百五十年前の王妃の話 異世界転移JKは教会の策謀から逃げ出したい 前
食べ物の話は出てきません
人の目が怖い
家族から離れ、大きな湖の周りに神社が配置された特別な場所
そこにある有名な神社の系列の末社の神主を代々やっている祖父母の家
住み慣れた地元を離れ、そこから高校に通うことになった
誰も私のことを知らないから
通い始めた高校では、あまり話す人が出来なかった
それは私が知らず知らず、卑屈な態度で居たからかもしれない
うまく行かない人間関係 家族との関係は最悪で
特に母親とは まともに話すことがなかった
神主のじいちゃんに倣って、巫女の真似事をしている時が唯一気が休まる時だったのだろう。
ある日、いつものように学校から帰ると服を着替え、竹棒きで掃き掃除をしていた。
神社の鳥居のへと繋がる階段を掃いていると、竹藪の向こうに強い白い光が見えた気がした。
なんだろう・・・
不思議に思って光のする方へ行ってみると、その光の中へと吸い込まれてしまった。
キャアアアアア
強い力で押さえつけられるような、からだが引きちぎられるような、強い痛みを感じて気を失う
どのくらい時間が経ったのだろうか?
意識が戻った時には、私は教会の魔方陣の中にいた。
そこはまるで地獄絵図のよう・・・
魔方陣の周りに倒れている男女はミイラのように干からびて折り重なっていた。
着ている服はまちまちで、四方には教会の神父のような服のミイラもあった。
キャアアアアア、今度は恐怖で震えが止まらず、叫び声を上げた。
「青い子、渡り人よ。名を何と申す?」
「あああああ、あん、あんり。」
暗闇の中、青白い顔色をした黒い服の男に答える。
「アンリか。怯えるでない、こちらへ。」
男の手招きする方にと震える足を手で押さえながら、立ち上がり進み出た。
その後、教会のシスターに世話を焼かれながら一月ほど過ごした。
その間は別に何をするわけでもなく、この世界についての創生の神話を聞いたりしていたくらい。
衣食住は与えられた。
この頃になると、あの日の男がこの世界で教会のトップにいる教皇であること、ここは魔法の発達した世界であること、私を異世界から魔法で呼ぶ為に人がたくさん死んだことを知った。
私は何かのために呼ばれ、これからいつまで生かされるのかと恐怖で肌が泡立った。
ただ、余分なことを言って殺されないようにと、心がけた。
「この度はサルアール王国が神託を受ける資格を有したため、アンリはそちらへ移ってもらう。」
突然教皇に告げられるとそのまま教会の騎士の転移魔法でサルアール王国に向かった。
一瞬のことだった。
サルアール王国に着くと、王宮の侍女に体を磨かれ、豪華な部屋が与えられた。
夜になると、することも無いので早々にベッドに入る。
大きな贅沢なベッド。そんなの求めて居ない、帰りたい。
私はおじいちゃんちに帰りたかった。
教会の時は恐怖で感じていなかった悲しさが、王宮での豪華さの中、感じるようになった。
グズグズと涙に泣き濡れながら、寝入ってしまったようだ。
夢現、同じように泣いている少女がいる。
《うちに帰りたいよ》
《帰れないの?》
《帰れないの》
《何で?》
《白い神様の生け贄にされたから》
《生け贄って何?》
ある金髪の女性はある国の王宮で好き放題贅沢三昧をさせてもらって一年後、突如自身の頭上に魔方陣が現れ肉体が吸い込まれてしまった。
ある子は、好きなお城を与えられて好きに過ごした一年後、同様に魔方陣に飲み込まれてしまった。
そんな九十九魂の思念をみせられて、起きた時には自分の行く末をよくよく理解した。
一月が過ぎ、王との謁見の日、御前につき出された私に、
如何にも無尊な態度で王が口を開く。
私の願いは何かと聞く王に
「もとの世界に帰ること」
私はニコリともせずに答えた。
「そ、それはできない。」
王は目を泳がせながら声を絞り出した。
「そうでしょうね。ある国では暴動を回避する願いを聞くために生け贄を与え、ある国は蝗害から救ってもらうために生け贄を捧げ、ある国は疫病から助かるために神の神託を得た。ちょっとバカすぎない?」
嘲るように言い放つと、側に控えていた者たちが口々に不敬だ不敬だと騒いだ。
「じゃあ、殺せば?どうせ生け贄にされて肉体は引きちぎられてしまうんだから。」
毎晩繰り返しみる夢の情景を思い浮かべて、苦々しくいう。
「はん、あんたたちにはできないでしょうね。こんな問題も神様
に聞かないと答えがでないんだもん、私が居ないと困るんでしょ?」
更にバカにした口調で言う私を、
「不敬なり。死ぬまでに心残りがないよう、好きなことをさせてやろうという温情をバカにしおって。お前にかける温情はもはや無い。すぐにでも贄にしてやろう!」
怒りに震えた王様が私を捕らえるように衛兵に命令した。
「温情?心残りの無いように?この世界には九十九魂の生け贄にされた子の怨みの思念が漂っているわ。だから私が自分の行く末を知っているのでしょ?このまま私を百人目の生け贄にした時、神の神託ではなく世界の破滅が待っているわ。」
「な、何を戯れ言を。そんなこと教会からは言われていない。」
ちょっと怯んだ王さまが不安げに言葉を出す。
「そりゃあ、教会も知らないもの。私は毎夜九十九魂に会って聞いているもの。さあ、やってみなさいよ、さあ、さあ、さあ。世界の終わりのトリガーを引くのよ、王様。」
私は手を広げ自身の胸を指差して、言った。
さっきまでのざわめきが止まり静寂が押し寄せた。
王も王妃も宰相も衛兵もみな、顔を見合わせて黙る。
それは一瞬のような、永遠のような時間の経過
その静寂を破って声をかけてきた者がいた。
「青い子の渡り人様、あんり様。大変申し訳ありませんでした。」
目の前に美しい人形のような造形の女性が深々とカーテンシーをして声をかけた。
「この度の無礼の罰は何なりと私が受けますので、どうぞお許しください。」
「な、リーゼロッテ!何を言っておる。」
宰相が慌ててその娘の元へと走り寄る。
「いいえ、お父様。もし本当に世界の破滅が差し迫っているのならば、その叡知を与えて貰うための贄に私がなれるならば本望でしょう。私は未来の国母となるようこの場に列席を許された身なのですから。」
美しい碧眼の目には決意が見てとれた。
「要らないわ、あなたの命なんて。」
「それじゃ・・・」
「ただあなただけは話がわかる人なのかもしれないわね。教えてあげてもいいわよ、九十九魂の話とこの世の終わりを。」
「ダメだ、リーゼロッテ。そんな話信用できない。君の身が危険だ」
突然、男が飛び出してきた。
「あんた誰?」
「王太子のヘンリーだ。」
ヘンリーは生まれたての小鹿のように足をワニワニと震えさせながら、前に出てきた。
「別にいいよ、じゃあ、あんた私を殺してみなさいよ。生け贄として。そうしたらすぐに終末が来て世界の終わりを知る前に、みんな死んじゃうかもね。」
ハイハイと両手を広げて、王太子を煽る。もういい加減どうでもいい。
ザザザっと王と王妃、それをみていた一同が音を立てて膝をつき頭を垂れる。
それをみて、リーゼロッテが再度カーテンシーをし
「どうぞ、叡知を我らに与えてください」
と言った。
ヘンリーはその横でボーッとその情景をみていた。
************************
場所を王太子の居住区に移し、王太子妃の私室の応接間で話をすることになった。
あの美しいリーゼロッテは、王太子妃であり、宰相の娘にして公爵令嬢らしい。
たぶん、年もそう変わらないようなのにもう結婚しているんだなと思う。
「青の渡り人様」
「ねえ、それなに?呼びにくくない?あんりで良いわ。」
「わかりました。では私のことはロッテとお呼びください。」
そうして、ロッテは渡り人と青の子の説明をしてくれた。
ーそうか、その話が最後の話に繋がるんだー
「ではあんり様。どうして世界の終わりが来るとわかるのですか?」
ちなみに、この場所には王太子と宰相も同席しているが、発言はロッテによって禁止されていた。
話の腰を折りかねないからという理由で。
教会で聞いた青の世界と白の世界の神話を思い出す。
青の世界と白の世界は表と裏、内と外、空と海、一対の世界だ。
青の世界から青の女神が居なくなり、白の世界からも白の男神が居なくなった。
それなのに、白の世界だけ青の世界の青の子を犠牲にして神託を受けていること、罪のない青の子を生け贄にしていることに、気がついた青の女神が怒りで目覚めたのである。
この世界の大気に溶け込めない九十九魂の残留思念が、海の深淵で眠る女神の元へ届くほど強い怨みになっていたからだと、昨夜の夢現で青の女神が言っていたのだ。
白の世界も管理できないだけでなく、青の世界に手を突っ込んできた白の住民と白の男神へと鉄槌を降すと神様が言うのだから、きっとそうなのだろう。
私はいとも軽やかに話した。
この話を聞いていたロッテと他二名は、ヒッと声を漏らすとしばらく息を止めてしまった。
そして、王太子と宰相は王太子妃の部屋から走り去っていった。
「あんり様、大変ご無礼を申し訳ありません。」
ロッテは青い顔をしながらも、キチンとした謝罪をした。
「ロッテが居なければ、昨夜の話をする気にはならなかったかもしれない。だから謝罪はいいから私の願いを叶えて。」
「何なりと。」
「じゃあ、元の世界に帰して。」
リーゼロッテはわかりました、少し時間を下さいと答えた。
私の願いを否定しなかった、いや、九十九魂の願いを聞き届けた人はこの世界中に彼女だけだろう。
ーだいたいさ、自分には関係がない他人は害しても良いなんて、なんてひどい考えなんだー
憤りの気持ちは、すぐにブーメランとなって戻って私の心の深い場所にぶっ刺さった。
ーそう、それは私が中学の時クラスメートにしたことだ。
あの時、自分がしたことが返ってきたんだなー
あの世界に帰れたら、私は彼女にキチンと謝罪をしなければならない。
許してもらえなかったとしても。
お読みくださいましてありがとうございました。
誤字誤謬があるかもしれません。
わかり次第訂正いたします。
いいねなどいただけますと励みになります。
よろしければお願いいたします。