百五十年前の王妃の話 異世界転移JKは教会の策謀から逃げ出したい 後
食べ物の話はまだ出てきません。
今日は20時にもう一つ出します。
私の話を聞いた王太子と宰相は、直ぐ様、サルアール王に内容を告げた。
王も驚いて、言葉を失っていたが、何とかしなければならない。
元々、遥か昔からの教会が決めたルールだったのだ。
各国で寄進の多い順、深刻な問題の順、後はだいたい持ち回り順で、その時の問題を神託によって解決できる、いや問題解決は神の御心に添わねばならないという、遥か昔からのこの世界のルール。
たまたま、今回この王国が順番に当たっただけなのに、なんと不運なことだと、王は嘆いた。
「いや、違うだろ。問題があったら、それを解決するのが為政者としての役目だろう。
神様の言う通りなんてことなら、王家なんて必要ないじゃん!」
悲嘆にくれる王に厳しい言葉をぶつける。
「だいたい、百年間は自分達で解決しているんでしょ?」
「百年どころじゃない、順番が来なければ、何百年と時間が経ってしまうのだから、解決策を講じるしか無かろう。」
「じゃあ、神の神託なんて要らないじゃん。」
「え?」
「だって、いつも解決できてるんなら今回もできるでしょ?」
「そうですわよね、私も予てよりそう思っていましたわ。だいたい今回の問題とは何なんですの?」
ロッテが、私と一緒になって王に尋ねる。
「実は、食料不足が深刻なのだ。気候は変わらないのに、もう数年も収穫量が減っているのだ。神の祝福が枯渇してしまったのだろうと。」
「いや、それ、連作障害じゃない?」
つい王の言葉に被せてしまった。
あっちの世界で聞いたことがある話だが、問題の解決策はわからない。
「ああー、こんな時ネットがあれば。ちょっと呟くだけで、詳しい人の話とか記事のスクショとか出てくるのに。」
「ネットとはどう言うことですの?」
ロッテが私の独り言を聞いていたようで、質問してきた。
それも詳しくはわからない。
なんと説明すればいいのか、うんうん唸って、紙に絵を描いたり線を引っ張ったりしながらぼんやり曖昧ながら、説明する。
「魔術師団長を、魔術師を呼べ。そして、あんり殿の説明を形にせよ。」
王が威厳に満ちた表情で臣下に告げる。
この王国に来て初めて王の権力を目にしたのだった。
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魔術師団長と魔術師の一団は、私の言ったことを形にした。
そして、小鳥の囀りという魔法を完成させた。
王国の国民のつぶやきから、答えが得られるかもしれないと日々分析していると、ある農民が連作障害を無くすためにクローバーや菜種などを作ると良いということを自分の兄弟に教えている話を、当直の魔術師が耳にして、さっそくその農民を特定すると王命によって農業指導に当たらせることにした。
彼によって、王国の生産量や農業技術力が数段上がるのはまた、別のお話。
また、王は秘密裏に王直属の部隊を教会に差し向けた。
この武力行動は、教会にババを引かされたと恨み心頭の王は即決即断であった。
教会は、武力では決して秀でていないので、程なくして教皇の身柄を拘束すると共に、その秘術の魔方陣を王国で制圧した。
教会はその瞬間、サルアール王家の管理下に置かれた。
教皇と枢機卿など教会幹部に、青の女神の話をすると、全く信じなかった。
なので、私は
「では青の女神に直接聞いてみたらいい」
と提案した。
私に催眠魔法をかけてトランス状態にし、それを別のビジョンというスキルを持った魔術師が頭の中の出来事を王宮の空間に映し出すことができるのだ。
この話の真贋を見極める為に、王国の魔術師団長と優秀な魔術師の面々がこれも寝ずに編み出した魔法だった。
この方法でサルアール王家とそれに使えるものは既に青の女神とのやり取りを目の当たりにしていたのだ。
始め九十九魂が自身の身の上に起こったこと、悲しみ、恨み、もとの世界に帰りたいという未練を次々と告げる。
そして最後に、青の女神が言うのだ。
「なんと、愚かな白の子たちよ。自身の片割れを手にかけ世界の均衡を崩した。それを許した白の男神も愚かなり。許すまじ許すまじ。」
魔力のある人はビンビンと感じる神の怒気に触れ、気を失うもの、失禁するもの、怯えて気の触れるものが続出した。
私は魔力がないから、そんな感じにはならないけれど、魔力が強ければ強いほど精神的に病む度合いも強くなるようだった。
これを体験した教皇は、教会の間違いを認めて魔方陣とその一切合切を破壊するとサルアール王国に約束した。
更に、教皇は青の女神と白の男神に呼び掛け問いかけ、二柱はその呼び掛けに答えた。
教皇は教会への罰を乞うた。
二柱の夫婦神は教皇に、破壊の後、この忌まわしき記憶をこちらの世界のすべての人々から奪うように言った。
二度とこのようなことが起こらないように、と。
また人柱となった九十九の魂を元の世界の新たな輪廻の輪に戻せ、と。
教皇は自身と教会幹部の魔力を全て使って、九十九の魂を戻し、世界中の人々からこの記憶を奪った。
教皇と他の多くの教会幹部はこれらの魔法の行使で全員、事切れたのだった。
青の女神は白の男神に対しても罰を与えた。
神様でも間違えば罰を与えられるのだ。
その罰とは、青の女神が次に深淵の眠りから目覚めるその時まで、白の男神も雲の狭間で謹慎することだった。
独り世界の有り様を見ていたとしても、手も口も出さず、ただただ黙って見ているだけ。
神として、自身の白い子に手を出したくても出せない歯がゆい思いを、愚かで馬鹿げた間違いを犯す子の姿を、ただじっと見つめているだけ、これを白い男神への罰としたのだった。
そして、同じ罰を、深淵の底で青の女神もまた受けるのだ。
「さて、アンリよ。」
白の男神から声がかかる。
「お前には迷惑をかけた。元の世界に戻そう。」
「いいえ、白の男神様。私はまだ元の世界に戻れません。」
「どうした、なぜ拒否する」
「いや、わかった。」
白の男神は不思議がり青の女神は了承した。
「全ての者が今回のことを忘れ去ってしまえば、また同じ過ちが繰り返されるでしょう。その時今日のこの出来事を告げる存在として、私は残ります。」
「では再び同じような愚行が起こった時まで、そなたも白の男神と一緒に白の世界を覗いていろ。それがお前に与えられた罰だ。」
「僭越ながら、女神様へ王太子妃リーゼロッテがお伺いいたします。なぜ、あんり様が罰を与えられないとならないのですか?」
リーゼロッテが憤懣の表情で神に問う。
「それは、あんりの世界での贖罪だな。」
青の女神が慈愛を込めた声で告げる。
「はい、青の女神様。仰せのままに。」
そうして、あんりは白の男神と共に雲の割れ目の世界に閉じられたのだった。
後日、顛末を忘れぬように渡り人あんりに王妃としての地位を与え、サルアール王国史に歴史的事実として残し、
同じようなことが起きた時に王妃あんりが降臨して今回の話の顛末を子孫へと語り告げるような継承魔法を整備したのは、賢妃リーゼロッテその人の功績である。
その全ての後始末を終えた後、リーゼロッテの記憶も消えてしまったのは神の御力のせいなのかもしれない。
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長い長い昔話を聞いた。
この教皇とサルアール王家の話は魔法の塔から全ての国の全ての人の頭に流れ込み、この世界の理を知ることとなったのだ。
良子を捕まえようとサルアール王国に兵を進めた国々は、神の怒りを恐れ戦き、教会の関係者は教会が成立時期から行っていた愚行を恥、それを重ねてまた渡り人を生け贄にすれば世界の終わりのトリガーを教会が引きかねなかったことを嘆いた。
「枢機卿、あなたは自分のした行為の罪深さをどうするおつもりですか?」
牢の中で、取り巻きだった司教が騒ぐ。
枢機卿は黙って空をぼんやりと見つめる。
枢機卿は夢見のスキルのある寒村の少年を見つけた田舎の司祭の出だった。
寒村からその少年を連れ出し、養い親として教会での地位を上げていった。
夢見のスキルの少年が予知夢をみた際に、自身の持つビジョンのスキルを使って自分も予知を知ることができたからだ。
それを武器に、少年を教皇の座につけると、自身は枢機卿となって実質支配した。
如何にも俗物らしい人物であった。
その彼に向けて、魔法の塔から呼び掛けがあった。
「枢機卿よ。あなたのビジョンでは捉えられなかったかもしれないが、ここまでの顛末が私の夢見での出来事だ。あなたは数分はビジョンとして見れるが、それだけだ。しかも、この顛末は繰り返し繰り返し何度も見ていたのだよ。あなたが私の村に来て、私を連れ去った日からね。あなたとあなたに荷担した全ての教会関係者に告ぐ。あなた達の魔力を差し出し、良子とあんり様を元の世界に戻す。勿論私も、教皇としての責務として全ての魔力を提供することを約束しよう。」
それは夢見の教皇たる堂々とした物言いであった。
全ての魔力を提供するとは、事切れることを指すのだが、それは覚悟の上のことのようだった。
そして、良子とアンナは皆の待つ親方の屋敷に転移させてもらった。
とっくに日が暮れていた。
長い一日がようやく終わった。
お読みくださいましてありがとうございました。
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