34 聖女の防衛線 2
ドーン子爵、アズイーサを交えて軍議を始めた。
コウジュンが代表して、これまでの戦況と今後の方針を説明する。軍議の前にダリアやドルト領の幹部達には了解をもらっている。
「このように防衛線を敷き、弓や投石機を中心にした遠距離攻撃で凌いでいます。相手もこちらの攻撃に躊躇して膠着状態が続いております。こちらとしてはこのままの状態の維持を考えております。それに更に援軍が到着しますし、聖女様お抱えの技術者が新兵器の開発も進めております」
ドーン子爵が発言する。
「そうだな。それが得策だろうな。それと兵站のほうは大丈夫だろうか?一応、馴染みのある商会には声を掛けておいたが、すぐには対応できんだろう」
ドーン子爵が賛成してくれてよかった。更なる援軍が到着し、戦力が揃ったら私達は帰ろう。「神のご加護がありますように」とか言っておけば大丈夫だろう。そして、すべてが片付いた後に慰問に訪れればいいのだ。凄く利己的な理由だが、私の大切な従者達が悲惨な目に遭うのは許せないしね。
そんなとき、空気の読めないアズイーサが発言する。
「援軍が来るまで亀のように引きこもっていて、恥ずかしくないのか?
援軍が到着する前に我が片付けてやろう。すぐに殲滅してくれるわ。突撃だ」
これにはダリアが反論する。
「アズイーサ様、御言葉を返すようですが、私は反対です。当家は正規の領兵が少なく、何とかやりくりして、凌いでいる状態です。幸い弓が得意な狩人達が多く協力してくれたおかげでなんとか戦線を維持しております。聖女様やコウジュン殿が上手く彼らを運用していただいているからこそ、やっと今の状態なのです。
ですので、もうしばらく、戦力が整うまでは・・・」
「我がブラックローズ家の派閥にもこんな腰抜けがいたとはな。それがどうしたというのだ?早々に片付けたほうが領民のためだと思うがな?
まあ、こんな田舎の領主なら帝国貴族の誇りが理解できてなくても仕方がないか」
それはそうだろうけど、リスクが高すぎる。それにダリアを馬鹿にする発言は許せない。ダリアはここまで苦渋の決断ばかりしてきたのに。
ここでコウジュンが言う。
「しかし、アズイーサ様、フレイムグリズリーを率いているヘルフレイムグリズリーはかなり頭がキレるかと。それに直接戦ったわけではありませんが、大きさだけでもフレイムグリズリーの3倍以上はあり、かなりの強敵でしょう。ですので、念には念を入れて・・・」
「その強敵を我が屠ってやると言っているのだ!!」
「そ、それが・・・奴がどこにいるかはこちらでも把握できておりませんので・・・」
「そんなこともできずに「聖女の軍師」を名乗るな!!」
ちょっと!!後から来てその態度は何?
こっちは死ぬ思いでやってきたのに!!
本当に腹が立つ。
これにはエリーナが声を上げた。
「流石にそれは失礼ではありませんか?ダリア様もコウジュンもできることは精一杯やっています。途中から来て偉そうに言われる筋合いはありません」
ちょっと!!エリーナ!!相手は大貴族の孫よ。もう少し言葉を選んで。
まあ、この子は前世もこんな感じだったか・・・困っている人を見捨てられないし、曲がったことも嫌いだ。
「獣人風情が生意気な!!」
「獣人風情ではありません。龍騎士エリーナです」
「何が龍騎士エリーナだ!!亀やトカゲを集めて芸をさせるだけの大道芸人が!!」
まあそのとおりなのだが・・・・
ここでゴードンも言う。
「それは酷すぎます。フレイムグリズリーでもかなり苦戦するんですよ。ここの領兵達が束になってかかっても1匹を倒せるかどうかなんです。やっぱり・・・・」
「貴殿には失望した。「聖女の楯たる聖騎士」である貴殿がよもやそんなことを言うとは・・・もういい、これは命令だ。我はブラックローズ家当主の名代として命ずる。速やかに討伐作戦を行えるように準備しろ」
こう言われてしまえば、ドーン子爵もダリアも従うしかない。
更にアズイーサは言う。
「聖女よ、今までご苦労だった。礼を言う。ここからは我が指揮を取る。ゆっくりと討伐する様子を見るか、お帰りになってもらっても構わんぞ。そちらも忙しいだろうから」
「アズイーサ様、それは聖女様に失礼ではありませんか?」
「ドーン子爵よ。祖父が信頼している男だと聞いたが、それは勘違いであったか?口答えはするな」
私は腸が煮えくり返っていたが、作り笑いを浮かべて言った。
「お気遣い感謝します。聖母ガイア様の幸あらんことを」
★★★
「聖女様、申し訳ありません。ここまで私達が持ちこたえたのはすべて聖女様のお陰なのに」
「そんなことはないですよ、ダリアさん。貴方も領主として成長されましたし、領兵や領民の方々の頑張りが身を結んだんですよ」
「そう言っていただけると、本当に有難いです」
会議終了後にダリアが私の所に謝罪に来た。流石にダリアの責任とは思わない。
そこにドーン子爵もやって来た。
「聖女様、私からも謝罪致します。アズイーサ様は何というか・・・」
ドーン子爵の話ではアズイーサは剣の腕は確かで、同年代だとオルマン帝国でもトップクラスだという。しかし、鼻っ柱が強く、プライドも高い。なんとしても世間に自分の実力を知らしめたいようだった。
そして、同世代の私達にも嫉妬していたそうだ。
原因は演劇らしい。オルマン帝国、特に武勇を重んじるブラックローズ家の派閥の領では私達を題材にした演劇が多く上演されている。常々アズイーサは言っていたそうだ。
「アイツらは運がいいだけだ。私だって、機会があれば大活躍できたのに。それに演劇だから誇張してるのだろう。アイツらに実力はない」
まあ、誇張はされすぎているけどね。
「今回、我々の部隊は機動力を優先し、軽装備の者を中心に編成しています。それに防衛戦なのだからクロスボウ部隊と弓兵を多めにしているので、突撃には全く向きません。できることなら、増援が来るまでなんとかのらりくらりと理由をつけて、突撃を回避したいと思っております」
「それは私も同感です。ドルト男爵領の部隊のほとんどが有志で参加してくれている狩人です。突撃となると正規の領兵を出さなければならないでしょう。突撃が失敗し、正規の領兵の多くが戦闘不能になれば、防衛線の維持に支障がでます。狩人は弓の腕は確かでも、部隊管理などは専門外ですからね」
二人の気持ちは分かった。
何とか、時間を稼ぐことに協力しよう。
「私もできる限り協力します」
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