53 聖女、火龍に襲撃される
19歳になった。
北街道の交易も順調で、資金も増えたし、クレメンス子爵領、ジョーンズ伯爵領、オルマン帝国の北西部が一大交易圏となった。交易圏の中心都市であるエルサラ、オルマン帝国との玄関口であるレーベは大発展を遂げてる。
不本意なことといえば、聖母ガイアの巨大な像が完成し、その横に私の像の建設が始まったことぐらいだろうか。
本当に恥ずかしすぎるので止めて欲しい。
我が領の発展は順調なのだが、教皇派の連中も動きはあった。私が王都ルキレシアでの生活拠点となる屋敷をいつまで経っても購入しなかったので、教皇派が説明を求める使者を送って来た。この使者に対しては、「ジョーンズ伯爵の別邸を間借りする」と伝えたところ、かなり驚かれた。
「貴族としてのプライドはないのですか?よその貴族の屋敷を間借りするなど・・・・」
「私の贅沢のために高額な屋敷を手に入れる必要はありません。そんなお金があれば、領民や貧しい人の為に使うでしょう。それが聖母ガイア様の思し召しです」
使者は黙り込んでしまった。
それはそうだ。私の言っていることは正論だし、神様を出されたら言い返すことなんてできないだろう。
悔し紛れに使者が言う。
「だったらいつから王都ルキレシアに住まれるのですか?」
「そうですね。今は治療術士の認定などで非常に多忙です。期限ギリギリとなると思います」
「分かりました。そのように伝えます。期限を超えるようなことがあれば、叛意ありとされますので、くれぐれもご注意を」
使者は去って行った。
このようにしたのも実は意味があってのことだ。相手がやって来ることなんて、ある程度は予想できるからね。
★★★
忙しい日々を過ごしていたある日のこと、執務室でエリーナに声を掛けられる。
「カレン様、今日は凄くウキウキしてますが、どうされたのですか?」
「ああ、顔に出ちゃってたのね。実は今日、ジョーンズ伯爵領からアイテムボックス持ちの商人が来て、新鮮な魚介類を持ってきてくれるの。刺身もお寿司もいっぱい食べられるから楽しみなのよ。前にお父様とお母様にも食べてもらったときは大喜びだったからね」
アイテムボックスというのは異空間にアイテムを収納するスキルのことで、食品などは鮮度そのままで輸送できるのだ。使えたとしてもあまり多くは収納できないのだが、それでも重宝されるスキルではある。
「それは楽しみですね。私も新鮮なお魚は大好きですから、ワサビもあります?」
「当然よ。それに新メニューのレシピもあるみたいだから、それも楽しみね」
そんな他愛ない話をしていたのが嘘のような報告が飛び込んでくる。ゴードンが執務室に駆け込んできた。
「た、大変です!!龍です。ドラゴンです!!火を吹いてます!!」
「落ち着いて!!まずは現場に行きましょう」
ゴードンとエリーナ、領兵を率いてドラゴンがいるという現場に向かった。現場にはコウジュンとドロシー、アズイーサが居て、事情を聞く。
「こちらのドラゴンは、『可愛いサラちゃん達を返せ!!』と言っているんですが、意味が分からないのです。それで、こちらが分からないと答えると怒り出して、火を吹き始めたんです・・・・」
高位のドラゴンは人語が理解できるというし、ここは交渉をしてみるしかないわね。
私はドラゴンの前に歩み出る。
間近で見るとドラゴンはかなり大きい。10メートルはある高さで横幅も広い。それに真っ赤な鱗が特徴的だ。
「私はクレメンス子爵家の長女カレン・クレメンスです。お怒りの御様子ですが、何か私達に至らない点があったのでしょうか?」
「何を今更言っておるのじゃ?貴様らはここまで来て白を切るのか?お前達が妾の可愛いサラちゃんを連れ去ったのは分かっておるのじゃ!!クマキチから聞いておるし、それにサラちゃん達の匂いもするしな」
サラちゃん?
もしかして・・・・
「お伺いしますが、サラちゃんというのはミニサラマンダーのことでしょうか?」
「そうに決まっておるじゃろうが!!」
私はエリーナにミニサラ達をここに連れてくるように指示する。
「少々お待ちください。すぐに連れて参ります」
しばらくして、エリーナがミニサラ達を連れてくると、ミニサラ達は大喜びで赤いドラゴンに飛び付いた。この大きな赤いドラゴンとミニサラ達は知り合いのようだった。それから推理すると、このドラゴンはヘルフレイムグリズリーさんが恐れていた火龍ということになる。絶対に遭遇したくないとは思っていたのだけど・・・・。
ドラゴンはミニサラ達との再会を喜んだ後にこちらに向かって言った。
「サラちゃん達から聞いたが、妾の早とちりだったようじゃ!!申し遅れたが、妾
は偉大なる古龍の火龍、ファイリスである。サラちゃん達をもてなしてくれて礼を言う」
「分かっていただけて幸いです」
「うむ、妾にとって人間どもに特に興味はないからな。それでは、これからサラちゃんを連れて帰るぞ」
これにエリーナが待ったをかける。
「我が名は龍騎士エリーナ!!ミニサラは私の大切な仲間です。いきなり連れ帰ると言われても困ります!!」
「何を!!それに龍騎士だと?」
何やらドラゴンはエリーナを観察し始めた。
「なるほど・・・これは珍しい。何百年ぶりかのう?よし!!そこの猫娘!!妾の従者にしてやろう」
ちょっと話が見えてこないんだけど・・・・
「あのう・・・エリーナは私の大切な従者でして、連れて行くと言われましても・・・」
戦闘は回避できたが、別のややこしい事態が発生してしまった。
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