42 聖女、深く後悔する
アズイーサだが、トルド男爵領での事件を重く見たブラックローズ家が廃嫡している。しかし、表向きは聖女である私に惚れ込み、従者となったことにしているのだ。「聖女と剣姫と勇敢な女領主」の演劇の効果もあり、誰も疑う者はいない。
エルサラに来た当初、アズイーサは不安定だった。「聖女と剣姫と勇敢な女領主」の演劇を見て、「自分は英雄などではない。勘違いした大馬鹿野郎だ」とか言って泣き出したり、逆に「我は誇り高きブラックローズ家の者だ」とか言って、ゴードンやエリーナに喧嘩を吹っかけたりと本当に大変だった。
堪りかねた私は、ウサール枢機卿に指導を頼むことにした。剣の腕前でいえば、神官騎士団で彼女に勝てる者は稀だろう。しかし、彼女は精神的に脆い。そこは鍛えたほうがいい。生粋の精神論者のウサールにイチかバチか賭けたのだ。
最初の頃は反発もあったらしい。しかし、回復魔法の訓練をしたり、簡単なポーションの調合、薬学知識を学んでいくうちに次第に反省していったという。
「これまで馬鹿にしてきた治療術士の仕事がここまで奥が深く、大変だっとは・・・・。適当に回復魔法だけ使っていればいいと思っていたのは間違いだった」
これはアズイーサに限らず、多くの神官騎士が感じたことだ。神官騎士の中にはサポ―トしてくれるシスター見習いのことを馬鹿にする者もいたそうだ。
私はシスター見習い達の地位向上にも取り組んでいた。
まず、「治療術士」に名称を統一した。
回復魔法を使えるだけで、回復術士と名乗る者もいる。なので、私達が実力を認め、試験に合格した者だけを治療術士と認めることにした。中級回復魔法を習得し、基本的な毒や病気の治療、幅広い薬学知識を身に付けることが条件だ。
多少厳しいようだが、辺境などで一人で地域医療を支えるとなるとこれ位の技量は必要だ。それに聖女認定の治療術士ということになれば、神官騎士団を退団しても引く手あまただろう。
話をアズイーサに戻すが、彼女は努力の甲斐もあり、上級回復魔法を習得していた。それに性格もかなり丸くなったようだ。ウサール枢機卿が認めるくらいだからそうなのだろう。
私は言った。
「分かりました。アズイーサのこれまでの成果を見せてください」
★★★
私とゴードン、エリーナ、コウジュン、ドロシーが案内されたのは「血のダンジョン」の3階層だった。最近新たなフロアが発見されたようで、その名もモンスターハウスというそうだ。というのもフロア中に魔物が溢れかえり、魔物を倒してもどんどんと魔物が湧いて出くるそうだ。
フロア最奥には少量ではあるがミスリル鉱石が取れるので、人気のスポットになっているようだ。
ウサール枢機卿は説明をする。
「神官騎士団ではここを最終試験場としています。評価の基準はこの場所で神官騎士として、相応しい振る舞いをすることです」
準備を終えたアズイーサが歩み出て来た。
あれ?あれって水着?
私が疑問に思っているとウサール枢機卿が説明してくれた。
「あれは訓練着のビキニアーマーです。防御力はほぼゼロです」
「なぜそれを?危険では?」
「聖女様、見ていれば分かりますよ」
しばらくして、準備を整えたアズイーサがモンスターハウスに入って行った。
「アズイーサ、参る!!」
アズイーサはビキニアーマーで両手に片手剣を装備している。私には、彼女が何を考えているのか全く分からなかった。アズイーサがモンスターハウスに入ると魔物が次々と襲い掛かって来た。私のイメージでは、アズイーサは華麗な剣技で魔物を躱して戦うのだと思っていたが、そうではなかった。
魔物の攻撃をすべて受け止めている。
私も従者達も驚愕している。
だってアズイーサはすでに血塗れだ。しかし、アズイーサは動じることはない。
「ヒール!!」
たちどころに傷は塞がっていく。
アズイーサは歩みを止めない。魔物を屠りながら突き進んでいく。
「ヒール!!」
魔物の攻撃は見るからに痛そうだ。アズイーサはそれでも止まらない。
「ヒール!!」
これってあれだ・・・・ヤバい奴だ。
しばらくして、アズイーサはモンスターハウスの最奥でミスリル鉱石を採取して、帰って来た。
「見事だアズイーサ!!」
「ありがとうございます師匠!!」
アズイーサとウサール枢機卿は抱き合って、感動に浸っている。
「聖女様、どうですか?アズイーサは合格でしょうか?」
合格も何も趣旨を間違えている気がするんだけど・・・・
ただ、この状況で合格以外の言葉はないだろう。
「合格です」
二人は大喜びだったが、私と従者達はドン引きしていた。
後日、聞いた話だが、これは私が聖母ガイアに喋らせた教えを忠実に実践しているとのことだった。
自らが傷付くことで回復魔法の使用頻度を高め、更に魔力切れまで自分を追い込むことで、魔力総量を増加させる。
ある意味合理的な方法なのかもしれない。
ただ、私がアズイーサを合格扱いしたことで、さらなる悲劇を呼ぶことになる。
★★★
数日後、私が事務処理をしていたらコウジュンとエリーナが報告に来た。神官騎士団の新隊訓練を視察して欲しいとのことだった。そこでは壮絶な訓練が行われているようだった。エリーナが言う。
「口では説明できないんですけど、異様な光景なんです。住民達も不安になっていて。訓練の指導者はアズイーサなんですが、『私は聖女様に認められたのだ。口出しするな』とか言って、私達がやり過ぎじゃないかと止めても聞いてくれないんです」
一体どんな訓練をしてるんだ?
私達は訓練の視察に向かうことにした。
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