33 聖女の防衛戦 1
とうとうフレイムグリズリーの群れがやって来た。魔物を追い返し、フレイムグリズリーにぶつけて、群れにダメージを与えようとしたが、ほとんど効果はなかった。実力差がかなりあるからだ。まあ、こちらの戦力が無駄に削られなかったのでよしとしておこう。
これからは、細かい運用はコウジュンに丸投げとなる。素人の私があれこれ指示するよりも「軍師」様にやってもらったほうがいいからね。
私は私にしかできないことをする。それは、味方の士気を高めることだ。
私はダリアと兵士や民衆の前に立った。
もちろん聖母ガイアを出現させ、幻影のガイアに喋らせる。
「勇敢な兵士達よ!!立ち上がりなさい、民衆のために!!貴方達には私がついております。これは貴方達が乗り越えられる試練です。試練の先には多くの幸運が待っていることでしょう。
領民達よ!!勇敢な兵士達を信じて支えなさい。勝利は約束されています。
そして最後に、勇敢な領主ダリアよ!!貴方の真摯な祈りが私にも届きました。最大限の加護を与えます。自信を持って決断しなさい。貴方の決断は必ず幸運をもたらすでしょう」
「ガイア様!!ありがとうございます」
ダリアは目に涙を浮かべている。
兵士達や民衆から大歓声が上がる。
これで、ダリアの求心力も高まったと思う。後は迎え討つばかりだ。
★★★
フレイムグリズリーはいきなり大群でやってくることはなかった。3~5匹くらいの集団が散発的にやってくるだけだった。
なので、対処も楽だった。湯気で視界を奪い、大量の矢の雨を降らせて撃退する。撃退したら、すぐにフレイムグリズリーの死体を回収する。フレイムグリズリーからはかなり貴重な素材が取れるらしく、ダリアも喜んでいた。
「これで、当面は我が領も財政的に余裕ができます。それにフレイムグリズリーの肉は匂いはきついですが、結構おいしいんですよ。カレーにすれば、匂いも気になりませんしね。まさに聖母ガイア様のお導きですね」
多分、馬鹿女神はそんなことは1ミリも思ってないだろう。本当にただの偶然だ。
兵士達や領民は沸き立つ中、コウジュンだけは渋い表情をしていた。気になって尋ねてみた。
「親玉のヘルフレイムグリズリーはなかなかに頭の切れる魔物だと思います。それにかなり慎重な感じですね。というのもいきなり大群を差し向けるわけでもなく、こちらの様子を窺うような戦い方をしてます。多分、こちらの基本戦術も把握されているかもしれません。
まあ、杞憂だといいのですが・・・」
数日後、コウジュンの心配したとおりの事態になった。
フレイムグリズリー数頭が接近したのでいつも通り、大量の池から湯気を発生させたところ、かなり大きな石が城壁に飛んできた。
これは予想外だった。どんどんと城壁が壊されている。それに怪我人も出始めた。視界を奪ったことがこちらにも不利に働いてしまった。戦闘の素人の私でもわかる。かなり不味い状態だ。
コウジュンは言う。
「ここまで早く攻略されるとは思いませんでしたが、仕方ありません。第一の城壁を放棄して撤退しましょう」
ダリアもこれに従う。
「総員撤退!!」
無事に第二の城壁まで撤退することができた。
第二の城壁の特徴は、城壁の前に水堀を用意している。これもドロシーとシェルドラ達のお陰だ。この水堀は特殊で、ある一定の位置までは浅いのだが、急に深くなる。フレイムグリズリーでも足がつかなくなるほどだ。
当然、調子に乗ったフレイムグリズリーは水なんて気にせずに向かってくる。そして、急に深くなったことで混乱する。
ここでコウジュンが言う。
「撤退したことで士気が下がっています。ダリア様、ここは一つ士気を上げましょう。手筈通りにお願いします」
「分かったわ。よく聞け兵士達よ!!これは聖女様より賜った伝説の矢。これで我がフレイムグリズリーを屠ってくれよう!!」
そしてダリアはその矢を番えると先頭のフレイムグリズリーに放った。矢は一直線に飛んで、フレイムグリズリーの頭部に突き刺さり、大爆発を起こした。
あの矢は、ゲディラ特製の矢で、超高火力らしい。しかし、材料やコストの面からも多くは作れていないので、ここぞというときのために取っておいたようだ。
この光景を見た兵士達は歓声を上げ、隊長の号令で弓矢の一斉射撃を始めた。
私はこっそりとコウジュンに聞く。
「ねえ、ダリアさんが外すとか思わなかったの?」
「この距離でダリアさんが外すなんてことはありませんよ。聖女様の加護があるんですから」
聖女の加護なんてあったっけ?
まあ、ダリアさんは「狩人」で「強弓」のスキル持ちだから外さないとは思うけど、私に対する評価が高すぎて、怖くなる。
しばらくは、フレイムグリズリーが深みに嵌ったら弓矢の一斉射撃をすることで、凌いでいた。次の日も同じ形でフレイムグリズリーは攻めてきたが、途中から攻めて来なくなった。無駄な犠牲を減らしたいのだろう。
コウジュンは言う。
「ここも対策をされるかもしれませんね。考えたくはありませんが・・・」
私もそう思う。でも最悪の展開は考えておいたほうがいいと思う。
★★★
3日程膠着状態が続いていたところで、待望の援軍がやって来た。ドーン子爵だった。
「聖女様、我が寄子のを助けていただき、本当に感謝しております。すぐに用意できた500名を率いて参りました。それと・・・・」
言いかけたところで、赤髪赤眼の16~17歳位の美少女が話を遮った。この美少女は綺麗な顔立ちをしているが目つきがヤバい。三白眼だ。両腰には片手剣、背中には大剣を背負っているし、見る限り戦闘狂だ。
「我はアズイーサ・ブラックローズ、現ブラックローズ公爵家の当主の孫にあたる。聖女よ、我が来たからには安心せよ。こちらは精鋭の50名を連れて来たからな」
自信満々に言う。
如何にも武人と言った感じだった。鑑定してみる。
名前 アズイーサ・ブラックローズ
年齢 17歳
ジョブ 「剣姫」
スキル 「双剣術」「剛剣」
健康状態 良好
えっ!!「剣姫」?
剣の達人じゃないの!!
かなりレア度の高い上級職で、「剣聖」の女性版のジョブね。
これは神の救いかもしれない。今の私達の戦力に欠けていた高火力のアタッカ―が来てくれた。それに引きつれて来たのは精鋭部隊と聞くし、これは神の助けかもしれない。
しかし、そうはならなかった。
この馬鹿女のせいで、私達は苦境に立たされることになる。
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