15 聖女、勧誘される 3
ポールは言う、私に「派閥に入るな」と。
意味が分からない。アンタは勧誘しに来たのではないのか?
「そうなりますよね。これから言うことは妄想癖のある、頭のおかしな男の戯言と思って聞いてください。実は私、女神テティスに異世界から転生させられたのです」
普通なら「頭のおかしい奴が来た」と言って叩き出すところだ。現にゴードンとエリーナは私が命令するのを待っているように視線を送ってくる。転生した身の私としては、話だけは聞いてみたくなる。
「聞くだけ聞きますから、話して下さい」
ポールは話始める。
「異世界のことを言っても仕方ないので軽く話しますが「日本」というところで、こちらで言う舞台俳優みたいなことをしてましてね。芸名は「九朗カケル」と言いまして、それなりに悪役俳優として人気でした。「二人は刑事」というドラマでは刑事兼真犯人役でそれなりの賞を・・・っといけませんね。演技のことになると話が止まらなくなるのが悪い癖なもんで。興味ないですよね」
知ってる!!悪代官から越後屋まで、特撮ヒーローのボスから覆面ライダーの雑魚キャラまで幅広くこなしていた悪役俳優だ。興味がないどころか、もっと聞きたい!!
でも、私が転生者とバレたくない。芋ずる式に偽の聖女だとバレてしまう。
私は平静を装って言った。
「よく分かりませんが、話を続けてください」
「じゃあ続けますね。私はそこで天寿を全うしたんですが、気が付いたら神殿のようなところに居ましてね。その神殿で聖母ガイアの娘、女神テティスと名乗る少女からこう言われたんですよ。
『妾は邪神テティス!!さぞ無念だったであろう。世界を恐怖の渦に巻き込むことができずに。貴様の無念、この妾が晴らしてくれよう。貴様に力を与える。それでこれから転生する世界を絶望と恐怖に陥れるのじゃ!!』
多分、自分が出演した何かを見て、本当のテロリストかなんかだと勘違いしたんでしょうね。『お嬢ちゃん、あれは作り物だからね。本気にしたら・・・』と言ったところで、『妾はお嬢ちゃんではない!!歴とした邪神なのじゃ』とか言って怒り出したんですわ。
よく考えてみたら、さっきのセリフも頑張って覚えたんでしょうね。それを自分が台無しにしてしまったように感じてしまい、俳優のノリでこう言ったんです。
『失礼した!!邪神テティスよ!!我が貴殿の手足となり必ずや世界を絶望と恐怖に陥れてやろう!!』
すると、そのお嬢さんは満足そうに頷いて、それから話が進み、気付いてみればジョーンズ伯爵家の長男ポール・ジョーンズとして転生した次第です」
ゴードンとエリーナは疑いの目を向けている。
「ところで、何か証拠となるものはありますか?」
するとポールはカバンからテティスそっくりの像を取り出して言った。
「信じてもらえるかどうか分かりませんが、転生したときにこの像が枕元に置かれていたんですが・・・」
間違いない、あの娘だ。あの親にしてこの子あり、さすがは馬鹿女神の娘だ。
勘違いして突っ走り、人の話も聞かないところなんてそっくりだ。ポールさんも苦労しているんだろう。同じ悩みを持つ身としてみればもっと話が聞きたい。
日も暮れてしまったので、ポールさんを夕食に誘う。
「もう遅いですし、お部屋と夕食を用意しますので、今日はこちらで泊っていってください」
「そうですか!!それは有難い」
ポールさんがメイドに宿泊する部屋に案内された後、ゴードンが文句を言ってくる。
「お嬢様!!失礼ながら申し上げます。顔が良くて喋りが上手いだけの薄っぺらな男なんて、信頼できません。すぐに帰らせるべきです」
「ゴードン、相手は伯爵家の長男よ。少し変な話をするからって、それだけで追い返せないでしょう?そんなに心配ならあなたも護衛として食事会に参加しなさい」
「お、お嬢様と夕食・・・・」
ゴードンは感動しているようだ。多分、ポールさんに反感を持ったのは嫉妬からだろう。
「エリーナはどう思う?」
「話自体は信じられませんが、その話し方や演技力は大道芸人として学ぶべきところが多々あります。個人的にはもっと聞きたいです」
あなたの本職は龍騎士だからね!!そこは勘違いしないでほしい。
★★★
食事会はお父様とお母様、私とエリーナ、ゴードンの他にコウジュンとドロシーが参加する。いくら変人でも爵位が上の伯爵家の長男なので、こちらがもてなさないといけない。
私は元日本人なら、これは喜ばないわけがないと思い、料理長にご飯とみそ汁、肉ジャガを出すように指示した。料理長は「伯爵家の長男にこんな質素なものでいいのですか?」と聞いてきたが、一緒に居たコウジュンが説明してくれた。
「カレンお嬢様は、ここで我が領の特産品を売り込もうとしているんですよ。ジョーンズ伯爵領はウチよりも断然裕福ですからね」
そんなつもりはなかったが、結果的にみんなから尊敬されることになる。
料理を出すとポールさんは大喜びだった。
「これだよ、これ!!ああ・・・生きててよかった。嫁にも食わせてやりたい」
間違いない!!元日本人だ。
ポールさんの話は元俳優だけあって面白かった。芸能界のゴシップをこちらの世界に合うようにアレンジして、面白おかしく話してくれる。最初は仏頂面だったゴードンも大笑いだった。これは話が面白かっただけではなく、ポールさんはすでに結婚していて、第二婦人や側室をもらうつもりもないという話を聞いたからかもしれない。
お酒も入ったポールさんは上機嫌だった。私はもっとテティスのことを聞きたいと思い話を振る。
「ポールさん、もう一度テティス像を見せてくれませんか?」
私の聖母ガイア像より一回り大きいし、腰のあたりまで黄金色になっている。
「気になりますか?」
「綺麗だなと思いまして・・・」
「じゃあここで一つ、この女神像にまつわる小話をしましょう。御伽噺のたぐいだと思って聞いてください。
この女神テティス像は信仰心がある一定に達すると黄金に光輝き、そして女神テティスに会えるのです!!ある男は必死に信仰心を集め、女神テティスに会いに行きました」
ポールさんの話し方はなんとなく、どこかの落語家みたいだ。
「その男は女神テティスに『次に妾と会えたとき、ご褒美として一つだけ願いを叶えてやろう』と言われておりました。そして信仰心が集まり、意気揚々と女神テティスの元に向かった男は衝撃的なことを言われたのでした。
『すまぬ!!妾は誘惑に負けてしもうた。信仰心のポイントはすべて使ってしまったので、お前には何も与えることができぬのじゃ!!みじめな妾を笑ってくれ・・・』
そう言って泣き崩れる女神テティス。可愛そうになった男が言いました。『崇拝するテティス様にお会いできたことが何よりのご褒美でございます』と。すると女神テティスは言いました。
『あっぱれである!!これからも世界を恐怖と絶望に陥れるため、精進するがいい!!』
ということで男は何ももらえませんでした。しかし、その男はもうすでに女神テティスに幸せをいっぱいもらっていたのでした。めでたし、めでたし。
それで、その男というのが私なんですけどね」
すかさず、エリーナがツッコミを入れる。
「ポールさんたら面白い!!そんなわけ、ないじゃないですか!!」
エリーナ、そんなわけ、あるんだよ。
あの馬鹿娘はどうせおやつでも買ったのだろう。ところで私が集めた信仰心で、あの馬鹿女神も無駄遣いをしてないか心配になってくる。今度会ったら、釘を刺しておこう。
そんな感じで楽しい夜は更けて行く。
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