51 聖女、各地を巡る
1年が経ち、クレメンス子爵領からジョーンズ伯爵領までの街道が通行できるようになった。通称「北街道」と呼ぶことになったのだが、街道に面した領地を回ることにした。領地は全部で5箇所で、北街道ができるまでは、いずれもアバウス伯爵領を通行しなければ他領と交易することができない立地条件なので、アバウス伯爵に高額な通行料をむしり取られていたようだった。
北街道は通行料を取る予定はなく、どんどんと利用して交易に役立ててもらいたかったし、クレメンス子爵領からジョーンズ伯爵領まで、馬車で3日は掛かるので、宿場町でも整備すれば大きな儲けになるだろう。
そのような状況なので、街道のPRと交易などの説明で私達は各領地を巡回することにした。どこも基本的には好意的に迎えてくれたのだが、「急にアバウス伯爵に通行料を払わなくなったら、嫌がらせをされるかもしれない」と不安を口にする領主もいた。
これは予想できたことなので、神官騎士団が巡回して治安維持に当たることや治療術士を派遣することを話すと安心したのか、積極的に自領の特産品を売り込んできた。
「本当に街道ができてよかったですよ。これならアバウス伯爵に搾取されずに済みます。売り先が一つじゃなくなりますからね」
それはそうだろう。どんなにいい商品でも買い手が一人ならば、買い手に有利になってしまう。北街道を利用すれば、クレメンス子爵領、ジョーンズ伯爵領、他の街道沿いの領が売り先となるので、買い叩かれることはなくなるだろう。
実際、質はいい物が多かったので、十分街道沿いの領は潤うだろう。
北街道沿いの私達の活動も終盤に近付いた。私達はジョーンズ伯爵領から馬車で1日の距離にあるマトキン男爵領立ち寄った。早速マトキン男爵が出迎えてくれた。
「聖女様、お待ちしておりました。何もないところですが、ゆっくりしていってください」
マトキン男爵は22歳の若い領主だった。若い割にはしっかりとした考えを持った人物で、領を発展させる施策もよく考えられていた。
「この領には特産品と呼べるものはありません。綺麗で豊富な水はありますが、作物はどれもありきたりで、目を引くようなものはありません。なので、私達は宿場町として発展していこうと考えています。今のところ、宿場町を建設している領はないので、早めに工事に着手を・・・・」
なるほどね。
交易品で稼げないから、宿場町で稼ごうというのか。よく考えられている。
「こちらも協力しますし、ジョーンズ伯爵も協力してくれると思いますよ。すぐにできることと言えば、神官騎士団の駐屯地を置くことと、治療術士の派遣ぐらいでしょうか」
「それでも有難いです。後は特産品を見付けたいのですが・・・・」
マトキン男爵の説明によれば、領地の3分の1が獣人の居住区で統治に上手くいっていないらしい。そこには新しく特産品になりそうなものがあるかもしれない。しかし、ほとんど交流がないそうだ。
「そうなったのも、私にも原因があるのです。おい!!ザーラ」
マトキン男爵はリザードマンの女性を私達の前に呼んだ。
「実はこちらのザーラと結婚を考えてまして、結婚の話をしたところ、ザーラの部族とこちらの親族とで諍いが起きてしまって・・・・それから少し疎遠になっているのです」
よくある話だ。「獣人と結婚するなんて信じられん!!」とか言うやつだ。このルキシア王国では教会が主導で獣人に対する差別を認めてきた歴史があるからだ。
呼ばれてきたザーラさんはというとなぜか泣き崩れていた。
「おい、ザーラ!!聖女様に挨拶くらいしなさい」
「そ、そんな・・・あり得ない・・・龍の御使い様がいらっしゃるなんて・・・」
しばらくして、落ち着いたザーラさんから話を聞く。リザードマンは古龍という古から存在している龍を崇拝しているらしい。自分達は古龍の末裔だと信じているそうだ。
そして今日、エリーナが連れて来ていたミニサラマンダーのミニサラ達を見て、感激して涙を流したそうだ。
「こちらのミニサラ様は龍の御使いであらせられます。それにエリーナ様は伝説の龍騎士だとか・・・もう感動が抑えきれませんでした」
当のエリーナとミニサラは困惑していた。
あっ!!でもこれは使えるかもしれない。
「ザーラさん、よければ私達をザーラさんの集落に案内してもらえないでしょうか?マトキン男爵も一緒にですけど。愛する二人のお手伝いがしたいと思いまして」
「も、もちろんです。族長の父も集落のみんなも大喜びすると思います」
ということで、私達は予定変更してザーラさんの故郷の集落に向かうことになった。
ザーラさんの集落は街道から2日の距離にあった。ここに住んでいる9割がリザードマンだという。私達が集落に入ろうとするとザーラさんの父親でもある族長が取り巻きを連れて出て来た。
「誰が来たかと思えば、泥棒領主ではないか!!何度来ても答えは変わらん。ザーラを置いて帰れ!!」
「お義父様、ちょっとお話を・・・」
「お前にお義父様と呼ばれる筋合いはないわ!!」
マトキン男爵と族長でそんなやり取りをしているところにザーラさんが割って入った。
「お父様、今日来たのはそんな些細なことではありません」
これにはマトキン男爵がショックを受けている。
「そんな・・・僕達の結婚が些細なことだなんて・・・・」
「貴方は少し黙っていてください。これは種族の悲願でもあることなのですから。それよりお父様、こちらの方をご覧ください」
ザーラはエリーナとミニサラ達を紹介する。
「こ、これはなんと・・・・生きているうちにお目に掛かれるなんて・・・・皆の者!!龍の御使い様にひれ伏せ!!」
なんと、族長たちはミニサラに土下座を始めた。
私は少し、落ち着いた頃に族長達に声を掛けた。
「立ち話もなんですから、集落の中でゆっくり話をしませんか?もちろんミニサラ達も一緒にですが」
「どこの誰かは存じませんが、どうぞお入りください」
ミニサラのお陰ですんなりと集落に入ることができたのだった。
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