61 聖女、決別する
処理は朝まで続いた。騒ぎを聞きつけた野次馬や警備隊が屋敷にやって来る。私は、野次馬にも聞こえるような大きな声で、警備隊に説明をする。
「つまり、教皇派の幹部がこちらの暗殺者たちを差し向けたのです」
「そ、そんな・・・しかし・・・・」
警備隊の責任者は驚きを隠せない。そんな中、暗殺者の少女が口を開く。
「私たちは、こちらの聖女様を偽物の聖女で極悪人だと言われ、暗殺を命じられたのです。しかし、聖女様は本物でした。そしてこんな私たちにも慈悲の心で接してくれたのです。私は改心しました。これからは、聖女様に身を捧げます」
こちらは打ち合わせに無かったが、本当に改心してくれたのだろうと思う。
しかし警備隊の責任者が言う。
「聖女様の自作自演というのは考えられませんか?貴方にとって都合が良すぎる」
これにゴードンやエリーナが怒鳴り声を上げる。
「失礼にも程がある。お嬢様が嘘なんか吐くはずがない」
「カレン様は命を狙われたのですよ!!」
「しかし・・・その者たちをこちらで、取調べをして・・・」
この警備隊の責任者は教皇派の息の掛かった者だろう。ということは、暗殺者たちを引き渡せば、始末されるし、都合がいいように事実を捻じ曲げられるだろう。
そう思っていたところに救世主が現れた。ファイリス様だ。
「朝から騒がしいのう。何かあったのか?妾はまだ眠いのじゃ!!」
私は作戦を思い付いた。
ファイリス様に近付き、耳打ちをする。
「もうエルサラに帰ろうと思うのです。裏庭でドラゴンの姿になってここに戻って来てくれませんか?戻ってカツカレーを食べましょう」
「妾も食べたいと思っておったのじゃ。すぐに戻って来るぞ」
ファイリス様は、裏庭に移動し、すぐにドラゴンの姿になって帰って来た。当然、周囲は騒然となる。
私は警備隊や野次馬に向かって言った。
「私は王都に正しい教えを広めに来ただけなのに・・・きっと天罰が下ることでしょう。暗殺者だった者に言います。もし、改心し、新たな人生を歩みたいのであれば、私についてきなさい」
これには暗殺者たちもびっくりしている。
暗殺者の少女が言う。
「もちろんです。聖女様!!」
暗殺者はエリーナの案内で、ファイリス様の背中に設置している客席に乗り込んだ。
「警備隊に言います。私はこの事件がキチンと捜査され、納得のいく説明がなされるまでは、王都に戻っては来ません。そう伝えなさい。そして、ここにお集まりの皆様にお願いいたします。私が嘘を言っているのではないと信じてください。多分、国や教会は都合がいいように真実を捻じ曲げるでしょう。皆さんにどうこうしてほしいということではありません。真実とは何かを見定めていただきたい。
それでは失礼します。皆様に幸多からんことを!!」
そう言うと、私はファイリス様に乗り、王都を飛び立った。多くの歓声が上がる。
そして、その日のうちにエルサラに到着したのだった。
★★★
エルサラに着くとすぐにお父様とお母様に報告した。二人は狼狽え、そしてお父様が怒り始めた。
「カレン!!王都で狙われることを知っていたね?」
「は、はい・・・」
「私たちのことを思って、黙っていたということは分かる。だが、二度とこんなことはしないでくれ。カレンは聖女でもあるが、それよりも私たちの大切な娘なんだからな・・・もし、危険な目に遭うなら、聖女なんて辞めたっていいと思っている」
「お父様・・・」
本当にいい両親の元に転生したと思う。これだけは、馬鹿女神に感謝してもいいくらいだ。
そんな感動的な雰囲気をぶち壊す人物がいた。
「何をしておる!!妾は早く、カツカレーを食べたいのじゃ!!」
エリーナがファイリス様を宥める。そんなときお母様が言う。
「だったらみんなで食べましょうよ!!みんなで食べたほうが美味しいですよね?ファイリス様」
「そうじゃのう。妾も、そう思うぞ。最近ワイワイ言いながら食べるのも好きになった」
こういうところは、私はお母様を尊敬する。決して出しゃばらないけど、タイミングよくフォローしてくれるのだ。本当にいい両親の元に転生した。前世の両親も素晴らしかったけどね・・・
次の日はファイリス様に乗り、すぐにジョーンズ伯爵領に向かった。渋るファイリス様には、寿司と海鮮丼で釣った。早速打ち合わせを始める。
コウジュンが状況を説明し、相手の出方を予想する。
「考えられる手は二つ、一つは教会の関係者を形だけの処分をして、ソイツが勝手にやったことだと言い張るでしょうね。そして、今回のことはなかったことにする。もう一つはカレン様を異端者と認定して討伐軍を差し向ける。まあ、こちらのほうは確率が低いでしょうね」
ポールさんも言う。
「そうですね。とりあえずは最悪の事態を想定して、北街道沿いの領主たちに事情を説明して回りましょう。トカゲの尻尾切りで来ると思いますが、2~3年位はのらりくらりと躱せるでしょう」
二人がそうならばそうなのだろう。私たちは、ポールさん御夫婦もファイリス様に乗せて、北街道沿いの領を回る。マトキン男爵を筆頭に皆理解を示してくれたし、教会や王家に鉄槌を喰らわせてやると息巻く領主もいた程だ。
それからしばらくして、ルキシア王国と聖母教会からの書状が届く。
「カレン・クレメンスをすぐに出頭させること。異端審査に掛ける。匿うとカレンクレメンスと同罪と見做し、軍をもって討伐する・・・・」
お父様もお母様も従者たちも、驚きを隠せない。予想外だったからだ。それに私の襲撃事件には一切触れられていない。暗殺自体を正当化しようとも取れる。
お父様が言う。
「もう我慢できん。カレンを奪われるくらいなら、差し違えてでも守り切る。独立だ!!」
皆が賛同する。このとき、教会やルキシア王国から決別することになった。
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