29 聖女、カレーを布教する 2
私達は今、オルマン帝国のドーン子爵領の晩餐会に招かれ、カレーを振舞っている。
「これはいい!!庶民でも食べられる値段で、煮込み料理にこの固形ルウを入れるだけで簡単に作れる。流石は聖母ガイア様だ。なんと有難い」
ドー子爵は私達との交易でかなり資金的な余裕ができ、その資金を元に様々な活動に取り組んだ結果、伯爵に陞爵されることとなった。今回の晩餐会はそのお祝いを兼ねたものだ。ドーン子爵の強みは資金力もそうだが、聖女たる私とのつながりも大きいみたいだ。ここで私との親密さをアピールすることも大きな目的の一つだ。
こちらとしてもカレーの販路を開拓できるので、持ちつ持たれつといった感じだ。
晩餐会では愛想を振りまきながら、カレーを進める。ドーン子爵の派閥は庶民派の貴族が多いので、カレーはすんなりと受け入れられたし、すぐに取引の話にもなった。
そんなとき、ドーン子爵に一人の少女を紹介された。
ダリア・ドルト、17歳。ドルト男爵家の当主だった。
赤毛でそばかすがある垢ぬけない少女だが、ちょっとお化粧をすれば美少女に化けると思う。私と年齢がほとんど変わらないのに当主だなんて、大変だな。ドーン子爵の話によると父親が病に倒れ、幼い弟が継ぐわけにもいかず、彼女が当主となったそうだ。
「聖女様、こちらのダリアの話を聞いてはくれないだろうか?ちょっと領地経営のことで相談に乗ってほしい」
ドーン子爵は結構人望がある。面倒見がいいのだ。その分、私の仕事は増えるけど。
まあ、ここで突っぱねるのは得策ではないし、話を聞くことにした。
「実は我が領地は火山地帯で農地はかなり少ないのです。それが今年に入り、火龍種の活動が活発になり、少ない農地も被害を受け、切迫した状況なのです。
ドーン子爵閣下に伺いました。聖女様は切迫した自領の財政を立て直し、そしてルキシア王国でも有数のい豊かな領へと押し上げたと。ですので、どうか我が領をお救いください」
私と同年代の女子が必死に助けを求めているのだから何とかしてあげたい。周りにいたゴードン、エリーナ、コウジュン、ドロシー、ゲディラは期待に目を膨らませている。
分かりましたよ。やりますよ。
「とりあえず、ドルト男爵領に行きましょうか?現状を見てから判断しましょう」
そう言うとエリーナがすかさず会話に入って来た。
「火龍種ですか?私はこう見えても「龍騎士」なのです!!絶対にお役に立てますよ」
エリーナは火龍種と聞いて、テンションが上がっている。エリーナのイメージでは大きな龍にまたがり、大空を駆け巡っているのだろう。
そうだよね。魔物を遠ざける「魔物パージ」のスキルを馬鹿女神に消してもらったから、その効果を私も期待したい。上手くテイムできたら、私も乗せてもらおう。
★★★
ドルト男爵領に着いた。火山地帯だった。早速、例の火龍種を見せてもらった。
「あれが龍?」
「赤いトカゲだな・・・でっかいトカゲだ。シェルドンよりは少し小さいか・・・」
とりあえず鑑定してみた。
名前 なし
種族 ミニサラマンダー
スキル 「火柱」「バーニングボール」「ファイアアーマー」
サラマンダーは龍なのだろうか?
うーん・・・私が龍と言い張れば龍だし、それに一緒に連れて来たシェルドラゴンのシェルドンはミニサラマンダーに友達感覚で接している。
もう今まで散々嘘を付いてきたから、これぐらいいいか。それにエリーナは「テイマー」のジョブも持っているからテイムできたら儲けものだし。
私は心を決めて言う。
「龍です!!まぎれもない火龍です。間違いないです。正式にはミニサラマンダーというらしいです」
周囲から歓声が上がる。
するとエリーナがミニサラマンダーに言う。
「我は龍騎士エリーナだ。我に従え火龍よ、そして・・・・」
と言いかけたところで、シェルドンがエリーナに擦り寄ってきた。
「何、シェルドン?私はこっちの赤いトカゲさんに・・・」
ああ、トカゲって言っちゃった。みんな我慢してたのに・・・
それは置いていおいて、エリーナはシェルドンと何やら意思疎通をしていた。
「カレン様、シェルドンが言うには、こちらの火龍が助けてほしいとのことです。今、意思疎通をするためにテイムしてOKか、シェルドンに確認を取ってもらってます」
エリーナ、凄いわ。龍と意思疎通ができるなんて!!
流石は伝説の「龍騎士」ね。
「えっ、いいの?分かった。じゃあ名前はミニサラね。問題が解決するまでの期間限定だから心配しないで。後は・・・迷惑になるから好き勝手に火を吐いたりしないでね。分からないことがあったら先輩のシェルドンに聞いたらいいからね」
何とあっさりテイムできたようだ。
後でエリーナに聞いたのだが、討伐に苦慮するくらいだから、かなり大きな火龍を想像していたらしい。なので、テイムするのにそれっぽい演出を考えていたのだが、シェルドンに中断されたことで、一気にテンションが下がり、適当な感じになってしまったようだ。
私はダリアに無事にテイムできたことを伝えた。
ダリアは大喜びだった。
「この地域では、火龍様は守り神的な位置付けだったんです。火の玉を吐いたり、全身に炎を纏ったりするくらいで戦闘力はほとんどないのですが、農作物に火が燃え移ったりするので、困ってたんです。最悪、殺処分しようかという意見も出たのですが、誰もやりたくなくて・・・・。
聖女様に頼んで本当に良かったです」
そ、そうなの?
てっきりものすごく強いと思っていたのに違っていたようだ。せっかくクレメンス男爵領龍騎士団の戦力アップになると思ったのに!!
ダリアが言うには過去の文献に、森で迷子になっていた子供を助けたという記録もあるそうだ。まあ、お役に立てて何よりだと思おう。それに平和的に解決してこその聖女だ。
「エリーナ、ミニサラを通じて、他のミニサラマンダーにも棲み処に帰るように言ってくれる?」
「カレン様、それがその・・・かなり切迫した状況なのです。下手したら、この領を放棄して全住民を避難させなければならないかもしれません。詳しいことを言うと・・・・」
一同絶句する。
私は難しい判断を迫られた。
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