45 聖女、教会本部に喧嘩を売ってしまう 2
教会本部から使者がやって来た。アンボイと名乗る20代半ばの男だった。ジョブは「教会関係者」でスキルは「回復魔法極小」を持っていた。他に特筆すべきスキルはない。
教皇からの書状を確認する。
ざっくり言うと、私はウサール枢機卿とアズイーサに指示をして、普段指導している方法を取らせず、逆に危険な訓練をさせ、神官騎士や聖女、シスター達を危険に晒した。
その理由として治療術士の利権を独占しようと画策しているとのことだった。
私は反論する。
「そもそも私は、聖母ガイア様のお告げを伝えただけで、訓練には一切関与してません。それに今現在、どのような訓練をしているかは全く分からないのです。それはウサール枢機卿か剣姫アズイーサに確認すればよろしいのでは?」
「確認しても同じことを繰り返すのみです。『普段と変わらない訓練指導を行った』とのことです。私は信じられないのですよ。あんなイカれた訓練があっていい訳はない。私も治療術士を志した人間です。才能がなくて、諦めましたが。
そんな私から見ても、あの訓練は常軌を逸しています。聖女様の指示があったと思うのは自然のことだと思いますがね」
まあ、普通の感覚を持っていればそう思うよね。
「それでも、実際に回復魔法を身に付けた者もいるようではありませんか?」
「それだけでは疑いは晴れませんよ。なぜなら、回復魔法を習得した者は軒並みクレメンス子爵領に移住してますからね。それに多くの神官騎士達もこちらに移住しております。聖女様が何か良からぬことを考えているのではと、勘繰る者も多いのですよ」
実はシスター達だけでなく、神官騎士達も1000名程移住してきているのだ。そう思われても仕方ない。
ここでコウジュンが思いもよらない提案をする。
「失礼ですが、アンボイ殿は回復魔法の腕前はどの程度なのでしょうか?」
「そうですね。軽い擦り傷や切り傷が治せる程度です。それに魔力量が少なく、2~3回使えば魔力切れですよ」
「だったら、ウサール枢機卿やアズイーサ殿と一緒に訓練を受けてみてはどうでしょうか?それで、アンボイ殿の回復魔法が上達すれば、正しい訓練をしているということになると思います」
アンボイは少し考えてこう答えた。
「私も一度は治療術士を目指した人間です。本当は別の訓練をしているのであれば、それをさせてください。もしそうしていただけるのなら、教皇直属の神官騎士団に間違った訓練をさせたことは不問にしましょう」
ああ、可愛そうに・・・・悪役令嬢風に言うのなら「地獄へようこそ」だろうか。
まあ、スキルに「回復魔法極小」があるしね。私だってそこから中級まで育てたんだから、大丈夫でしょう。
★★★
~アンボイ視点~
私が回復魔法が使えると分かったのは、10歳のときだ。小さな村だったので、村の期待を一身に背負って聖母教会本部にやって来た。しかし、私の回復魔法は大した才能ではなかった。切り傷や擦り傷を治せるくらいで、2~3回使うと魔力切れを起こしてしまう。
私は治療術士としての道をスッパリと諦め、勉強に励み、教会職員として歩み始めた。村の期待を背負って村を出て来たので、成果があるまでは絶対に帰れない。
あるとき、クレメンス子爵領で聖女が現れ、優秀な治療術士を多く誕生させたという噂が流れて来た。調査したところ、間違いはないようだった。教会本部の上層部は聖女が特別な秘儀を使っていると考え、指導者を招致することにしたのだ。私は別の部署で勤務していたが、非常に興味があった。そんな方法があるなら私だって高度な回復魔法を習得できるかもしれない。
しかし、神官騎士団と聖女、シスターの合同訓練を見学したのだが、訓練と呼べるものではなかった。言葉では表せない異様な光景だった。トラブルもあり、訓練は中止となったのだが、教皇以下教会本部の上層部は「聖女カレンが治療術士育成の秘密を隠そうとして、意図的に間違った訓練指導をさせた」という見方だった。そこで私は調査を命じられた。少しではあるが回復魔法が使え、それなりに治療技術の知識があるからだった。
私としては、優秀な治療術士を育成する方法に興味はあるし、まだ治療術士としての夢を諦めきれない自分もいたので、この仕事を受けることにした。そして、ひょんなことからアズイーサ様の元で訓練を受けることになってしまった。
訓練はシスター見習い達と一緒に受けるようで、私はビキニブリーフだけを着用するように命じられた。周囲を見回すとシスター見習い達もアズイーサ様もビキニアーマーを着用している。教会本部に以前勤めていた顔見知りのシスター見習いがいたので、こっそり「なぜこんな格好をさせられるのか?」と質問したところ、「すぐに分かりますよ」と言われた。
本当にすぐ分かった。ランニングや基本的な戦闘訓練をした後、二人一組で訓練を行うという。私の相手はアズイーサ様だった。
一体何をするのだろうか?
そう思った瞬間、いきなりナイフで右腕を刺された。「ギヤー!!」と叫び声を上げ、あまりの痛さに地面を転げ回った。するとアズイーサ様が言う。
「何をしている。早く回復魔法を掛けろ!!」
火事場の馬鹿力とでもいうのだろうか?
切り傷や擦り傷くらいしか治せない私の回復魔法だったが、必死で掛けたので何とか出血は止まり、傷は塞がった。
「アズイーサ様!!なぜ、このよう・・・」
今度は左腕をナイフで刺された。又必死になって回復魔法を使う。しかし、今度は左足を刺される。もうこのころには私の魔力は尽きていた。
「これを飲め!!」
渡された魔力回復ポーションを飲む。するとまた、ナイフで刺される。回復魔法を掛け、魔力が切れると魔力回復ポーションを飲み、またナイフで切られた傷を回復魔法で塞ぐ。
なんだこれは?
新しい拷問方法か?
何度も繰り返すうちに意識は朦朧として、気付いたら失禁していた。失禁すると水をぶっ掛けられた。私は恥ずかしくて死にそうだった。こんな大勢の女性の前で・・・・
しかし、周囲を見てみると訓練に参加しているシスター見習い達の多くも失禁していた。しかも特に気にした様子もない。垂れ流し状態でも必死に回復魔法を使っている。
必死な彼女達を見ると自分も負けていられないと思った。
「ほう!!いい目をしているな。なかなかに見どころがあるかもしれん。少し早いがこれを見舞ってやろう」
アズイーサ様はそう言うと、木剣で思いっきり、脇腹を殴ってきた。激しい衝撃を受け、地面に転がる。感覚だが、肋骨の2~3本は折れたと思う。
必死になって回復魔法を掛ける。普通ならそんな高度な回復魔法なんて使えないはずなのに、そのときは無我夢中だった。
多少時間は掛かったが、なんとか骨折を治すことができた。
あれ?この短期間に回復魔法が上達している。
訓練後、顔見知りのシスター見習いから話を聞く。
「最初の訓練でここまで成長するなんて、アンボイ様は凄いですよ。アズイーサ様も期待しているみたいでしたよ」
「でもあれはやり過ぎでは?」
「回復魔法は使えば使うほど上達しますが、命の危険を感じ、限界まで自分を追い込むことが上達の近道だとアズイーサ様は仰られてました。それにもっと過酷な訓練が待ってますからね」
これ以上に過酷な訓練だと?
私は絶望に打ちひしがれていた。
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