41 聖女、治療術士を育成する 2
次はデブル枢機卿の協力を取り付けることにした。
私は事情を説明し、優秀な治療術士を多く育成したいという思いを語った。当然、今までの事業と違って採算が取れないと思っていたのだが、デブル枢機卿はすぐに賛成してくれた。
「妻からある程度のことは聞いていまして、私なりにプランを考えてきました」
デブル枢機卿が見せて来た資料を確認する。強欲に金を絞りとるプランだと思っていたが、今回はまともだった。大きく分けて二つ、治療報酬の統一と治療術士の地位向上、待遇の改善だった。
「まず、治療報酬を統一します。現在、同じ骨折の治療をしても銀貨1枚のところもあれば、金貨10枚を請求するところもあります。これでは、真面目に治療している治療術士が馬鹿を見ます。もちろん、ある程度の幅は許容しますが、まずは適正な治療報酬を設定しようと考えます」
それは私も納得する。
「いいと思います。それと治療報酬を安く設定し過ぎないようにしてくださいね」
「もちろんです。治療術士の地位向上、待遇の改善ともつながるところですので。
それと質問なのですが、聖女様の政策が成功すれば、中級以上の回復魔法が使える治療術士が多く誕生するということですよね?」
「はい、治療術士の育成については現在、ヤサク司祭、フローラ枢機卿、ウサール枢機卿と神官騎士団に協力をしてもらって、育成システムを確立している途中です。もうすでに結果は出始めています」
余談だが、従者達は全員、中級以上の回復魔法が使えるようになった。エリーナにあっては上級回復魔法を習得してしまった。これはまだ、原因が分からない。ミニサラをテイムした後に「龍神の加護」という謎のスキルが発現したからかもしれない。私の鑑定をもってしても、どんなスキルか分からないのだ。
「それで提案ですが、教会、それも地方の教会には必ず中級以上の司祭を配置するように提案します。もちろん僻地では、別途僻地手当を支給しても構わないと思っています」
やけに積極的だ。性格の悪い私は、どうも裏があるような気がしてならない。質問をしてみた。
「デブル枢機卿、何か治療術士に思い入れでもあるのでしょうか?」
「実は娘のことで、少し・・・・」
デブル枢機卿とスガクールさんの娘は回復魔法の才能があったそうだ。二人は嬉しがって、教会本部に娘を就職させたそうだ。しかし、教会本部は、実力はないのに家柄や容姿で治療術士としての地位が決まる慣習があり、それに異を唱えた娘さんはいじめられたそうだ。
そして、その環境に嫌気が差して、教会を辞め、冒険者となったそうだ。その後、娘さんは同じ冒険者と結婚し、子供もできたのだが、実家にも帰ってこないそうだ。
「私達夫婦も同じ穴のムジナと思われているのでしょうね。だから、聖女様の提案は渡りに船だったのです。治療術士が治療技術で正当に評価されるような聖母教会になれば、娘も帰ってきてくれるのではないかなと。孫の顔も見たいですしね」
「そうですね。一緒に頑張りましょうね。一気に聖母教会の制度も改革しちゃいましょうか?」
「それは止めておいたほうがいいですね。これは複雑に利権が絡むことなので。現スカム派の大きな収入源にもなっていることですし・・・。とりあえずは自領とジョーンズ伯爵領、オルマン帝国のブラックローズ公爵の派閥に属する貴族領で実績を積むしかありませんね。そして、その実績を元に一気に勝負を決めればいいと思っております」
この利権というのは、かなり根深い問題だ。詳しいことは時期が来ればレクチャーすると言っていたが、ざっくりいうと、いわゆる聖女ポジションは、金で買えるのだ。治療術士としての技能なんて関係ないし、そんなお金を払えるくらいの貴族や商家なので、回復魔法が使える者を裏で雇っていたりする。そして、情報を漏らしたりしたら、こっそり始末したりする事件もあったそうだ。
「まあ、ジョーンズ伯爵は大丈夫でしょうし、ブラックローズ公爵には大きな貸しを作りましたからね」
ああ、あのことか・・・・
「分かりました。治療報酬の案、治療術士の配置案は早めに提出してください。それとオルマン帝国の治療術士の派遣はまず、トルド男爵領でお願いします」
私は指示を出すと、実際に治療術士の育成を任せているウサール枢機卿の元に向かった。
★★★
私がウサール枢機卿を訪ねると、これまでにないくらい上機嫌だった。
ウサール枢機卿には治療術士の育成を依頼していた。これも聖母ガイアを「幻影魔法」で作り出して、こう言わせた。
「日頃から鍛錬に励む神官騎士達よ。回復魔法を習得しなさい。回復魔法を習得し、より高みを目指すのです!!
回復魔法は使えば使うほど上達します。魔力が少なくても、毎日枯渇するまで魔力を使いきれば、自然と魔力量も増えます。世界を救うためです。期待していますよ」
お告げを聞いた神官騎士達は沸き立った。早速厳しい鍛錬をしたらしい。
その結果、多数の中級回復魔法習得者を輩出し、数人が上級回復魔法を習得している。その中にはウサールも含まれているのだ。更に神官騎士団をサポートするシスター見習いにも訓練をさせて、多くの回復魔法習得者を生み出した。
そして、回復専門の女性部隊「リカバリーシスターズ」も結成したのだ。
ウサールは言う。
「この年齢で上級回復魔法を習得できるとは思いもしませんでしたぞ!!これも聖母様を信じて長年鍛錬を積んできたことが、認められたのかもしれませんな」
「そうでしょうね。聖母ガイア様はいつでも私達を見守ってくれていますから」
そんな訳ないだろう。才能のある者がある程度訓練をすれば習得が可能なのだ。
「それで他領、特に辺境と呼ばれる地域への神官騎士の派遣は可能でしょうか?」
「もちろんです。デブル殿からも聞いております。今考えているのは・・・・・」
ウサール枢機卿が言うには、神官騎士の派遣事業は、神官騎士団の幹部候補生の研修として扱うというものだった。各地に派遣されること自体が組織に期待されている証という位置付けのようだ。多分、これはデブル枢機卿の入れ知恵だろう。
「それにある程度、腕っぷしが強くなければ辺境では暮らせませんからな。戦闘力が高く、回復魔法も得意な者を選抜して、派遣するつもりですよ。
それと意外なことにシスター見習いと結婚して、夫婦で一緒に赴任したいとかいう奴らも多いんですよ。「お前ら、一体何のために神官騎士になったんだ?ここは結婚相談所じゃないぞ」と言いたくなりましたけど、時代の流れかと思い、我慢しましたぞ」
「夫婦なら楽しいかもしれませんね。二人とも回復魔法が使えるわけですから」
「だが、別れたら地獄でしょうな・・・」
「それは・・・聖母ガイア様の御心のままに」
クソ真面目な脳筋親父のウサール枢機卿ではあるが、最近は少し冗談が言い合えるようになった。思ったより悪い人ではなかったしね。すでに打合せすることは終わっていたが、雑談は続く。ウサール枢機卿は、なんでも神官騎士団を強化した功績が認められ、教皇から直々に褒賞をもらえるらしい。
「ここまで散々、訓練馬鹿とか言われましたが、やっと報われるのですね。これもすべて聖女様のお陰です」
そんな話をしていたところ、一人の女性が部屋に入って来た。赤髪赤眼の美少女だ。
「アズイーサです。入ります」
実は、ブラックローズ公爵からアズイーサを託されていたのだ。これには色々と事情があるのだけど・・・
「聖女様、どうかアズイーサの最終試験に立ち会ってもらいたいのです」
ウサール枢機卿は深々と私に礼をした。
「とりあえず、話をお聞きしましょうか」
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