38 聖女、交渉する
あれから3日が経った。ヘルフレイムグリズリーとの約束の日だ。朝から城壁に立って、周囲を見回す。
すると頭に声が響いた。
(ここだ。大きな岩がある辺りにいるので、そこに来い!!)
私は指定された場所に移動する。
予め説明しておいたので、私の従者であるゴードン、エリーナ、コウジュン、ドロシー、ゲディラと領主のダリアとシャイナさん、怪我から回復したレアードが同行することになった。
指定された場所に着くと岩にもたれるようにヘルフレイムグリズリーは座っていた。
(よく来たな。ミニサラマンダーをこちらに寄越せ)
(流石にそれは・・・)
(何も心配することはない。話を聞くだけだ)
私はエリーナにミニサラマンダー達をヘルフレイムグリズリーの前に連れて行くことを指示した。エリーナは最初は嫌がったが、ミニサラが「悪い熊じゃない」と言ったそうで、ヘルフレイムグリズリーの前に連れて行くことにした。ヘルフレイムグリズリーはミニサラマンダー達と何やら意思疎通できたようで、私に念話で話しかけて来た。
(なるほど・・・そうであったか。原因は我らにあったということか・・・)
(どういうことでしょうか?)
(まず、この火山地帯の構造を話す。大きく分けて、山頂、中腹、麓に分けられるのだが、山頂から中腹までをフレイムグリズリー、中腹に偉大なる火龍ファイリス様、麓から森までがミニサラマンダー達が住んでいたのだ。我も年に一度はファイリス様に挨拶に伺うのだが、ここ数年ファイリス様に会うことは叶わなかった。そして、今年も会いに行ったのだが、会えなかった。事情を聞こうとミニサラマンダー達を探したのだが、いなかった。
そのとき、我は思ったのだ。ファイリス様とミニサラマンダー達は人間どもに攫われたのではないかと。しかし、実際はお主達がミニサラマンダー達を保護していてくれたようだな。その原因となったのが、我らだったとは・・・)
エリーナが言う。
「こちらのヘルフレイムグリズリーさんは念話でミニサラ達と会話ができるのですが、普通のフレイムグリズリーは会話することができず、逆に暴力を振るわれたりしたそうです。それで、逃げて来たと言ってます」
火龍が居なくなったことで、フレイムグリズリーがどんどんと麓のほうまで下りて来たようで、ミニサラ達は逃げて来たのだった。
(それはそうと、ファイリス様が居なくなったのは結婚式の出席ためだったとはな・・・。ファイリス様はミニサラマンダー達を可愛がっておられたから、ミニサラマンダー達に何かあったらと思うとゾッとしたぞ)
火龍はこのヘルフレイムグリズリーが恐れるほど強いようだ。
絶対に会いたくはない。
(ところでカレンとやら、召喚とか言っておったが、あれは・・・)
(あれは「幻影魔法」です。こちらも事情がありますので、召喚ということにしておいてください)
(分かった。そうしよう)
私とエリーナは事の真相が理解できたが、他のメンバーはキョトンとしている。それはそうだろう。念話が使えない者からすれば、私達がただ見つめ合っているだけに見えるだろうから。
私はかいつまんで他のメンバーに状況を説明する。
「・・・・つまり勘違いから生まれたのよ。中腹にいた火龍がいなくなり、普通なら火龍に追い返されるはずのフレイムグリズリーが追い返されることなくどんどんと麓までやって来たの。そして、困ったミニサラ達が人間の集落までやって来た。
それでこっちのヘルフレイムグリズリーさんが火龍を探すためにミニサラ達に話を聞こうとしたんだけど、ミニサラ達は見付からず、心配になってミニサラ達を探してここまでやって来たという事情らしいわ」
更に念話を他のメンバーにも分かるようにつなげてもらった。
(そうなのだ。あの強かったファイリス様を捕縛するのだから、かなり強力な術者か、軍略に長けた者がいると思い慎重に行動していたのだ。戦闘では多くの負傷者を出してすまなかったな)
「それは仕方がないことです。それにこちらもフレイムグリズリーを・・・」
(それは一向に構わんぞ。魔物だし、我のように自我が芽生えるほうが珍しいのだ。300年は生きなければこうはならん。元々悪いのはアイツらだしな)
ここで領主のダリアが話始める。
「私はこの地を治める領主のダリア・トルドです。今後の話をさせて欲しいのですが・・・」
★★★
話しは上手くまとまった。
ヘルフレイムグリズリーさんは火龍が帰ってくるまで、中腹に移動して、フレイムグリズリーを麓に近付けさせないようにするらしい。
問題はどうやってこれを領民や援軍で来た貴族達に知らしめるかだ。
私が考えていたところ、ヘルフレイムグリズリーさんが言ってきた。
(我が貴様の従魔となったことにしてもよいぞ)
(それでは、そうさせていただきます)
ヘルフレイムグリズリーさんは跪くと私達やミニサラ達を背中に乗せてくれた。そして、城壁まで戻る。
私は拡声の魔道具で兵士達に告げた。
「ヘルフレイムグリズリーは従えました。もう危険は去りましたので、攻撃は止めてください」
兵士達は歓声を上げ、しばらくしてドーン子爵とブラックローズ公爵、その他の貴族達がお供を連れてこちらにやって来た。援軍が到着していたのだ。
私はドーン子爵達に事情を説明する。
これにブラックローズ公爵が答える。
「なんということだ。聖女の力とはこれほどのものなのか・・・感服したぞ。それと我が孫娘が大変な迷惑を掛けて本当にすまなかった。アズイーサには厳しい罰を与えるつもりだ」
「ブラックローズ公爵閣下、頭をお上げください。過ちは誰にでもあるものです。過ちに気付き、反省して努力を始めた者には聖母ガイア様の加護がきっとあることでしょう」
「有難い。感謝する」
と、まあこんな感じで、解決した。ドルト男爵領の領民は火山の中腹以上には立ち入らないことになり、代わりとして、ミニサラマンダー達が魔石を集めて麓に置いておくことにしてもらった。かなり収益が見込めるのでダリアも大喜びだ。
出会いがあれば別れがあるもので、私はヘルフレイムグリズリーさんにお別れを告げる。
「ありがとうございました。ミニサラマンダー達をよろしくお願いします」
(ああ、責任をもって連れて帰ろう)
ミニサラマンダー達はヘルフレイムグリズリーさんに大分懐いたようで、背中に乗ってまったりとしている。
その脇で、悲しい別れをしていたのは、エリーナだった。
「ありがとうミニサラ!!元気でね。貴方達のことは一生忘れないから」
そう言って、別れたミニサラだったが、しばらくしてヘルフレイムグリズリーさんの背中から飛び降り、4匹の仲間を連れてエリーナの元に駆け寄った。
「えっ、本当に!!いいの?」
なんと、ミニサラ達5匹はエリーナやシェルドン達と一緒にいたいという。ヘルフレイムグリズリーさんは言う。
(大切に育ててやってくれ。コイツも長命種でな。100年200年など一瞬だ。少しの間、外の世界を経験させるのも悪くないと思うぞ)
エリーナはヘルフレイムグリズリーさんに頭を下げてお礼を言う。
「ありがとうございます。絶対に大切に育てますから!!」
ミニサラマンダー達を背中に乗せたヘルフレイムグリズリーさんは歩きはじめ、次第に小さくなっていった。
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