35 聖女の防衛線 3
アズイーサ・・・・本当に迷惑な奴だ。
流石にこの状態で、「お疲れ様でした。後はよろしく」と言って帰ることはできない。帰るにしても引継ぎは必要だ。
コウジュンが防衛線のコンセプトや運用方法をアズイーサに教えようとしても、すぐにいなくなってしまう。アズイーサを探していたら、訓練所に居た。何やら揉めているようだ。私とコウジュンを見付けたエリーナが近寄ってきて事情を説明して来た。
エリーナによると、ドルト男爵領の領兵を訓練でボコボコにしたアズイーサは
「この程度の戦力では、領主が突撃に消極的なのも分かるな。まあ、最初から期待などしてなかったがな」
と言って煽ったそうだ。
するとゴードンが諫めたのだが、アズイーサはゴードンを煽り始めたらしい。
「偽物の聖女の偽物の騎士様か・・・早く国に帰ったらどうだ?」
これにキレたゴードンはアズイーサと模擬戦をすることになったようだ。
アズイーサは両手に木剣を持ち、素早い動きからゴードンを滅多打ちにしている。ゴードンも上手く防いでいるが、防戦一方だ。
私は二人を止めに入る。
「二人とも止めてください!!今はフレイムグリズリーの襲撃に備えているときです。身内で争っているときではありません!!」
ゴードンは私の言葉に従い、渋々ではあるが模擬戦を止めた。アズイーサはというと捨て台詞を残して去っていった。
「従者のメッキが剥がれるのが怖いのだろう?偽物の聖女よ」
偽物の聖女じゃないわ!!ビジネス聖女よ!!
まあ、ある意味偽物だけど・・・
しかし、このことが思わぬ事態を呼ぶことになる。
数日後、ダリアが領兵達に詰め寄られていた。
「ダリア様、どうか我々を突撃作戦に参加させてください」
「そうです。ここまで馬鹿にされて引き下がることはできません」
「みんな落ち着きなさい。気持ちは分かりましたから」
★★★
私は従者達とダリア、ドーン子爵と秘密裏に会議をしている。ドーン子爵が言う。
「ウチの部隊からも突撃作戦に参加させてほしいと言う者が出始めました。アズイーサ様が絡んできたようです。後1週間もすれば援軍が来るのに・・・」
コウジュンが言う。
「だからこそじゃないでしょうか?援軍が来ればアズイーサ様が武功を上げることができなくなります。なので、焦って強引な手に出ているのではないでしょうか?
それにここまで突撃作戦を指示する者が増えると、一度くらいは敢行しないと駄目でしょうね。犠牲が出るかもしれないので、やりたくはないですがね」
ダリアも言う。
「私も一度くらいはしなければならないと思っています。突撃作戦に参加する領兵は5名に絞って、被害を最小限にします。コウジュン殿、良い策はありますでしょうか?」
コウジュンは思案する。
「やってみましょうか?ヘルフレイムグリズリーにしても、いきなりこちらが打って出ることは予想外かもしれませんしね。それと、参加される部隊員の方にはなるべく積極的な戦いはしないようにと指示をしておいてください」
コウジュンの作戦はこうだった。フレイムグリズリーが現れたら水堀に橋を架け、突撃すると言うものだった。普段は弓や投石機で牽制するだけだから、奇襲になると説明する。今回は戦闘に慣れることがメインで、上手くいけば次は更に多くの兵士を動員するというものだった。
これにはアズイーサも納得した。
「流石は軍師だな。聖女の従者の中にもそれなりに使える者がいるではないか。まあ、勢いのままヘルフレイムグリズリーを討伐してもいいのだがな」
★★★
そして2日後、フレイムグリズリーが5匹やって来た。
ダリアが指示する。
「橋を架けろ!!突撃隊準備!!アズイーサ様、ご武運を」
「ウム、突撃隊に告ぐ!!総員突撃!!」
アズイーサの号令で、突撃隊は突撃を開始した。突撃隊はアズイーサの部隊20名、ドーン子爵の部隊から10名、ドルト男爵領の部隊から5名を出している。
先頭はもちろんアズイーサだ。それにアズイーサの部隊が続き、ドーン子爵の部隊とドルト男爵領の部隊が追従する。
アズイーサが一頭のフレイムグリズリーに両手に持った片手剣で斬りかかった。かなり互角の戦いだった。
「ほう、なかなかやるもんだ。領兵どもが苦労するのも頷けるな。だがこれはどうだ?」
アズイーサは両手の片手剣を鞘に納め、背中の大剣を引き抜いて両手で構えた。
そして、フレイムグリズリーの「ファイアクロウ(炎を爪に纏わせた攻撃)」を躱して背後に回り込み、大剣を振り下ろす。フレイムグリズリーは真っ二つになった。
凄い。人間的にはどうかと思うけど、実力は本物のようだ。
まあ、ゴードンも防戦一方だったしね。
アズイーサは圧勝していたが、他の部隊員は苦戦していた。まあ、そうなるよね。アズイーサの精鋭部隊は無傷だったが、ドーン子爵の部隊とドルト男爵領の部隊からは数名負傷者が出ていた。
「ゴードン、エリーナ回収をお願い!!」
これも予め決めていたことで、負傷者が出たら早めに収容することにしていた。
怪我人を収容し終わったところで、5匹のフレイムグリズリーは打倒された。
コウジュンは言う。
「火力があることは分かりましたが、軍師としては出す必要のなかった負傷者を出したことは遺憾です。今まで通りの戦術だったら討伐はできなかったかもしれませんが負傷者は出なかったと思います」
「コウジュンの気持ちはよく分かるわ。でもこれしかなかったしね。この程度で済んで良かったと思おうよ。アズイーサ様も満足しただろうしね。帰ったらスガクールさんに言って「熊殺しアズイーサ」」とかいう演劇でも作ってもらおうかな?そしたら、多少は私達への風当たりも弱くなるかな?」
「そうですね。もうすぐ援軍も来るでしょうし。それではダリア様、お願いします」
ダリアは拡声の魔道具を手に部隊に指示を出す。
「総員撤退!!速やかに砦まで戻れ!!」
しかし、部隊は戻らなかった。
また、アズイーサだ。
「この程度で終わりだと?進むぞ!!我こそはと思う者は我に続け!!」
部隊は混乱していたが、ほとんどの者がアズイーサに着いて進軍を始めた。
これが悲劇を生むことになるとは知らずに・・・。
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