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異世界民宿 物見遊山  作者: 有栖多于佳
30/31

後日談  物見遊山その後

「母さん、こっちの掃除は終わったぞ。」

「悪いね、じゃあ、玄関の周りを頼むよ。」

「はいよ。」


トビーが箒とちり取りを持って外へ出る。

玄関先の花壇には、良子が植えた紫陽花が今を盛りと咲き乱れている。


そうだ、《先に水やりをしとくか》と、その場に箒とちり取りを置いて裏手の物置から如雨露を取り出し、井戸で水を汲む。

それを持って、さあ、と歩き出した瞬間、後ろからポカっと叩かれた。


「あんたは漁師をやってりゃ良いと言いつけたはずだろ?」

振り返るとアンナが腕を組んで立っていた。


「いや、今日は俺、休みだし。漁を休んだ訳じゃない」

「休みなら、体を休めてりゃ良いんだよ。」


「だって、母さんと義姉さんだけだと、手が足りないって。今はシーズン真っ只中じゃないか」

「だから、あたしがいるだろう?」

「女将さんだって、夜もこっちで寝泊まりしてるんだろう?孫だって生ませたばかりで手がかかるだろうし、他の仕事もあるんだ、少しは休めよ。」


グヌヌっと言葉に詰まる。

確かに、一番上の娘が先日二人目を出産して、まだ屋敷に里帰りしているのだ。

三つの孫の世話もあり、他の宿屋や食堂の管理もある。

ハンジも手伝ってくれているが、漁も最盛期。

成人したばかりの末息子に缶詰の作業所を任せられたのは僥倖だ。


「あのー女将さん、こっちの表にお客様がいらしてますが。」

義姉が建物の中から、声をかける。

「え?」

と顔をあげると、トビーを従えて急いで玄関へと回った。


そこには、白銀の髪に薄い蒼い瞳を持った細身の美少年、元教皇ユーリィが待っていた。


「あれ、今日はどうなさったんです?お一人ですか?」

アンナが声をかける。いつもピッタリと側に寄り添っていた聖騎士エノクの姿が見えない。


「ええ、エノクは故郷に帰りました。故郷の騎士団に入りました。」


ユーリィが簡単に説明する。


とりあえず中へと案内し、ロビーのソファーに腰かけて話を聞くことになった。


あの、”王妃あんりと良子の帰還の魔方陣”の形成に多くの教会関係者が魔力を絞りだしたが、死ぬほど魔力が枯渇した者は居なかった。


生き残ってしまった者たちは、サルアール王国にて裁判され、多くは鉱山労役につけられた。

魔方陣形成で魔力を搾り取られたので、その多くの者たちは魔法が使えない体になり、また教会での身分も無くなった為、平民として処分されたのだった。


ユーリィは教皇として、厳罰を希望したが、幼い時に教会に拐かされた被害者であり、本人が悪事を働いた訳ではないので、教会に残って失った信用を取り戻して欲しいと、数少ない善行の神父や司祭に懇願されていたが、それも拒否して、元の平民の身分に戻ったという。


「それじゃあ、エノクさんと一緒に親元に戻れば良かったじゃありませんか。」


「いや、エノクは魔力を失っても騎士としての剣技がありますから役に立ちますけど、魔力とスキルの無い私なんて、貧相なただのガキですよ、なんの役にも立たない。」


「じゃあ、どうして、ここへ?」

訝しげにアンナが聞く。


「民宿 物見遊山で雇ってくれませんか?私はもう夢見はできませんが、かつて見た夢見でヨシコのレシピは覚えているんですよ。再現できますよ!」

「「ええ!」」

「ね、お役に立てるでしょ?」


ユーリィは悪戯気に微笑んでウインクした。


《民宿 物見遊山》の名物は、ほどほどの料金に、温泉と清潔な室内そして良子の作る美味しい朝食が売りであった。温泉や室内の清潔さは保っているが、とびきり美味しい良子の朝食が作れず、常連客から残念の声が上がっていたのだった。


「それは本当かい?」

「もちろん、こう見えても私は元教皇ですよ。嘘はつきません。」

「じゃあ、ぜひお願いしたいよ!」


アンナが飛び上がって喜び、直ぐにハンジを呼びに走る。


「これで、《民宿 物見遊山》が続けていけるよ。ヨッコこっちはなんとかやってるよ。」


空を見上げると、そこには大きな二体の竜が飛んでいた


ー それは 神 の 祝 福 ー


<完>

お読みくださいましてありがとうございました。

これにて完結となります。

お付き合い頂きましてお礼申し上げます。


誤字誤謬があるかもしれません。

わかり次第訂正いたします。

いいねなどいただけますと励みになります。


よろしければお願いいたします。

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