46 聖女、教会本部に喧嘩を売ってしまう 3
3日後、私はアズイーサ様に合同訓練へ参加するように命じられた。深い森に着くと訓練が始まった。今回はウサール枢機卿も参加している。アズイーサ様の声が響く。
「訓練内容は簡単だ。バディを死なせるな!!」
今回はこの森で魔物の討伐訓練を行うという。私とバディを組むのは神官騎士の女性マグダラだった。黒髪の小柄な女性で、教会本部からの移住組だ。特に仲が良かったわけではないが、仕事で何度か顔を合わせた程度だった。
「久しぶりですね。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「作戦通りにお願いします。私の魔力が切れるまでは回復魔法は掛けないでくださいね」
挨拶を交わして、訓練に入る。すぐに魔物が襲い掛かって来た。マグダラはビキニアーマーしか身に付けていないので、すぐに傷だらけになった。しかし、すぐに回復魔法で回復する。
マグダラがここまで回復魔法が使えたことに正直驚いた。教会本部の神官騎士で回復魔法が使えるのはごくわずかなのに。
しばらくはマグダラだけで討伐していたが、武器が木剣では流石に魔物達を倒しきるのは厳しいのだろう。
「魔力切れです。回復魔法をお願いします」
「分かった!!ヒール!!」
アズイーサ様の訓練を受けて、私は中級回復魔法が使えるようになっていた。それも2~3回で魔力が切れることもなくなっていた。マグダラの傷もどんどんと塞がっていく。
しばらくはそんな攻防が続いた。流石に魔力回復ポーションを2~3本飲んだが、失禁するようなことはなかった。
これなら、いつもの訓練のほうが厳しい。マグダラもいい感じだし、このまま押し切れば・・・・
甘かった。
B級モンスターのグレートホーンが現れた。大型の牛の魔物で、鋭い角での攻撃が強力だ。
そして、他の魔物との戦闘でフラフラになっていたマグダラの腹をその鋭い角が貫いた。
「ま、マグダラ!!」
私は無我夢中だった。
気付いたらグレートホーンを殴りつけていた。
「ホーリーブロウ!!」
ドゴーンという大きな音とともにグレートホーンは吹き飛んだ。しかも顔がつぶれている。もう生きてはいないだろう。
そんなことより、まずマグダラだ。腹に大きな穴が空き、大量に出血している。
こんなの私には無理だ!!
でも私が諦めたらここでマグダラが・・・・
私は必死で回復魔法を掛け続けた。
マグダラの体が光に包まれた。そして、奇跡は起きた。マグダラが生き返った。
私はマグダラの側で呆然としていたのだが、異変に気付いたウサール枢機卿とアズイーサ様がやって来た。
ウサール枢機卿が言う。
「こ、これは・・・蘇生したのか?まさか・・・上級回復魔法を?」
「そのようですね。それにさっきの攻撃は間違いなく神聖魔法です」
どうやら私は、極限状態で上級回復魔法と神聖魔法を習得してしまったようだった。
訓練後、ウサール枢機卿とアズイーサ様に執務室に呼ばれた。
「ちょっと紹介したい人物がいるんだ。フローラ殿!!」
フローラ?
一目見て分かった。変わり者の研究者として有名なフローラ枢機卿だった。正統派に所属していて、鍛錬にしか興味がないウサール枢機卿と並んで、研究馬鹿と呼ばれている。
そして入ってくるなり、矢継ぎ早に話始める。
「やっぱりそうだったんだわ。詳しく聞かせてもらうわよ。まだ仮説の域は出てないけど、回復魔法や神聖魔法の発現条件が分かりそうだわ!!」
「フローラ殿、アンボイ殿が困惑しているので、まずは仮説から話してはどうだろうか?協力を求めるのはそれからでも・・・・」
「そうですね。じゃあ、聖母ガイア様のお告げから・・・・」
フローラ枢機卿が言うには、聖母ガイア様から神官騎士団に回復魔法を習得するようにお告げがあったらしい。そして、回復魔法は使えば使うほど能力が向上する。魔力量も毎日枯渇するまで魔法を使えば自然と増えていくとのアドバイスもあったそうだ。
それを実践し、改良を加えたのが今の訓練のようだった。
「それで同じ訓練をしていても、中には上級回復魔法を習得したり、神聖魔法を習得したりする者がいるのよ。どういう条件があるのか調べていたんだけど、一つの仮説が浮かび上がったの。
「他者を救いたいという強い思い」に関係するんじゃないかってね」
言われてみればそうだ。あのとき、マグダラを死なせたくない、何が何でも助けてやると強く思った。
私は当時の状況を詳しく説明した。
「才能の有無はあるけど、やっぱり私の仮説は間違いないと思うのよね」
「だが、習得の為に命の危険に晒す訓練をするのは、流石に危険すぎるだろう?下手したら死人が出るぞ」
「ウサール師匠、高みに登るためには多少の犠牲は・・・」
「アズイーサ!!それは流石に聖女様に怒られるぞ」
危険な会話が聞こえてきた。
ただ、一つだけ分かったことは、訓練を乗り越えれば回復魔法を高確率で習得できるということだ。今まで私の回復魔法が伸びなかったのは、才能のせいではない。私の覚悟と努力が足りなかったからだ。
私は決意した。
すぐに報告書を作成し、企画書も作成した。
そして、王都ルキレシアに帰還し、上司に意見具申した。
「神官騎士団の本部をエルサラに移設し、訓練をウサール枢機卿達に任せるべきです。合わせてシスター見習いや聖女候補もエルサラで訓練させるべきかと。この資料をご覧ください・・・・」
私は上司に向かって熱弁した。
これが私の運命を大きく変える出来事になるとは知らずに・・・・
★★★
私は今、目の前にいる男に土下座されている。
土下座している男はアンボイという男で、少し前に教会本部の使者としてやって来た男だ。
「申し訳ありませんでした。王都ルキレシアに帰還し、エルサラで行われている訓練の有用性を示し、神官騎士団ごと、エルサラに移設してはどうかと意見具申をしたのですが、教皇以下教会本部の上層部を怒らせてしまいました。そして、私の意見具申が原因で神官騎士団と上層部が対立し、神官騎士団の8割がこちらに移住することになってしまいました。彼らの思いは本物なのです。どうか、こちらに住まわせることを許可してください」
「えっと・・・」
思考が追い付かない。
とりあえず、アンボイを鑑定してみる。
名前 アンボイ
年齢 26歳
ジョブ 「聖闘士」
スキル 「回復魔法大」「神聖魔法小」
健康状態 良好
「聖闘士」!!
素手で戦うことが得意な「拳闘士」の上位互換で、「聖騎士」と対をなすジョブだ。それに上級回復魔法はおろか、神聖魔法まで習得している。
私が混乱しているとコウジュンが状況を把握してくれた。
「分かりました。非常に有難いことですが、問題があります。増えた神官騎士団をどのように養っていくかということですね。教会の補助金は教皇達が牛耳っているので、今後カットされることは目に見えています。なので、増員分を合わせた約3万の神官騎士団を維持できるだけの収益を得る必要があるのです」
労せずして、私の正統ガイア派は軍事面において、どの派閥よりも巨大な力を手に入れてしまった。
このまま細々と暮らそうと思っていたけど、どうやら無理そうだ。
更に領地を発展させなければならなくなった。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!




