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1 結婚詐欺師、聖女に転生する

私はカレン・クレメンス。10歳の少女だ。

ルキシア王国クレメンス男爵家の一人娘で、父はロバート、母はマリア―ヌ・・・・。貧乏な男爵家だけど、両親の愛情をたっぷり受けて、幸せだ。

そうよね。私はカレンで間違いないわ。


あれ?昨日見た夢は何?


私は日本に住んでいて・・・・・。そうだ思い出した。私は転生したんだ。私を転生させた女神様が言っていた。「前世の記憶は10歳に戻るように設定している」と・・・。



★★★


前世の記憶が走馬灯のように蘇る。


私は東野加奈子という27歳の女性だった。決して誇れるような人生を送ったわけではなかった。だって、私は結婚詐欺師だったのだから。


幼少の頃は、それなりに裕福な家庭で両親の愛情をたっぷり受けて育った。しかし、中学1年生の頃に状況は一変する。大手の銀行の貸し剥がしに遭い、父が経営する会社が倒産した。後で分かったことだが、この倒産は仕組まれていた。父の会社を狙っていた役員と大手銀行の担当者が結託して父を陥れたのだ。


倒産後は貧しいながらもそれなりに幸せだった。しかし、不幸は続くもので、両親は、私の学費を稼ぐために夜遅くまで働いてくれていた。そんなとき、両親は配達の帰りに事故で他界してしまう。父の居眠り運転が原因のようだった。

そして両親の葬儀の席で信じられない話を聞いてしまう。内容から銀行の関係者のようだった。


『あの社長も可哀そうに・・・娘さんを残して逝っちまうなんてな。これは噂だけど、他殺の線もあるらしいぜ』

『俺も聞いたよ。あの社長、亡くなった日の3日前に当時の支店長に詰め寄ったらしいぜ。なんでも倒産に追い込まれた証拠を持っていたんだとさ』

『その支店長も今じゃ頭取候補だ。俺も社長には世話になったから何とかしてあげたいけど、家族もいるし、頭取候補には逆らえないもんな・・・』

『この件はもうタブーだ。知らない振りがいいのかもな・・・・』


怒りに震えた。でも中学1年生の私では何もできなかった。結局は警察も父の居眠り運転が原因で処理している。


時は経ち、私は復讐の炎を燃やしたまま、大人になった。当時の担当者で大手銀行の支店長だった男も父を裏切った元役員も分かった。そして私はその大手銀行の行員になった。名前も変えた。私が奴らが陥れた父の娘だとは気付かなかったようだ。


今度は奴らに私が復讐してやるんだ。汚いこともした。体も売った。そして支店長だった男と愛人契約を結んだし、役員だった男の娘とも肉体関係を持った。そして、奴らが父を陥れたことが分かった。


漸くこの復讐も終わる。当時の証拠も手に入れた。この証拠にプラスして、私が銀行から横領した金を元支店長の男の口座に振り込む、そして、元役員の娘には恨みはないが、娘との行為中の動画をネットに投稿する。これで奴らは終わりだ。


ここまで来るのに苦労した。資金を得るために結婚詐欺のようなこともやった。最後にお金をもらったのは田中さんという36歳の農家の男性だった。すごくいい人で、温かくて、熊のように大きな体なのに恥ずかしがり屋で・・・こんな人が私なんかと・・・。

多分、本当に好きになったんだと思う。復讐なんか忘れて、この人と一緒にと思ったことは何度もある。

しかし、私は復讐を選んだ。もう後戻りはできない。



★★★


私が死んだのは大雪が積もった寒い朝だった。その日私は始発の路線バスに乗っていた。私の自宅は桜が丘という小高い丘にある高級住宅街で、両親と暮らしていた場所だ。両親との思い出が忘れられず、高級住宅街に相応しくない安アパートに住んでいた。交通の便が悪く、始発でなければ出勤時間に間に合わないのだ。

私と始発から乗るのは、川崎エリナというお嬢様学校に通う16歳の少女だった。始発から乗るのは私と彼女の二人だけで、いつしか挨拶を交わしたり、雑談をするようになっていた。

今日も元気に挨拶してくれた。


彼女はまるで、聖女のような少女だった。可愛らしく、清楚で、私も両親が生きていればこんな娘になっていたかもしれない・・・・いや、それは無いか。


その日私は、復讐を決行する予定だったので、彼女との会話は上の空だった。出勤してすぐに元支店長の男の口座に横領した金を振り込み、元役員の娘の痴態をネットにアップする。そして、好きだった田中さんに謝罪してお別れを言うんだ。


そんなことを思っていたら、バスの前に雪でスリップした対向車がはみ出してきた。危ない!!と思ったところ、バスの運転手は咄嗟にハンドルを切った。そしてバスはガードレールに激突、ガードレールを突き破り、崖に転落した。

ここで私の意識は途絶えた。



時間がどれくらい経ったのかは分からないが、私が目を覚ますとそこは神殿のような厳かな場所で、美しくグラマラスな女性が立っていた。その女性は優しく私に語り掛けてくる。


「私は聖母ガイア。残念ですが、あなたは不幸な事故で亡くなりました」


衝撃を受けた。私は死んでしまったんだ。多分この人は、地獄の閻魔大王的な人なんだろう。復讐も遂げられず、多くの人を騙し、このままじゃ両親が待つ天国へは行けそうもない。それに両親に合わせる顔もない。

私の思いに関係なく聖母ガイアと名乗る女性は話を続ける。


「あなたは生前、誰に対しても分け隔てなく接し、周囲の者に幸せを振りまいてきました。まるで聖女のようです。まだまだ、これからというところで不幸にも10代で命を落としてしまったあなたに聖女として、転生の機会を与えます。そして使命を果たすのです」


多分、一緒に死んだエリナちゃんのことを言っているだろう。間違えてる。小柄で美容に気を使っていただけあって、無理をすれば10代に見えなくもない。

しかし私が聖女のような行いをしたことなんて、一度もないと思う。それどころか、「悪女」「売女」「アバズレ」「詐欺師」そんな言葉が似合う女だ。

私はエリナちゃんのことを思い、正直に話す。


「その・・・女神様・・・大変言いにくいのですが、多分人違いだと思うのですが・・・・一緒に亡くなった・・・」


そう言いかけたところで女神様が話を遮る。


「少し戸惑っているようですが、話を続けます。まずは、あなたの使命についてです。聖女として転生し、正しい教えで人々を導くのです!!」


どうやら、この女神様は話を聞かないタイプらしい。

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