13 聖女、勧誘される 1
ヤサク司祭の説明は続く。
「私達正統派は、聖母ガイアの正しい教えを広めるのが目的です。何が正しいのか意見が分かれるところですが、教典に書かれていることの本質を見抜き、現在の社会情勢にあった真の教えを伝えて行くことがその使命だと考えます」
「それだと、聖母ガイア様の教えを捻じ曲げて、自分たちの都合のいいように利用している世俗主義者と変わらないのではないのでしょうか?」
私は疑問を口にした。
「それは手厳しいですね。私達正統派が一番重視しているのは、バランスです。世俗主義に傾き過ぎてもいけないし、旧教典以外は認めないという姿勢もよくない。それが一番難しいのですが・・・・。それが私達正当派の弱点ですね。
意見が分かれるので、議論ばかりで、なかなか話が進みません。基本的にみんな研究や議論が大好きなので、私達正統派が一番神学者が多いんですよ」
これまでヤサク司祭の話を聞く限り、三者三様だ。
「以上が三大宗派になります。その他の宗派にほとんど信者はいませんが、おかしな宗派も多いのです。自分を聖母ガイアの生まれ変わりと主張する者がいたり、最近信者が増えてきているのは聖母ガイアの娘テティスを信仰する一派ですね」
ああ!!馬鹿女神のグレた馬鹿娘か!!邪神になるとか、わけの分からないことを言う。
最後にヤサク司祭が言う。
「どの宗派もカレン様を取り込もうとして、使者を送ってくると思います。できれば私達正統派の考えに賛同していただきたいのですけど、無理は申しません。聖女様の御心のままにお決めください」
この三つから選ぶのか・・・・。
★★★
それから、様々な宗派の使者が訪ねてくることになる。
協議した結果、教会本部が私を鑑定しに来て、正式に聖女と鑑定されたら、その場でどの宗派に属するか発表するとお父様名で書状を出したことが大きな要因だろう。因みに「鑑定の儀」は私が成人を迎える15歳の誕生日とした。
これはコウジュンの策で、このように私が回答を曖昧にすることで、それまでは私の安全が保障される。だから使者には曖昧な返事をすることを求められた。「絶対にあなたの宗派には入らない」と言ってはいけないし、逆に「入る」と言ってもいけない。理想は、「あなたの宗派に入ることを前向きに検討してます」的な態度を示すことだ。
なので、私は非常に疲れている。いくら前世が結婚詐欺師でこんなことは慣れっこだったが、連日このように人が訪ねて来て、愛想笑いをしているとストレスも溜まる。ついゴードンに八つ当たりしてしまう。そういえば最近、ゴードンはまた元気がない。
そんなことを思っていたら、今日も使者が訪ねてきた。件の最大宗派スカム派だ。使者としてやってきたのは50代のデブルと名乗る枢機卿の小太りの男だった。「鑑定」スキルでステータスを見るとジョブは「教会関係者」という一般職だったが、「権謀術」と「謀略」のスキルを所持していて、世渡りだけでここまでの地位に登りつめたことを考えると、ある意味尊敬できる。
デブルの話はスカム派に入れば、如何に利益が上がるかということが中心だった。
「隣領のアバウス伯爵に掛け合って、街道の通行料を下げさせるか、撤廃させることも可能です」
それは魅力的だ。我がクレメンス領の財政が潤う。
私の表情が少し明るくなるとデブルは調子に乗って話始める。
「あの肉ジャガという料理は美味しいですな。原価もほとんどかからないのに凄く美味しい。聖母ガイアの認めた神の食べ物なんてことにしたら、金貨10枚でも買う貴族が出てきますよ・・・・どちらの意味でも美味しい」
本当に強欲だ。オルマン帝国の商人でさえ、金貨1枚なのに・・・・。
スカム派は、使いようによってはそれなりに利用価値があるかもしれない。利益を示せば、大貴族や王家からこちらに鞍替えなんて、朝飯前だろう。
私が思案しているとデブルが声を掛けてくる。
「カレン様、何か気掛かりなことがお有りですか?」
「それでは少し。我が領には多くの獣人が暮らしており、我が領にとって、彼らはなくてはならない存在です。スカム派の教えには、獣人を蔑むような教えがあるとお聞きしたのですが・・・」
「ああ、そのことですね。実はですね。これは極秘事項なのですが、最近、「聖母様は獣人達をお許しになった」という教典が発見されたのです。研究者によると、「その昔獣人達は悪行を行い、聖母ガイアの逆鱗に触れた。しかし、反省した獣人達を聖母ガイアがお許しになった」とのことでした」
気持ちがいいくらい節操がない。メイド兼護衛をしてもらっているエリーナは怒りの表情を浮かべる。更にデブルは「また新たな教典が発見されるかもしれません」とか言ってくる。暗にこっちで勝手に教典を捏造していると言っているようなものだ。
「魅力的なご提案で、前向きに検討したいとは思っておりますが、聖母ガイア様がどう判断されるかは、私にも分からないのです」
実際はこっちの匙加減でどうとでもなるけどね。
「それは仕方ないことです。一番はスカム派に属してもらえれば幸いですが、もし駄目ならそれなりの地位を保証していただきたい。本当にそれなりの地位でいいですよ。あくまでそれなりの・・・・」
次に来たのは原理主義者の枢機卿ウサールというこれも50代の男だった。ジョブは専門職の「神官騎士」で「頑固者」のスキル持ちだった。「頑固者」だけあって、話を聞かずに一方的に話を始める。
「教典がすべてです。祈りと鍛錬こそが、神に近付くことができる唯一無二の方法なのです!!私もこの年齢になっても、日の出前から起きて、祈りを捧げ、鍛錬を繰り返しています」
熱い話が続くが内容が入ってこない。精神論で生徒を追い込む中学校の部活の顧問のような脳筋親父だった。しかし、なぜか護衛のゴードンだけは目頭を熱くしていた。
これ以上、話を聞きたくなかったので、私はゴードンを身代わりにする。
「こちらはゴードンという私が最も信頼している従者の一人です。できればゴードンに稽古を付けていただければ幸いです」
「なんと!!聖女様は我らの教えに賛同してくれるということですね」
そんなことは、一言も言っていない。
そのウサールは滞在期間を1週間延ばし、ゴードンや従者、地元の冒険者に稽古をつけてくれたそうだ。因みにゴードンは神官騎士団にスカウトされたみたいだが、丁重に断ったみたいだ。
二大派閥の使者と面会を終えた私は、少しほっとした。
後はたまにくる少数派の意見を聞くふりをしていれば終わる。そう思っていたら申し訳なさそうな顔をしたヤサク司祭が女性を連れてやって来た。
「以前に私達正当派の勧誘活動は、私が熱心に勧誘したということにして報告していたのですが、こちらのフローラが納得せずに急遽やってきたのです。申し訳ないのですが、話だけでも聞いていただけないでしょうか?」
ヤサク司祭には良くしてもらっているので、私はこれを了承する。
しかし、これが思わぬ悲劇を招くことになる。
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