加わることはできんから、資金援助と物資の支援くらいだけになると思う。どうしても困ったら義勇兵という名目で精鋭部隊の派遣も考えよう」
「何から何まですいません」
この砦の構築にはブラックローズ公爵のアドバイスが大きかった。軍事の専門家でもあるので、助かったとコウジュンも言っている。この内戦に加担してしまうとオルマン帝国自体も戦争に巻き込んでしまうことになるので、できることは限られていると言うが、それでも大きな援助をしてくれた。
そしてもう一人、戦争には加担できない人がいる。
「残念じゃが、妾は人間同士の争いには参加できんぞ。昔、双方ともに古龍を仲間に加えて、古龍同士が戦い、世界滅亡の危機まで発展したからな。その教訓を元に人間同士の争いに首を突っ込むことはご法度となったのじゃ」
「そうですか・・・それは残念です」
「すべてが片付いたら、我が棲み処を訪ねて参れ。そのときは旨い物でも持って来るがよい。それと、戦いに敗れ、行く宛てが無くなったときは遠慮せずに来い。匿ってやるくらいはできるからな」
そう言うとファイリス様は飛び去ってしまった。
エリーナが言う。
「カレン様、本当に申し訳ありません。説得したのですが・・・」
「いいわよ。ファイリス様にはファイリス様の事情があるし、すべてが上手くいったら、またファイリス様の棲み処に行きましょうよ。それと召喚の許可はいただいたから・・・」
厳密に言うと召喚ではない。幻影魔法でファイリス様の姿を創作するだけだ。事情があって帰ったことを知っているのは私とエリーナだけだし、こけおどしにはなるだろう。以前からファイリス様には本当のことを伝えていた。伝えたときは、本当にびっくりしていた。
「なんと!!ハッタリだけで、ここまでやってきたのか・・・・ある意味感心するぞ」
★★★
そんな形で準備は着々と進み、返事を聞きに使者がやって来た。
お父様は言う。
「この度、我が領より西側の領主が共同で神聖国ルキシアとして独立することになった。聖母ガイア様の正しい教えを広めることを国是とする。当面の代表は我が務め、合議制を採用し、民から幅広く意見を聞く。アドバイザーとして聖女という役職を置き、我が娘カレンが務める。建国祭を行うから、招待状を持って帰ってくれ」
予想外の回答に使者は言葉を失う。しばらくして怒鳴り声を上げる。
「こ、こんなことが許されていいはずはない!!何が聖母ガイア様の正しい教えを広めるだ!!正しいのはこちらだ!!」
「これを見てもか?」
お父様は使者に教会と王家が行った数々の不正を暴いた資料を投げ付けた。聖女の認定の件や不正蓄財など多岐に渡る。
「ここまで好き放題していて、神の教えも何もないだろうに。それが聖母ガイア様の教えというなら納得のいく説明をしてもらおうか?」
使者は押し黙る。
神の教えを振りかざし、好き勝手にしていいとは、あの馬鹿女神でも言わないだろう。
ここで私は、駄目押しで聖母ガイアを幻影魔法で出現させた。
使者は驚き、尻もちをついている。畳み掛けるように聖母ガイアの幻影を喋らせる。
「悔い改めなさい!!私は一言も不正を許すなどと言った覚えはありません。もし、反省するのなら立ち直る機会を与えます。不正を明らかにし、不正に携わった一人一人が自分でよく考えて行動することを望みます」
私は聖母ガイアの幻影を消滅させた後に優しく使者に語り掛ける。グッドコップバッドコップ戦略だ。ヤクザがよく使う手法で、脅した後に優しい言葉を掛けるのだ。
「聖母ガイア様もこのように仰られております。まずは貴方の使命ですが、ガイア様の言葉を包み隠さずに多くの者に伝えることです。それが貴方の使命で、そうすれば貴方の罪もきっと許されることでしょう」
この使者が何か不正を行っているかは分からない。使者としてこちらにやって来るくらいだから、全く知らないこともないだろうけど。
「わ、分かりました。必ずや伝えます。この命に代えましても。私も正直、今の王国や教会のやり方には疑問を持っていました。しかし、今日で吹っ切れました。家族とともにこちらに移住させていただきます」
移住しろとは言っていないけどね。
使者が帰った後、お父様は言った。
「いつ戦になるかも分からん。戦になれば領民にも不自由を強いることになるから、建国祭は盛大にやろう!!」
みんなが同意をする。
楽しめるときに楽しむ。前世の経験から大切な人が突然いなくなることもあるからね。
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