57 聖女、火龍の従者を募集する
火龍であるファイリス様が住み着くことになって2週間が経過した。各所から悲鳴の声が上がる。
まずはエリーナだ。
「もう限界です。こちらも仕事があるのに『従者なのだからいつも側に控えて、もっと世話をするのじゃ』と言ってくるのです。もう仕事になりません」
続いてはゲディラだ。
「今はカレン様の像を建設中ッスけど、『妾の像も作れ』と言って聞かないッス。人員も足りないし、予算のほうも・・・・」
予算の話になったところで、コウジュンも口を挟む。
「食費がかなり掛かるのもそうですが、最近は買い物に嵌っているようで、このままでは赤字に・・・」
これは対処しなければならない。
火龍に町を焼かれるとかではなく、財政面で破綻するなんて本当に予想外だ。
「分かったわ。私からファイリス様に進言します」
従者達の期待を背負い、私とエリーナはファイリス様の居室を訪ねた。
部屋はこれでもかというくらい荒れ果てていた。本当にこのドラゴンは片付けができないようだ。
私達がファイリス様に説明をしようとしたところ、先に予想外のことを言われてしまう。
「エリーナだけでは、妾の世話を満足にできんようじゃから、別の従者を用意するのじゃ。最近、お主らの妾への扱いが雑になってきているしな」
まだ、要求して来るのか・・・・本当にこの馬鹿ドラゴンは!!
でも言えるはずもなく、その威圧感に屈してしまい、要求を呑んでしまう。
帰りにエリーナと話をした。
「どこかにファイリス様を崇め奉るような、奇特な人達はいないかしら?それに無償でファイリス像を建設してくれるような・・・」
言いかけたところで、エリーナが遮った。
「居ます!!それも多くの人達が!!」
★★★
ということで、やって来たのはマトキン男爵領だ。
ファイリス様の背中に乗って移動すればあっという間だ。すぐにマトキン男爵の領主館を訪ねた。ファイリス様はドラゴンの姿で登場したので、町は騒然となっていた。慌ててマトキン男爵と婚約者のザーラさんがやって来た。
「マトキン男爵、先触れも出さず、失礼かと思いましたが、少し相談したいことがありまして・・・・」
「そ、それはいいのですが・・・・ところで、何用で?」
何とか落ち着きを取り戻したマトキン男爵とザーラさんに事情を説明する。
すると、ザーラさんは涙を流しながら言った。
「古龍様にお会いできるなんて、本当に幸運です。それに従者を募集しているなんて!!
もしお腹に子供がいなければ、領主婦人の座を投げうってでも私が従者となったものを・・・」
「おい!!ザーラ。というか、最近私への態度が冷たくないかい?」
「貴方は黙っていてください。これはリザードマンの一大事なのです。従者の件ですが、里で募集すれば希望者多数でしょう。選抜するのが大変なくらいです」
「分かりました。それでは里にこれから行きませんか?ファイリス様に乗れば、すぐですので」
「そ、そんな恐れ多い・・・・」
ザーラさんは気絶してしまった。
★★★
ザーラさんが復活したところで、マトキン男爵とザーラさんと共にファイリス様の背に乗って移動する。
里に着くと案の上、大騒ぎになった。
やって来たザーラさんの父親の族長に事情を説明した。
「なるほど・・・それなら我が娘達が適任かと思います。他の者達は羨ましがると思いますが、そこは族長権限でねじ伏せますよ」
これで、争いごとなんかは絶対にやめてほしい。
すぐに感動の表情を浮かべたリザードマンの若い娘たちがやって来た。
「ジーラです」
「ズーラです」
「ゼーラです」
ザーラさんの妹達から挨拶を受けたファイリス様が言う。
「うむ、まあよかろう。ただし、妾の指導は厳しいぞ。いばらの道と思え」
「「「はい!!」」」
何をどう指導するのかは分からないけど、厳しいことだけは確かだ。
続いて、ファイリス像の建設についての要望を行う。
「費用はこちらで負担しようと思うのですが、建設に必要な人員を・・・」
「聖女様、気にしないでください。こちらですべてやります。ただ、技術者がいないので、そこさえ何とかなりましたら」
「そうですか、それならこちらのゲディラを派遣します」
これにゲディラが難色を示す。
「そんなことをしたら、カレン像の完成が遅れてしまうッス!!みんな楽しみにしているんスよ」
私の像なんて、作らなくていいのだけど・・・・
「ゲディラ、私のことは気にしなくていいの。まずはリザードマンの方達の幸せを大事に考えてね」
「流石は聖女様ッス。分かったッス」
ここでマトキン男爵も会話に入って来る。
「聖女様、何から何まで悪いので、像の建設費用は我が領で負担します。ここに像を作って人を呼び寄せれば、収入アップ間違いなしです。街道の宿場町からこちらに誘導すれば、大勢の方にお金を落としてもらえますからね。
その代わりと言ってはなんですが、こちらで定期公演を開いてもらえないでしょうか?3ヶ月に1回でも構いませんからね」
マトキン男爵は本当に商売上手だ。
こちらに移動するのはファイリス様に乗ってなので、ファイリス様を見に来るだけでも多くの人が寄って来る。特に古龍を信仰している種族は特にだ。この里も人口が爆発的に増えているしね。
これで、従者の確保とファイリス像の建設の目途は立った。
後はファイリス様の予算の確保だけど・・・・・
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