元の世界へ帰る秘術 王妃の世界線と良子の世界線へ
食べ物の話は出てきません
今日もう1本を上げて本編完結となります。
朝食の片付けを終えると、アンナと親方と連れだって港へと向かう。
他のみんなに見送られながら。
ー 見送ることはあっても見送られることは初めてだな ー
そんなことを思いながら、静かに道を進んだ。
港からは親方が出す船にアンナと乗り込み、あの海の切れ間に向かう。
その場には、数々の豪華な大型船が停泊していた。
サルアール王家だけでなく、各国の王家が今回の出来事を詫びて、自国の魔術師や魔法戦士を送って来ていた。
教会本部の船団と各国の紋章や家紋を付けた船が多数留まっていた。
そこへ親方の漁船で良子はアンナと共に進み出た。
正午になるころ、教会の船室から教皇が甲板に出てきた。
その後ろを、足枷の鉄球を付けられた多くの教会関係者が聖騎士に連れられてゾロゾロと進む。
それを合図に、全船の甲板に魔術師らが並んだ。
教皇がよく通る声で呪文を唱え始めると、その教皇に向けて魔術師たちが一斉に魔力を注入し始めた。
しだいに黒い雲が空を覆うと真っ暗になり、そこに大きな赤い魔方陣が浮かんだ。
一隻の豪華な船がツツツーと前に進み出て魔方陣の真下に停まると、甲板に老貴族が進み出て、自ら何やら呪文を唱え始めた。
その老貴族にも他の船の魔術師らが魔力を注ぐ。
その中にはサルアール国王も王太子も、現公爵の姿も見えた。
呪文を唱え終えた老貴族が空に両手を翳すと、空が割れその狭間から眩い光が溢れた。
光の中から白い着物に朱色の袴を着た少女が出てきて、教皇の形成した空に浮かぶ赤い魔方陣にスーっと吸い込まれて、パッと全てが消えた。
すると空一面を覆っていた黒い雲がサーと晴れていった。
「成功だ」
「あんり様は帰られたぞ。」
「ああ、やっと、やっと。リーゼロッテ様、あなたの約束が果たされましたぞ!」
サルアール王家と公爵家から歓声が上がる。
公爵家の老貴族は歓喜のまま、その場にバタンと倒れた。
「いよいよだ、良子。」
親方が涙を溜めた目で声をかけてきた。
「ああ、気を付けて帰るんだよ。」
アンナが私を強く抱き締めていう。
「なんだい、その気楽な感じの言葉は。」
親方がアンナにいうと、
「うるさいね、少しは黙ってろってんだよ。感傷に浸る暇もあったもんじゃないよ」
と、相変わらずの言い争いを始めた。
ふふふ、あはは、あはははは
私はいつもの調子の二人をみて、可笑しくて可笑しくて、腹を抱えて笑った。
「何だい、大笑いして。だいたいあんた、そんな風に笑うの初めてじゃないか!そうやって笑ってれば良いんだよ。これからもそうやって楽しい時は楽しそうに笑うんだよ。」
アンナがギューギューと抱きしめて、そんなことを言うから、笑い顔で別れたかったのに、涙が溢れてしまう。
「ヨシコ ワタナベ、一人で前へ進み出てくれ」
教皇が言うので、アンナと親方から離れ甲板の先端に立つ。
教皇が再び呪文を唱え、他の魔術師らが魔力を注ぐ。
また、空を暗い雲が一面を覆い、真っ暗な空に赤い魔方陣がそこに浮かぶ。
聖騎士エノクとその一団が魔法でヨシコの体を空に持ち上げ、魔方陣の中央へ乗せた。
全船団の魔力がその魔方陣に注がれた瞬間、稲妻が横に走り、雷鳴が轟いた。
すると、雲の中から大きな白い竜が飛び出してきて、空一面に金色の閃光が走った。
その瞬間、良子は魔方陣に吸い込まれ元の世界に戻されたのだった。
雲が晴れ、快晴の中を堂々と泳ぐ白竜をそこにいた全員が目撃したのだった。
「あれが、古代のドラゴン?」
誰かが誰かに問いかける。
「いいや、あれは創生の神、白い男神だろう!」
教皇が答えると
「控えろ、控えー」
エノクが声を張り上げ命令する。
その声を聞いて、そこにいた者は膝をつき、みな一心に祈る。
《どうぞ、お許しください》と。
《世界の破滅はお許しください》と。
その声が届いたかどうかは伺い知れないが、
一瞬の眩い光と共に、白い竜神はまた空の狭間に消えていったのだった。
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