54 聖女、火龍にタカられる
私は今、エリーナとともに領主館の応接室で美少女と応対している。その美少女はオレンジの髪で、燃えるような赤い瞳、年齢は15歳前後と言ったところだろうか。この美少女は普通の美少女ではない。伝説の古龍が人化したものだ。
お茶とお菓子を出して、とりあえずもてなす。
「これは旨いもんじゃな。古龍ともなると基本的に食事は必要ないのじゃが、久しぶりに食べるといいものじゃな」
「ところでファイリス様、先程からエリーナを連れて帰るという話だったのですが・・・・」
「ああ、そのことか。では聞くが「龍騎士」とはどんなジョブか分かるか?」
エリーナが答える。
「そ、それは、龍を従える者だと思います」
「何じゃと!!全く話にならんわ!!」
ファイリス様は怒り出してしまった。
「「龍騎士」とは、古龍のお世話をする者のことじゃ。人間で言えば、執事兼従者兼メイドみたいなものじゃ。護衛も含まれるかもしれんが、妾達の方が強いから必要なかろう。ということで、お主は妾のお世話をするのじゃ」
「龍騎士」の意外な真実が判明してしまった。これじゃ、上級職と言ってもハズレジョブじゃないか!!
誰がこんなジョブを・・・ってあの馬鹿女神の所為か。
「ちょっと待ってください!!いきなりそんなことを言われても困ります。私はこちらのカレン様の従者です。カレン様は聖母ガイア様の御使いでいらっしゃいます。いくら古龍であらせられても、格で言えばカレン様のほうが・・・・」
「なに!!妾がそこにおる人間の小娘より劣っていると申すのか?」
エリーナ!!やめてよ、ヤバいドラゴンを煽るのは。
私は慌てて、話題を変える。
「そ、そうでした。今日は皆でご馳走を食べるのでした。ファイリス様も是非ご一緒にいかがですか?新鮮な魚介類が食べられますよ」
「なに!!それは誠か?妾をもてなそうという心意気は気に入った。存分にもてなすがよいぞ!!」
何とか話題を変えて、接待する方向に持っていけた。
しかし、根本的な解決にはなっていない。
★★★
コイツ!!どんだけ喰うんだよ!!
ファイリス様は出された大量の料理を次々と平らげた。
「これは旨いぞ!!カレンとやら、褒美をやろう。何なりと申せ」
「急に言われましても・・・」
「流石にここまでの物を食べさせてもらって何もせん訳にはいかんからな・・・・そうじゃ、これならどうじゃ?」
ファイリス様が手渡してきたのは、鱗のような物だった。これにはコウジュンが驚愕の声を上げる。
「こ、これは・・・古龍の鱗ではありませんか!!金貨どころか白金貨何十枚といったレベルの品ですよ」
白金貨何十枚だって!!
北街道の建設費とほぼ同じくらいじゃないか!!
「そうなのか?人間は妾達の鱗を喜ぶと聞いたが、ここまで喜んでくれるとは思わなんだ」
ファイリス様もご満悦の様子だ。そして、続けてこう言った。
「旨い物を食わせてもらったし、妾は帰るとするかのう」
そう言うとファイリス様は領主館の外に出て龍の姿に戻り、飛び去ってしまった。
エリーナは言う。
「一体、何だったんでしょうか?ご飯だけ食べて帰って行きましたし」
「そうね。まあ、よかったんじゃない。古龍なんて私達には想像もつかない伝説の存在だしね。もう会わないことを祈るのみだわ」
この私達の祈りは届くことはなかった。
次の日、ファイリス様はまたやって来た。
「旨い料理で妾を誑かしおって!!もう許さんぞ!!」
何を言っているのだろうか?
勝手に来て騒いで、勝手に帰ったのはそっちだろうが!!
そう思ったが、言えるわけもない。
「ファイリス様、どうか落ち着いてください。今日は美味しいカレーを用意しております」
「腹は立つが、用意しておるならば仕方がない。とりあえず食べてやろう」
ファイリス様は、カレーを大変気に入ったようで、お代わりをしている。
「この辛さがたまらん!!もっと辛くてもいいがな。どんどんもってこい」
機嫌が直って本当によかった。そして今回も古龍の牙をくれた。
「今日も旨かった。それでは妾は帰るとしよう」
ちょっと待って!!これじゃあ、昨日と同じパターンじゃないの!!
「ファイリス様、お待ちください。ご用件があったはずでは?」
「おお!!そうであった。サラちゃん達、そしてそこの猫娘、妾と一緒に来るのじゃ」
古龍というのは、話を聞かない種族なのか?そういえば馬鹿女神も話を聞かなかったしね。
エリーナは言う。
「昨日も言ったように私はカレン様の元を離れようとは思いません。それにミニサラ達だって、交代で棲み処には帰っていますし・・・」
「それなら、カレンが首を縦に振ればよいのじゃな?カレンよ、妾はそれなりの財宝は持っておるぞ。好きなだけやろう。それで手を打て」
そんなことで、エリーナを手放すわけないじゃないの!!
「ファイリス様、御言葉を返すようですが、この話はお受けできません。エリーナは私の大切な従者ですから」
「ほう、人間の分際で妾に逆らうというのか?面白い」
「そういうことではありません。話合いで解決できればと思っているのです」
こうして、エリーナの将来を懸けた交渉が始まったのだ。
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