49 聖女、思わぬところから攻められる
「聖女殿の提案は受け入れるとしよう。しかし、教皇として一つ忠告しよう。あまり調子に乗らないほうがいい」
教皇にそう言われたものの。私の改革案は満場一致で可決されることになった。こちらが過半数を得られているので、教皇が拒否権を発動しないかぎり、私の改革案が通過することは予想していたのだけれど、意外にあっさりと認められたことにかなり拍子抜けした。
コウジュンは言う。
「もう少し嫌がらせをしてくるかと思いましたが・・・・逆に何かやってきそうで心配ですね」
やはりそう思うのか。
油断したところで、暗殺部隊を差し向けるとか?
しかし、そんなこともなく、王宮に行っていたお父様とお母様と無事に合流することができた。合流したとき、お父様とお母様は深く沈んでいた。陞爵した人の顔には見えない。
「お父様、どうされたのですか?そんな浮かない顔をして」
「カレン、それがね・・・・」
お父様が話した内容は衝撃的だった。私も従者達もやられたと思った。要約すると子爵以上の爵位にある領地持ちの貴族は王都アリレシアに当主又はその家族を住まわせなければならないという制度が正式に運用されることになった。実質の人質政策だ。
教皇派の領主は王都に親族を住まわせているから問題はないが、私達が一番影響を受ける。王都に土地を購入し、別邸を建設するとなると相当な出費だ。
これじゃあ、私とお父様とお母様は離れ離れになってしまうではないか!!
私が途方に暮れていると現ジョーンズ伯爵領の当主で、ポールさんのお父様が言った。
「救いは、運用が2年後ということだ。僕はこれを機に当主を正式にポールに譲ることにするよ。ポールとアンジェリカさんが領地を離れたらそれこそ領地が崩壊するからね」
これにお父様も続く。
「なら私も引退しようかな。カレンに任せて・・・」
そう言うお父様の背中は寂しそうだった。
クレメンス子爵領が大発展したのは、専ら私のお陰というのが世間の評価だ。しかし、辛く厳しい時代を耐え忍び、何とかやりくりしていたお父様は、決して無能は領主ではないのだ。やっと領地経営が軌道に乗り、これからというときにお父様から領地を取り上げるなんてできない。
ここまで私が好き勝手にできたのも、お父様とお母様がしっかりと領地を守ってくれたからだ。
コウジュンが言う。
「王家の策を読めなかったのは、自分の責任です。この借りは絶対に返します。なので、一度領地に戻りましょう。対策はその後です」
★★★
領地に帰り、対策を練る。私やお父様、お母様、従者達、教会の派閥の関係者が揃って会議をしている。
この場合どうしていいか分からない。私が王都に行くほうが・・・・でもそうしたら従者達は私についてくるというだろうし、どっちみち私達親子が離れ離れになることは変わりない。
そんなとき、コウジュンが驚きの提案をする。
「ここで私から提案がございます。独立するのです」
「はい?」
独立?
あの独立戦争とかするやつ?
コウジュンが続ける。
「現在、我々は北部のジョーンズ伯爵領に向けて街道の整備、開発を行っています。クレメンス子爵領とジョーンズ伯爵領が中心となり、周辺領主を巻き込んで独立するのです」
「ちょっとコウジュン、待ってよ。話が大き過ぎてついていけないわ。それにジョーンズ伯爵領と一緒にって言うけど、ポールさんには確認は取っているの?」
「もちろんです。特にアンジェリカ様が乗り気でしたよ。『抗争ね。燃えて来たわ!!舐められっぱなしで腹が立ってたのよ』と言ってました。今回の実質人質政策に引き続いて、増税を考えていたようですからね。我が領やジョーンズ伯爵領の富を根こそぎ持っていこうとしているようですから」
アンジェリカさんは前世が極道の姐さんだからね。怒らせるとかなり怖いから・・・
「協力が得られたのは分かったけど、この場合、王様って誰がするの?ポールさん?それともお父様?」
「政治体制については、アンジェリカ様から助言をいただきました。領主、商業関係者、職人組合、教会関係者の合議制にしてはどうかということです。アンジェリカ様の発想は天才的です。どうしたらこんな考えが浮かぶのか不思議ですが、今なら領主に個別で陳情するしかなかった商業関係者、職人組合、教会関係者は賛成するでしょう。公然と意見を言える場が設けられるのですから」
アンジェリカさんは元日本人で転生者だから、これぐらいのことは思い浮かぶだろう。
ここでデブラス枢機卿が恐ろしいことを言う。
「この合議制はいいものだと思います。聖母教会も形上は合議制を取っていますからね。そこで私の提案なのですが、教皇のように拒否権を持った存在が必要だと考え、聖女様にその役目を担っていただこうと思うのです。合議で決まった案件を聖女様が承認するという形を取るのです。そして新しく起こす国名を「神聖国ルキシア」とします。
聖女様がこちらが本来の正しい国家で、聖母教会もこちらが本流だと宣言してもらいます。そしてエルサラを聖都として・・・・」
デブラス枢機卿が興奮している。
つまり、私が領主を含めた議会よりも上の存在になるということだ。実質私が女王じゃないか!!
これには従者達も盛り上がる。
「つまり、カレン様の国ってことですね」
「お嬢様の国って・・・このゴードン、嬉しすぎて涙が・・・」
「じゃあ、ガイア像を作った後でカレン様の像を作ってもいいってことッスね?」
「そうしましょう。ガイア像を作ったノウハウを活用すれば、もっといいものが作れるわ」
これにはお父様もお母様も満更ではない様子だ。
ちょっと待ってよ。少し冷静になろうよ。
「みんな冷静になって!!血みどろの戦いとかは嫌よ。それにこの前、戦略会議をしたとき、戦力は拮抗しているって言ってなかったっけ?」
私の発言にアズイーサが答えた。
「それは大丈夫だ。我がブラックスローズ家が全面的に支援する。聖女様の建国に助力できるなど大変な名誉だ。武功を上げる機会などここ100年以上ないからな。皆いきり立っておるぞ!!」
オルマン帝国の四大公爵家のブラックローズ公爵家が全面的に支援してくれるなら、可能かもしれない。
「分かったわ。とりあえず独立することが可能っていうのは・・・・でも、もうちょっと冷静になって検討しましょうよ」
そう言うのが精いっぱいだった。
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