16 聖女、ダンジョンを探索する 1
結局ポールさんは3日間クレメンス男爵領に滞在した。食べ物が気に入ったのもそうだが、龍騎士エリーナの大道芸人としての才能に惹かれ、どうしても指導がしたいと言い出したからだ。何でも前世では晩年、若手俳優の為に劇団を主宰していたみたいで、才能ある若手を放っておくことができないらしい。
指導したのは、ジャグリングの技術や使役するシェルドラゴン達の動きではなく、そこに至るまでのトークや技の魅せ方がメインだった。
エリーナも感謝しているようだ。
「指導のときはびっくりするくらい厳しくなるんですけど、言ってることは的確で本当に勉強になります。ポールさんが主催する劇団と一緒に公演することで話が進んでいます」
それと我が領の収入に大きく貢献してくれた。主にコウジュンんが話をまとめてくれたのだが、米、味噌、醤油を大量購入してくれることになった。何でも奥様も転生者のようで、どうしても食べさせてやりたいとのことだった。意外にも愛妻家だった。
それに伴い、アバウス伯爵に通行料の値下げについて口を利いてくれた。同じく世俗主義のスカム派のデブルも圧力を掛けていたみたいで、1ヶ月後には半額以下になっていた。
ポールさんとの出会いは幸運だったと思う。
クレメンス男爵領をポールさんが離れるとき、ポールさんがいつになく真剣な表情で話し始めた。
「少し真面目な話をさせてください。当初ここに来たのは、テティス派の長としての言い訳づくりのためでした。「一生懸命頼んだけどダメでした」と信者に言うためだけのね。しかし、あなたと話しているうちに本物の聖女だと思うようになり、いらないことまで話してしまいました」
そこで、ポールさんは一端言葉を切る。
「だから本物の聖女様と見込んでお願いがあります。テティス派に入ってくれとは言いませんが、今後テティス派を完全に潰してしまうのだけは止めてください。私としては、世界を絶望と恐怖に陥れるつもりなんてサラサラありません。しかし、女神テティス様には感謝しているんですよ。新たな人生を歩ませてもらい、こんないい暮らしもさせてもらってます。
だから、私に考えがあります。計画段階でまだお話できませんが、きっとご理解いただけると思います」
「分かりました。女神テティスのことは信用できませんが、ポールさん、あなたのことは信じようと思います」
「ありがとうございます。でもね、テティス様は、邪神だなんだと本人は言ってますが、結構可愛いところもあるんですよ。私と会うときには普段使わない言葉遣いで、一生懸命セリフも覚えて・・・。実はいい神様なんじゃないかって、最近思うんですよ。もし聖女様のお力で何とかなるのなら女神テティスが立ち直るようにお力添えをお願いしたいのです」
どう答えたらいいのだろうか?
私が重度の厨二病に罹っている女神を救う方法なんてないと思う。仕方なく聖女のようにこう答えた。
「分かりました。すべては聖母ガイア様の御心のままに」
親子の問題は親子で解決してもらおう。
「ありがとうございます聖女様。聖女様の成人の儀と鑑定の儀には妻と駆け付けますので!!妻の料理は絶品ですから、それも作らせますよ」
そういうとポールさんは笑顔で去って行った。
元日本人の料理か・・・楽しみだ。
★★★
各宗派の使者の訪問も落ち着いた頃、急な知らせが飛び込んでくる。持ってきたのはエリーナだった。
「ダンジョンです!!カレン様、ダンジョンが発見されました!!」
ダンジョン、それは莫大な利益をもたらす反面、場合によっては大損害になるケースもある。最近では、不利益になるダンジョンはまず発生しないので、探索の結果を待たなければならないが、いいニュースと言っていいだろう。
お父様や従者も会議を始めるようで、私も参加することになる。
会議で決まったことは、私達としてはダンジョンの探索については冒険者達に任せることになった。また、今後ダンジョンの噂を聞きつけて訪れるであろう冒険者や採取した素材に群がる商人達の対策を検討していた。
1週間経過した。報告書を読む限り、かなり優良なダンジョンのようだった。素材も質がよく、出現する魔物は強さの割にいいアイテムをドロップするみたいだった。これで、またクレメンス領は発展する。
巷では、「聖母ガイアの恵み」と噂されている。
もしかしたら本当に聖母ガイアの恵みなのかもしれない・・・いや、あの馬鹿女神がそんなことをするはずがない。
収益が見込めると判断したので、一気に計画が動き出す、宿泊所を建設したり、治安対策の為に警備兵を増員したりと忙しい日々を過ごす。私はというとクレメンス男爵領のPR活動や龍騎士エリーナの公演の補佐などをして過ごしていた。
しかし、3ケ月経ったところで、私はダンジョンに潜ることになってしまった。解除できないトラップがあり、罠解除専門の冒険者でも初めて見るものらしく、探索が進まないとのことだった。今採取できている素材だけでも十分利益は出るのだから、私としては、別に探索が進まなくても構わないのだが、冒険者はそうではないらしく、何が何でも攻略したいみたいだった。
儲けがどうとかではなく、プライドやロマンの問題らしい。
そういうことで、件のダンジョンは聖母ガイアが作ったダンジョンだと噂されており、それならば「聖女様ならなんとかなる」ということで私に依頼があったのだ。
慎重に協議した結果、従者達で私の護衛を固めるということを条件にダンジョン攻略に参加することになった。
私は内心ワクワクしていた。
せっかくこんな世界に来たのだから、一度はダンジョン探索に行ってみたいよね。
しかし、私がイメージしていたダンジョン探索とは全く違っていた。冒険者5人とゴードン、エリーナ、ドロシー、コウジュンの従者達で攻略を開始したのだが、ちょっとした魔物が出ただけで、私は従者達の鉄壁の防御の中に押し込まれてしまう。
1階層で下級の魔物である吸血蝙蝠が1匹出ただけなのに、ドロシーが土壁を出現させ、ゴードンとエリーナが脇を固める。冒険者達はドン引きしていた。
もう!!恥ずかしいからやめてよ。
結局、上位の魔物以外はゴードンが私に張り付いて護衛することで、なんとかイメージどおりの探索になった。
それと今回、初めて私の「鑑定」スキルが通用しない相手が現れた。冒険者パーティーのリーダーをしている女性で名前はミランダ。戦闘を見る限り、なかなかの腕前の魔法剣士で、Aランク冒険者のようだった。
ダンジョン研究の第一人者でもあるみたいで、延々とダンジョンの話を冒険者にしていた。
「鑑定」のスキルは万能ではない。「鑑定」を防ぐ魔道具もあるし、鑑定を防ぐスキルもある。相反するスキルがぶつかり合う場合は、レベルが高いほうのスキルが優先される。
なので、私よりもこのミランダは遥かにレベルが高いのだろう。
話した感じは悪い人には思えないが、一応注意だけはしておこう。
 




