43 聖女、深く後悔する 2
訓練場所は比較的強い魔物が多く出現する森だった。強いと言っても冒険者ランクCからDランクで討伐可能な魔物なのだが、訓練では魔物を集団で討伐するのだろう。
私達が訓練場所に着くと異様な光景が広がっていた。
訓練に参加しているのは入隊して間もない神官騎士見習いとシスター見習いだった。しかし、恰好からしてヤバい。男性はビキニブリーフ、女性はシスター見習いを含めてビキニアーマーを着用していた。それに神官騎士見習いの武器は木剣しか持っていない。
流石に見習い騎士にこのクラスの魔物はきついのではないのだろうか?それに木剣しか持たせていないし。
案の上、騎士見習い達は魔物の攻撃をまともにくらい、大怪我をしている。すかさず回復魔法を掛けて復活する。神官騎士見習いの魔力が尽きると後方に控えているシスター見習いが回復魔法を掛けて復活させる。防御力ほぼゼロの装備な上に少しでも攻撃を躱そうとするとアズイーサが怒鳴り散らす。
「貴様ら!!それでも誇り高い神官騎士か?それでは聖女様が望む神官騎士になれんぞ!!」
私が望む神官騎士って一体・・・・・
神官騎士見習い達は、必死で魔物と戦っている。傷は回復しているものの、痛みはそのままだ。苦痛の表情を浮かべている。しかし、徐々に変化が訪れた。だんだんとニヤニヤとして恍惚の表情を浮かべる者が増えてきた。末期症状だ。痛みを感じすぎて、帰ってこれないところまで行ってしまったのだろうか?
更に酷いのはシスター見習い達だった。彼女達もビキニアーマーを着用しているのだが、その意味はまるで分からない。魔力回復ポーションをガブ飲みして、神官騎士見習いに回復魔法を掛け続けている。みんな必死だ。
その中で一人のシスター見習いが地面に膝をついた。すかさず、アズイーサが殴りつける。
「貴様!!何をしている。お前のせいでバディを組んでいる神官騎士見習いが死んでもいいのか?」
「嫌です!!やります。やらせてください」
彼女は失禁していた。それに失禁している女性は彼女だけではなかったのだ。
流石にやり過ぎだ。私はアズイーサに声を掛ける。
「アズイーサ、ちょっといい。少しやり過ぎではないの?」
「おお聖女様!!みんな聖女様が訓練を視察に来られたぞ!!もっと気合を入れろ!!」
コイツは前から話を聞かない。反省して心を入れ替えたと言っても、本質は変わっていないのだろう。
「失禁している子もいるし・・・流石に・・・」
「聖女様、心配には及びません。私も当初は魔力切れでよく漏らしたものですよ。魔力切れになると体に力が入らなくなりますし、魔力回復ポーションを大量に飲みますからな。まあ、ビキニアーマーなので、すぐ乾きますから・・・あっ!!そうですね。流石に匂いは慣れないと厳しいですね。
おい!!手の空いてる訓練補助員は失禁している奴に水をぶっ掛けろ!!」
何をどうツッコミを入れていいか、もはや分からない。分かったのは、みんなビキニアーマーやビキニブリーフを着用している理由だけだ。彼らは失禁することを前提に着用しているようだった。
更に状況は悪化する。シスター見習い達のほとんどが目の焦点が合っていない。変なことを口走る者も多くいた。
「花だ!!お花畑だ。綺麗だな」
「あれ?おばあちゃん?最近見なかったけど、どこに行ってたの?」
「そうか・・・ここは天国か・・・次に生まれ変わったら・・・」
一緒に居たエリーナが言う。
「魔力回復ポーションの一時的な中毒症状ですね。飲み過ぎると酩酊状態になると座学で習ったはずですが・・・」
これは止めなければ・・・・
「聖女様、まだ彼らはやれます。それに本当に危険な状態になれば、私がすぐに助けますから、もう少しこのまま見ていてください」
しばらく見ていると、神官騎士見習いもシスター見習いも気絶して動けなくなる者が続出していた。
しかし、アズイーサは止めない。
そんなとき、最初にアズイーサに殴られたシスター見習いが急に魔物達の前に出た。
危ない!!助けなきゃ!!
「ホーリーブラスト!!」
その女性は魔法を放った。眩い閃光がほとばしる。魔物達は光の刃に切り裂かれて絶命した。
「あ、あれは?」
「神聖魔法ですね。どういうわけか、極限状態に追い込まれたときに才ある者が発現することがあるのです。アンデット相手には絶大な力を発揮します。彼女は治療術士としてだけでなく、エクソシストとしても引く手あまたでしょうね」
彼女のステータスを確認すると「神聖魔法小」のスキルが発現していた。
★★★
今回私の訪問は表向きは、訓練で頑張っている騎士見習い達の激励ということだったので、今はカレーを作って訓練参加者に振舞っている。ここでさりげなく、訓練参加者の声を聞こう。無理やりやらされているのなら、止めないと・・・・
しかし、話を聞いてみると訓練に感謝しているという声がほとんどだった。
「この訓練に参加できることだけでも名誉なことなんです。それに何か自分の壁を越えられたような気もしますし・・・」
「そうです聖女様、神官騎士となるにはこれ位のことで音を上げていては駄目だと思います」
「それに剣姫のアズイーサ様に直接指導してもらうなんて、なかなかできませんよ」
この状況で訓練を中止することはできないな。
結局、コウジュンやエリーナと話し合った結果、こう指示した。
「できれば、人目の付かないもっと森の奥で訓練をしてください。流石に一般の方がこの訓練をみると腰を抜かすでしょう。それと、どうしても訓練が嫌な人は無理に参加させないでください」
「流石は聖女様だ。つまり、我々神官騎士とシスターが選ばれた存在で、才能がない者は早めに諦めさせ、新たな道を歩ませろということですね。
おい!!みんな!!我々が選ばれし聖女の騎士と認めてくださったぞ!!」
アズイーサ!!何をどうしたらそういう結論になるのよ・・・・
しかし結果として、私が認めてしまう形となった。
★★★
訓練の休憩中に男女の話し声が聞こえて来た。
ビキニブリーフを身に付けた神官騎士見習いと神聖魔法を放ったビキニアーマーを身に付けたシスター見習いが話し込んでいた。
「本当にありがとう。お前のお陰だ」
「貴方の頑張りも素敵だったわ」
「俺達に子供ができたら、絶対に神官騎士団に入団させような」
「それは気が早いわ。まあ、反対しないけど・・・」
こんなヤバい奴らがどんどん増殖するの!!
冷静に考えてみるとかなりヤバい。過激派どころか、邪神でも信仰しているのではないかと思われても仕方がない。
私は心底後悔した。ウサール枢機卿やアズイーサに訓練を丸投げするのではなく、キチンと監視しておけばよかったと・・・・
時すでに遅しだ。
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