3 聖女の誕生日
まだ混乱している。私はカレン・クレメンスで、東野加奈子の生まれ変わり?聖女で使命が受けて、スキルって・・・・。
漸く落ち着いた私は寝室を出て、食堂に向かう。お父様とお母様に挨拶をする。
「おはようございます。お父様、お母様」
「おはようカレン。今日は遅かったから朝食は先に食べちゃったわよ」
「今日はカレンの誕生日だから、盛大に祝わないとな」
「お父様、そんなことをして大丈夫ですか?財政はかなり厳しいのに」
クレメンス男爵領の財政は火の車だ。多額の借金もある。これは大した産業もなく、悪い立地ということも関係している。この付近の領地一帯はアバウス伯爵という強欲貴族が取り仕切っているのだが、アバウス伯爵領を通行しなければ交易ができないことをいいことに馬鹿高い通行料を払わされ、魔物討伐などでは領兵を駆り出される。なので、少ない収入を補うために借金をするしかない。
借金の利子は高利で、雪だるま式に膨らんでいっている。これもアバウス伯爵が裏で糸を引いているのだ。
私が心配そうに言うとお父様は言った。
「領民も今日くらい許してくれるさ。それに盛大と言っても、狩ってきた魔獣を焼くだけだからな」
それでも有難い。
ふと思い付きで、本当にスキルが使えるのか?と思ってお父様を鑑定してみた。
お父様の頭の上に文字が表示される。
名前 ロバート・クレメンス
年齢 29歳
ジョブ 「田舎の領主」
スキル 「忍耐」
体力※※、知力※※、気力※※・・・・
スキルの後に読めない文字が続く、どうやら今のスキルレベルではこれが限界のようだ。
朝食を食べ終えた私は、早速自分を鑑定してみた。
名前 カレン・クレメンス
年齢 10歳
ジョブ 「領主の娘」
スキル 「鑑定」「ジョブ偽装」「幻惑魔法」「魅了」「回復魔法極小」「癒し」
体力※※、知力※※、気力※※・・・・
体力以下の細かい能力はまだ見えないのか。スキルは使えば使うほど能力が強化されるという。
続いて他のスキルも確認する。
「ジョブ偽装」はジョブを自由に変えることができる。試しに「聖女」に変更してみたが、成功した。ただ、鑑定のスキルを持っている者にしかステータスは分からないので、今のところ大して意味はない。このスキルでは、スキルや体力などの能力や数値は変えられないが、隠蔽はできるみたいだった。
「幻惑魔法」は魔法で幻影を作り出すことができる。試しに聖母ガイア像を参考にして聖母ガイアを出現させてみる。意外に上手くできた。「鑑定」のスキルによるとスキルが上がれば、声を出したり、複雑な動きもさせられるらしい。
ちょっと、声も出してみようとしたが上手く行かなかった。
「ギャギャギャガガー!!」
私が出現させた聖母ガイアは、けたたましい叫び声を上げた。どうやらそこまでスキルが達してなかったようだ。
そうしたところ、叫び声でお父様とお母様が慌てて私の部屋に入ってきた。二人とも驚愕の表情を浮かべている。
「何ということだ!!これは一体・・・・」
「聖母様がなぜここにいらっしゃるの?カレン・・・あなたは一体・・・」
二人が見た光景は信じられないものだったのだろう。娘が聖母像に祈りを捧げた結果、聖母ガイアが降臨したように見えたみたいだ。正直に話そうかと思ったが、次第に歓喜の表情に変わっていく二人を見ると咄嗟に嘘を付いてしまった。自分をより大きく、能力が高い人間だと思わせる行動を取ってしまう前世の悪い癖が出てしまった。
「お父様、お母様、落ち着いて聞いてください。聖母ガイア様から、私は聖女としての使命を受けました。そして奇跡の力をいただいたのです。お母様こちらに来てください」
今のところ嘘は付いていない。
私はお母様を呼び寄せるとあかぎれた手を取り、回復魔法を掛ける。母は美しい女性だが、苦労しており、お洒落もできず、肌は荒れている。私の回復魔法は今のところ、あかぎれや擦り傷くらいしか治せない。でも「魅了」のスキルは常時発動しているようで、ちょっとした回復魔法でも私が聖女で、聖母ガイアの使いであると信じてしまったようだ。
そして肩こりの酷い父の肩を「癒し」のスキルで揉んであげた。「癒し」のスキルは治療効果はないが、痛みや不快感が収まる。これでお父様も信じてしまったようだ。
次に何を話そうか迷っていたら、急に眩暈がした。スキルを一度に何度も使ったせいで、魔力切れを起こしたのだろう。
すぐにお父様が私をベッドに運んでくれた。
「お父様ありがとうございます。しばらく休めば大丈夫です。夜の誕生パーティーまでには何とかなりますので・・・」
「ゆっくり休め。天使のようなカレンが、本当に天使になったみたいだ」
お父様は結構な親馬鹿だが、この発言は少し語弊がある。まるで死んでしまったみたいじゃないか・・・実際、一度死んでいるけど。
★★★
夜のパーティには出席した。完全に体調が回復したわけではないが、領主の娘としてせっかくみんなが楽しみにしているパーティーを中止させることはできない。笑顔を振りまき、感謝の言葉を述べる。
料理は領民にも振舞われ、このときの為に狩った魔獣の肉がメインで、単純な味付けだったが、みんな久しぶりの御馳走に大喜びだった。
私の悪い癖はもう一つある。相手を喜ばせるために嘘を付いてしまうことだ。喜ぶ両親や領民達を見ているともっと喜ばせたくなる。そしてやってしまった。
パーティーが終盤に差し掛かったところで、聖母ガイアを「幻惑魔法」で出現させた。幻影から声は出せないので、私が啓示を受けた体で話始める。
「聖母ガイアはおっしゃられました。私に世界を救えと!!まずはこのクレメンス男爵領を豊かな領にして見せます!!」
一瞬の静寂の後、大歓声が上がる。口々領民が言う。
「有難い、聖母様が降臨なされた」
「カレン様は聖女だ!!」
「これでこの領は安泰だ」
もしかして私は聖女に向いているのだろうか?まあ、偽物だけど。
でもこの人達を幸せにしたいという気持ちに嘘はない。せっかくもらった新しい命、前世でできなかった親孝行と前世の罪滅ぼしのために少しは頑張っていこう。
その日は疲れもあり、早めに就寝した。翌朝起きて、冷静に考えてみると相当ヤバいことをしたのではと思ってしまった。
どうしよう・・・・。
ふと枕元の聖母ガイア像を見ると足首位まで黄金色だったのが、膝下位まで黄金色になっていた。
多分、信仰心が集まったのだろう。
一応大間違いをしたわけではなさそうだ。
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