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異世界民宿 物見遊山  作者: 有栖多于佳
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商人マルコ一団と魔動洗濯機と朝食バイキング

豆情報

*民宿 物見遊山は一泊朝食付きで五十ゴールドです。日本円に換算すると五千円です。

漁村内でもお手軽価格な宿屋です。高級ホテルは良子のいる漁村から二十キロくらい南に行くと貴族の保養地があり、五千ゴールドからになります。親方はそこに高級魚を卸しています。

「こんにちは、ヨッコちゃん。」

丸々した顔と体つき。フサフサの口ひげを指で摘まみながら玄関から入ってきた老人とそのお連れの5名様。


「いらっしゃいませ、マルコさん!みなさんも!」

「今日からしばらく頼むよ、みんな朝飯はいつものように。」

「はい、お任せください。」


マルコ爺は、町の大きな商店のご隠居様で、昔から網元の親方と取引があり漁村と町を行き来していた。

良子が空から落ちてきて親方の家で下女として住み込みで働いていた頃はもう町の店は息子に譲っていて、

行楽がてらに年に数回のこの地の行商だけをやっていた。


漁は天候や漁獲量に左右されるため、雇っている従業員に安定した給料を払えるようにと親方は元々手広く仕事を展開していた。

缶詰工場や干物工場、お土産店や町のよろず屋、そして飲み屋の併設された宿屋も数軒ほど。


今、良子がやっている《民宿 物見遊山》の場所も、もともと親方がやっていた宿屋の一番小さい物を格安で売ってもらったのだ。


良子は下女として働いていた時分、慣れない手洗いでの洗濯が嫌で嫌でしょうがなかった。


「ヨッコ、この小さな宿屋お前がやったらいいじゃないか」

「おお、そうだな。どうせ新しく大型の宿屋を建てたから潰そうと思ってたんだ。やるなら格安で譲るぞ」


と親方と女将さんに勧められた時は、たくさんの洗濯物を思うととてもやる気にはならなかった。


しかし、その時行商に来ていたマルコが

「洗濯が大変なら魔動洗濯機を用意したらいい」

と教えてくれた。

ちなみに、魔冷蔵庫、魔ホウキ、魔動洗濯機はこちらの主婦の憧れの家電 三種の神器と言われている。


良子は迷わず国から貰った協力料で、まだ王国では高価な魔動洗濯機を買った。

そして、それを女将さん達も使うことができるように、外の倉庫を改造した洗濯室に置いた。


「洗濯仕事って大変だもの。女将さん達も使ってね。」

これで洗濯仕事から解放されると喜んだ女将さんは、これ以来ずっと良子に卸す海産物はもう恐ろしいほど安くしてくれている。


マルコもお祝いとしてずいぶんお値引きしてくれたので、浮いたお金でついでに魔ホウキも買った。

他の必要なものもマルコに頼んで用意してもらった。

こうして、良子はなんとか一人でも民宿を営業していけるようになったのだ。


それ以来、行商に来るときは《民宿 物見遊山》を常宿にしてくれた。

良子の民宿は三部屋しかないので、マルコと側使いだけをこちらに、それ以外の行商の一団を親方の宿へと振り分けている。

どっちにも顔を立てるお気遣い、商売人とは斯くあるべきと良子は心のノートにメモした。


行商の一団は、親方との取引だけでなく村のパン屋や八百屋など村中の商店と取引をして、それが落ち着いた頃に村の中央広場で露天を広げる。

普段は見ない商品を手に取ったり、屋台で買い食いをしたりと村人も毎回楽しみにしている。

近隣の村からも露天を覗きに人々がやってきて、その賑やかさはさながら祭りのようである。

それが終わるまでの期間、良子の宿は毎回貸し切りだ。



いつものように、早朝の厨房に良子が一人。


土鍋に研いだ米と手首までの水を入れて三十分給水して、魔コンロの中火にかける。

沸騰したら弱火にして五分炊き、火を止める。

蓋をしたまま十分以上蒸らす。


炊いたご飯を三等分して、刻んだ海草を甘く煮た佃煮、魚卵の辛子漬け(明太子)を焼いてほぐしたもの、刻んだベーコンとコーンをバターで焼いものを混ぜておにぎり三種を大皿に並べる。


キューリとプチトマトのピクルス、ブロッコリーと茹でた豆のドレッシングで和えもの、キャロットラペをそれぞれ鉢皿に盛る。


手作りヨーグルトにはちみつとリンゴとバナナを入れて混ぜ合わせてガラス鉢に入れる。


藤の籠に布巾を敷いてスライスしたパンを並べる。


ロビーに出した長テーブルに各皿や鉢皿を並べ、魔石コンロを運んで蕪とベーコンのスープを保温しておく。

ジャグに入れた水、牛乳とタンブラーとカップ、皿とカトラリーも並べて出来上がり。


マルコの一団は取引先の場所が各々違うので、出掛ける時間も毎回異なり、食事の希望もまちまちなので朝食バイキング形式にしている。


「やあ、おはよう、ヨッコちゃん。僕にはアレもおくれ。」

「おはようございます。マルコさん。今ご用意しますね。」


私は、奥にザルにまとめたお茶セットを取ってくると、お湯を沸かす。

白い陶器のポットに茶葉を入れて熱湯を注ぎ五分ほど蓋をして蒸らす。

小さな受け皿のついた持ち手のない茶器に入れてマルコの席に持って行った。


「このお茶を最初に手にした時はあまり旨くないなと思ったんだが、ヨッコちゃんが入れたら旨いんだから不思議なものだな。」

「ふふ、それは良かったですよ。」

「この茶器もティーカップとしては持ち手が無くておかしいと思ったが、こうやって両手で包んで飲むと不思議とホッとするんだよな。」

「そうですね、これは湯呑というカップですよね。」

「そうなのかい?それは知らなかった。王都で取引した異国の商団から茶葉と茶器一式を買い取ったんだがあまり評判がよくなくてな。ヨッコちゃんが見知っていて助かったよ。」


紅茶ではなく、中国茶というか発酵番茶のようなもののようだ。

少し発酵の酸味があるのは乳酸菌発酵だろうか。

熱湯を注ぎ蒸らすことで甘味も出て美味しくなる。

ご飯食べたらティーではなくお茶が飲みたいと思っていた私には嬉しいものだ。


「もしどこかの商人から大豆を発酵させて作った調味料があったら、ぜひ私に教えてくださいね。」

「ああ、いつも言っている調味料だな、ミソショウユ。わかったよ。」


いつか、朝ごはんにスープではなくて味噌汁を出す日が来るかもしれないな。

マルコの商人ネットワークに期待している良子であった。


今日も、良子の一日がまた始まる。







お読みくださいましてありがとうございました。


誤字誤謬があるかもしれません。


わかり次第訂正いたします。


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