25 聖女、潜入する
魔族の少女ジャヒーがいるのはどういうことだろうか?
しばらくして、彼女が話始める。
「私達魔族はルキシア王国では、迫害を受けておりました。しかし、こちらの旦那様と奥様様に救っていただいたのです」
ポールさんは、良いことしてるじゃないの。
「種族に関係なく慈悲を与えるポールさんは素晴らしいと思います。我が領でも獣人の保護に力を入れていますよ」
「聖女様が、旦那様が仰っていたとおりの方で安心しました。それでは奥様、お時間です」
するとアンジェリカさんは真っ白なローブに着替え、覆面も付けた。
あれは、過激派の正装だ。
その後、同じ格好をしたジャヒーと共に隠し通路から部屋を出て行った。
「ど、どういことですか?」
「百聞は一見に如かずと言いますから。しばらくこちらを見ていてくれませんか?」
ポールさんが映像が映る魔道具を取り出した。しばらく待っていると、アンジェリカさん達が映像に映し出された。そこにはアンジェリカさん達と同じ、20人程の全身白装束の一団がすでに集合していた。20人ほどの集団は今のところ、覆面は付けていない。
「今見てもらっているのは過激派組織「アルボラ」の集会です。一応私が総帥、副総帥がアンジェリカですね」
「えっ!!「アルボラ」ってあの「アルボラ」ですか?」
「アルボラ」は超過激派の宗派で、聖母教会でも存在が認められていない。魔族や獣人排斥を声高に訴え、テロ行為も多数行っている。
「そうですね。とりあえず、見ていてください」
しばらく映像を見ていると、アンジェリカさんが話始める。声は魔道具で変えられていて、いかにも悪そうな声だ。
「よくぞ集まった我が同志達よ!!計画は3日後に迫った。必ずや聖女を生け捕りにするのだ!!」
歓声が上がる。
あれ?聖女って私だよね?
参加者の一人が声を上げる。
「聖女はこともあろうに穢れた獣人達を保護している。ここで聖女を攫い、計画を実行するのだ」
「「おおお!!」」
その後、詳しい計画が説明された後、ジャヒーが覆面を配る。受け取った参加者がそれぞれ覆面を被り始めた。
見るからに怪しすぎる。それに、計画では私が訪問する予定の獣人や魔族の孤児が多くいる孤児院で襲撃する作戦だった。襲撃される私が言うのも何だが、この計画は杜撰すぎる。
綺麗な白装束のお揃いの衣装を用意する前にもっとやることがあるだろ!!
なぜ正面から襲撃する?それに襲撃前に火魔法を空に撃ったり、爆発する魔石を爆発させたりする必要がどこにある?
そもそもその衣装は目立ちすぎじゃないのか?
ツッコミどころ満載の計画に唖然としている私にポールさんは言う。
「この計画を聞いた段階で、普通の頭をしている奴なら参加しませんよね。本当にこの計画を実行する奴なんて、本当にヤバい奴らです」
「それはそうですね。まさか・・・」
私は一つの考えに辿り着いた。
「カレンさんが推測されているとおりです。わざと失敗させるために計画を組んでいるんですよ。少し話は変わりますが、演劇などで、どうして悪の計画が失敗するか分かりますか?」
「正義のヒーローがいるからですか?」
「それもそうですね。ただ、一番の要因は「絶対失敗する計画を立てている」からなんですよ。もっと成功しそうな場所を襲撃すればいいと思うでしょ。前世の悪役でもそうでした。国家の要人が集まる場所を狙えばいいのに、なぜか幼稚園のスクールバスを狙ったりね。あっ・・・スクールバスっていうのは、子供専用の乗り合い馬車みたいなもんですね。
話を戻すと、どんなに戦力があっても計画が全くダメなら必ず失敗するんです。それに失敗した後の対応もキチンと教えてますからね」
「つまり、テロ行為を失敗させるためにテロリストを集めているということでしょうか?」
「そのとおりです。それではそうなった経緯を話します。
当然、私もアンジェリカも獣人や魔族を迫害しようと思ったことは一度もありません。むしろ、魔族や獣人達を保護しようと考えていました。しかし、過激派のように魔族や獣人達を迫害する勢力は一定数いるのが現実です。そこで、一計を案じたのです。
私達が悪の組織を設立し、テロリストを集め、定期的にテロ行為を失敗させて、数を減らしたり、領民達に過激派は「頭のおかしい連中」というイメージを持たせ、「あの頭のおかしな連中が言っていることなんて当てにならない」と思わせたりするのが目的です。
それにテティス様の要望にも形だけでも、応えられてますしね。
失敗続きですが、テティス様は優しいんですよ。前回も優しい言葉を掛けてくれました。
『努力しても報われない辛さは妾が一番分かっておる。諦めずにコツコツと頑張るのじゃ。失敗が続いたからって、妾がお主を見捨てることは絶対にない。安心してこれからも精進するのじゃ』
ってね。ちょっと邪神ぶってますけど、結構優しい神様なんですよ」
まあ、話は分かった。
「このことを護衛の従者に伝えてもよろしいですか?遅れを取ることはないと思いますが、万一のこともありますので・・・」
「それは明日まで待ってください。明日には従者の方達も、知るところとなりますから」
意味深な発言だが、ポールさんのことを信じて明日まで待つことにした。
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