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異世界民宿 物見遊山  作者: 有栖多于佳
8/31

トビーの恋の顛末とイカスミトマトヤキソバ

トビーからの視点です。

ヨシコが視察旅行に親方の奥さんと妹のメグと出かけていった。

妹は護衛でだが。

俺は民宿の周りをグルっと回って異状がないか見て回る。


「問題ないな。」

さて、じゃあ帰るかと歩き出すと、

「トビー巡回が終わったんなら、俺に付き合え。」

と、親方に呼び止められた。


「良いですよ、どうしたんですか?」

「今、アンナが居ないだろ?飯に付き合え。」

「俺はいいッスけど、息子は?」

「彼女とデートだそうだ。」

「へー、年頃ですね。」

「お前が言うか。まあ、行くぞ。」


親方と並んで、飲み屋街の方へと歩き出す。


親方がオーナーでない行きつけの店へ入ると、とりあえずエールで乾杯だ。

「適当になんか出してくれ。」

「はいよ。」


親方は行きつけの気楽さで、店主におまかせする。


しばらく、エールと出てきたツマミを二人黙々と食べる。


「お前、いくつになった?」

「二十六です。」

「そうだな、メグは二十四だ。」

「そうですね。」


なんとなく、話の行き先がみえた。


「お前んとこの母さんが、お前とメグのことを心配してるぞ。」

「ええ、まぁ・・・。」


俺の家は、オヤジも長男も次男も三男の俺も親方の所で漁師をやっている。

嫁いだ長女とオフクロはツナ缶作業所、長男の嫁は土産物屋で働いている。

うちの一家だけでなく、大方のこの村の連中は親方がオーナーの所で働いてるから、この辺じゃハンジ村なんて言われてるくらいだ。

だから、うちの内情なんて親方には筒抜けだろう。


「お前がヨシコを諦められないって気持ちもわかるよ。でもな、ヨシコにきっぱりとフラれたんだし、それから三年もたってるんだ。そろそろ他所に目を向けても良いんじゃないか?」


親方の言いたいことは良くわかっている。

同じことをオヤジにもオフクロにも兄貴たちにも、漁師仲間にも幼馴染みにも、何ならたまに行く飲み屋の女将にも言われている。


「例えば、俺は四十になるが十六かそこらの娘が言い寄ってきても、俺の子供と同じ位の女は女として見れないってのはあるよ。そりゃ、若い女が良いって性分のヤツもいるだろうが、俺はそういう性分じゃない。

それこそ人それぞれだろう?ヨシコが十も年下を男として見れないって言ったのならそういう性分だ。それはしょうがない、受け入れるしかないだろ?」


「わかってますよ、受け入れてます。俺は。」

「え?」

「そういう話はそれこそこの三年、周りのみんなに言われましたし、そうだな、と納得してます。」

「それなら、なぜ。」


親方が困り顔で言葉を詰まらす。

イサキのカルパッチョとマグロのタルタルを運んできた、店主も『えぇ!?』って顔で二度見する。


聞き耳を立ててるんじゃないよ、てか、この話に店主も噛んでるのか。


この王国では七歳から九歳まで教会で『読み・書き・計算』を平民全員が習わされる。

教会が領主と国から寄付という形で費用を徴収しているため、平民はただで習うことができる。

貴族は家庭教師から高等な教育を受けるらしいし、平民でも金持ちや頭の良いヤツで本人が望めば別の教育を受け、役人や武官になったりする人もいる。


だけど、俺は別に勉強は好きじゃなかったし、海が好きだったし、オヤジみたいな漁師になるんだと思って十歳で親方に弟子入りした。


ハンジ村だから、親方の所では漁だけでなく、いろんな仕事があって、言われるまま、あちらこちらの仕事を手伝った。


そんな中で、仕事仲間の女に付き合って欲しいと言われることも良くあった。


俺は、好きという気持ちはよくわからなかったけど、ガキの時分から付き合った事もあるし、断ったこともあった。だから、《相手が自分を好きでないから断わる》ということは始めから理解していた。


空からヨシコが落ちてきて、海から引き上げた時、治療院に運んだ時、親方の所に連れていった時、ヨシコは絶対自分より年下だと思った。

子供のような背の小さい細い華奢な体、青白い肌にきれいな長い黒髪、村では見たことがないタイプだった。

慣れない場所と仕事に戸惑いがちな様子に庇護欲が刺激されたようで、気づけば数日後に告白をしていた。

その時は、『今はそんなことを考える余裕がない』と言われて断られたが、その時はその言葉から、時期の問題だと思った。

その辺りで、ヨシコが自分より十歳年上だということを知りとても驚いたが、それで俺の気持ちが変わることはなかった。


王都から戻ってきて、親方の奥さんと新しい仕事を次々興しているヨシコは最初の時よりこの世界に馴染んだように見えたので、じゃあもう一度告白しようと思って幼馴染みに相談した。


そしたらそいつが『ヨシコの年考えたら、付き合うじゃなくて、すぐ結婚しないとだろ』と言われ、『ああそういうもんなのか』と思ってプロポーズはサプライズで花束持って跪いてするものだと既婚者が言うんだからそう言うものだろうと、言われたようにした。


仕事終わりに作業所に出向いて、跪いて花束を渡した。

ヨシコは真っ赤になって

「お断りします」

と、ハッキリと言われた。

「十も年下の人とお付き合いしません。」

とかなんとか、年を理由に断られた。

「そうか。」

と、立ち去ると後ろからすごい勢いで走って追いかけてきたオフクロと姉ちゃんに頭を叩かれた。

いくらなんでも、時と場所を弁えろと。


これじゃあ、ヨシコが仕事場でいいネタになっちゃうし、気にして仕事に来辛くなっちゃうだろうって。


その後、親方の奥さんも家にやって来て、ヨシコが俺を気にして作業所の仕事を辞めたいといっている話とヨシコの生い立ちがツラいものだった話も聞いた。


親との歪な関係がトラウマとなって、ヨシコは他人との間に高い壁があるし、他人の目をひどく気にするし、結婚に嫌悪感を持っているようだと奥さんは泣きながら訴えてきた。


ーあぁ、俺は自分のことしか考えてなかったなー


思えば、俺は今まで一度も相手がどう思うか、なんて考えて生きてこなかった。

自分の気持ちのままに過ごしてたんだな、悪かったなと反省した。


どうしたらいいかと眠れぬ夜をすごし、翌日朝、早くに作業所に行くとそこには一人ヨシコが仕事をしていた。


「こんな早くから、何してるんだ。」

えッ?と驚いて、顔を上げるヨシコに、入り口から声をかけた俺は

「昨日はごめん。断られたの理解した。周りの話のネタになっちまうのもゴメン。考えなしだった。」

と、頭を下げた。


「わかったわ。頭を上げて下さい。」

困り顔なのに、口許だけ薄く笑みをのせている。


「作業所を辞めるって奥さんから聞いた。俺のせいで申し訳ない。オフクロや姉さんがフォローするって。ヨシコが辞める必要ないだろって。俺が言うのも烏滸がましいが。」


「ううん、前々から仕事を減らして行こうと思ってたから。私は突然この世界にやってきたでしょ?同じように突然消えて居なくなっちゃうかもしれないでしょ?その時仕事を抱えていたら、迷惑をかけてしまうから。私の存在自体、曖昧で不安定だから。」


きっと俺を断ったことも気にしてくれているんだろうな、それだけじゃなくて色々周りのことも気にして、なんて生きにくい人なんだろうと思った。


「俺はフラれたこともわかってるし、ヨシコと結婚することは無いと理解している、でも、ヨシコがこの世界にいる間、ヨシコが困ったことを俺が手伝うことを許して欲しい。」


「なんで、そんなこと・・・。」

「迷惑かけたお詫びだ。」


***********************


「じゃあ、お前がヨシコの周りをウロウロしているのはあの時のお詫びなのか!!」

「まあ、平たく言ってしまえばそうですね。」

「でも、明らかに周りに牽制してただろう。」


「だって、ヨシコを囲おうとしてきた変な商人や遊び相手にしようと企んでいる冒険者なんて危ないヤツら、牽制するに決まってるじゃないですか。女一人で宿屋やってるんですよ、防犯です。」

「防犯って、それってもう好きじゃないのか、お前は。」


「いや、好きですよ。でもヨシコは俺を求めてないので。断られてますから、オ・レ。親方も奥さんもヨシコを好きでしょ?」


「そりゃ、好きだがそれは妹みたいな子供みたいな、そんな・・・」

「そうですよね、俺もです。ヨシコが幸せにしてくれてたら、それが嬉しい。そんな気持ちを持つのってダメですかね。」


「「だったらそう言えよー!!!」」


*************************


「ただいま、トビー。お土産よ。」

「おかえり。ああ、ありがと。休みの間、店に問題はなかったぞ。」

「新しい料理を覚えてきたのよ、夕飯食べてく?」

「ああ、もらうよ。」


旅先で買った黒い乾麺を茹でる。

カーボロネロと烏賊と豚肉を細切りにして、フライパンに胡麻油で炒めて塩コショウする。

茹でた麺も入れて鷹の爪とトマトソースに少しウスターソースを入れて炒めて出来上がり。


「これはイカスミパスタ?」

「違うわ、イカスミ麺というらしい。烏賊ヤキメンって食べ物だって言ってたわ。屋台でも売ってて食べたけど、トマトソースを入れたのは私のオリジナルよ。」

「へえ、旨いよ。屋台でこの焦げたソースの匂い嗅いだら絶対買うな。」

「そうでしょ?アンナもそういっていたわ。夏に海辺の売店で売るって言ってた。」

「さすが、奥さんは抜け目がないな、やり手だ。」

「ほんとうね。」



ヨシコにある好きという気持ちをどう表現したら周りにわかってもらえるのだろうか。

彼女が過ごす毎日が、幸せであるようにって思う気持ちをどう表現したらいいのだろうか。

明日も民宿の調理場にヨシコが立ち続けれますように。

同じ毎日が続きますように。



お読みくださいましてありがとうございました。


誤字誤謬があるかもしれません。


わかり次第訂正いたします。


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