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異世界民宿 物見遊山  作者: 有栖多于佳
12/31

海の異変と洒落たバル

数日間、親方の船をチャーターしたメグのパーティは海を調べていた。


ーなにか 変わったことはないか?ー


その変わったことというのがどういうことか具体的に示されておらず、場所も大島の先としか聞いていない。

あまりにザックリとしたオーダーに、メグたち一団も少し困っていた。


海は相変わらず、青く広く大きくて、波は寄せては返すの繰り返し。


「これ、どうしたら調査の終了になるんだろう。下手に調査を打ち切って後でナニカあった場合教会に嘘をついたことにならないか?」

魔力探知を水面へ向けて調査していたマイクがブー垂れて言う。


「確かになー。昨日と変わらぬ海だな。」

「いや、今日の海は大潮だから昨日より潮位差が大きいぞ!」


メグの言葉を兄のトビーが否定する。

今回、親方の船をチャーターするに当たって、船頭としてトビーが付き添っていた。


大島の回りと言っても何海里まで離れた所を指すのだろう、これ終わるの大変じゃないか?と全員が思っていたが、各人が別の方角を目視して調べていた。

もう今日で当初の予定通り五日になる。


ー これで、今日異変が無ければ終わりにするか ー


リーダーのハルクがそんなことを考えて見ている先に蜃気楼のような薄白い靄が立ち上っている場所を見つけた。


「おい、あの先、なんか白い靄見えないか?」

「ええ?どこ?」

「この指の先を目で追ってみろ、あそこ」

「んんー?」

メグもライザも要領を得ない。


「おい、マイク、ちょっと俺の指の先を魔力探知してくれ」

「わかった」


マイクが呪文を唱え、ハルクが指差す方角に術を展開する。

「確かになんかあるようだけど、魔物とかが居るような気配もないし。これなんだろう?不思議な感じだ」


見習い魔法使いなんて言ってハルクはからかうが、マイクの魔力は強力で王直属の魔法使いにスカウトされたほどだ。そのマイクが不思議な感じというのだから、ナニカあるのだろう。

とりあえず、昨日までは見られなかった異変だということで、その方角へ船を走らせた。


船は数時間海を走ると、確かに薄白い靄のようなものが海底から空に向かって立ち上がっていた。


「なんだこりゃ!?」

始めに白い靄を見つけたリーダーのハルクが驚いた声をあげた。


「兄貴、ここら辺でこんな現象今までに見たことある?」

「いや、俺が漁に出るようになって十五年以上経つが今まで見たことないよ。ここら辺まで漁に来ることもあるんだが、一度も見たことが無い。」

「そうだよね、こんな状況だったら親方が気づくよね。」

メグたち兄妹が異変だと確信する。


その状況をマイクが魔法で記録水晶に納め、異変の場所を木製の小鳥を使ってギルドに報告する。


《こちらハルク、海の異変発見 水晶に記録完了》

《おつかれさん 水晶をギルトに転移して この仕事は終了》


マイクが水晶をギルトの転移魔法陣に送ってミッション完了である。

急ぎ、村へと帰港した。


宿に戻ると、ロビーの椅子に腰かけて一行は話始めた。


「やあ、終わってみたら呆気なかったな。」

「なに言ってんだい。終わる気がしないとか泣き言言ってたもんが。」


ギャーギャーとマイクとライザが親子喧嘩を始めた。

マイクはまだまだ反抗期、親はからかいたくてしょうがないのである。


「これでこの仕事も終わりだ。明日には予定通り宿を出る。」

「ああー、残念。ヨシコの美味しいオニギリとスープの朝ごはんがもう食べれないなんて。」

「そんなに気にってくれて嬉しいわ。明日も思う存分味わって言ってね。」


ライザの嘆きを良子が慰める。


「今日は夕飯、良子もトビーも一緒にしないか?無事ミッション完了したんだ、祝勝会にしよう!」

「オオー!」

リーダーの提案にパーティのみんなは頷き口々に良子を誘ってくれるので、普段は滅多に外食しない良子もお呼ばれすることになった。


最近リニューアルしたちょっと洒落たバルにやって来て、新作メニューを注文する。

ここは視察旅行の後、アンナが古びた食堂を改装してこれから来る観光シーズンの目玉にしようと目論んでいる、今この村で一番話題のバルである。


カウンターのショーケースに、フランスパンの上にサラミや野菜、海老や蟹の剥き身、蒸し鶏、魚のカルパッチョなどを乗せたオープンサンドが彩り豊かに並んでいる。


良子以外の一行は先ずは大きな木製のジョッキを掲げてエールで乾杯である。

良子は間引いた青ミカンのスライスを浮かべたペリエを飲んでいる。


ワインのボトルが赤と白両方開けられる。


ローストチキンを丸々一羽に、豚のスペアリブを半身、そしてこの店の名物にと良子がレシピを作った《大きなイサキと烏賊の入ったアクアパッツア》が出てきて、テーブル一杯になる。


「いやー、これは上手いな。」

「中身を食べたら、この汁に茹でたパスタを入れて食べるのよ。」

「うまー」

「いや、美食村と言われるわけだ。平民相手で、この位の値段でこんな旨い飯が食べれるなら、何回も来たくなるな。」

ハルクたちは旨いを連発している。この村と食事を気に入ってくれたようだ。


「旅行で食べた料理のままだ。いやヨシコのレシピの方が美味しいかもしれないよ。」

なんてメグが誉めてくれるが、それは身内贔屓というものだろう。

「どうやら、視察旅行が役に立ったようで良かったわ。」


良子も普段以上に食事を食べた。

たまには人に作ってもらったゴハンと言うのも良いものだ。


次の日の朝、夕べの暴飲暴食が無かったように、メグたちは民宿の朝ごはんをおかわりして食べた。

やはり冒険者の胃袋はスゴいものだ、各人の口から吸い込むように食べ物が飲み込まれていく。


荷物を持った冒険者一行を良子が見送る。


「道中お気をつけて。」

「また来るわ。」

「ああ、また来るよ。」

「また。」

「ヨシコ、じゃあまたね。」

「メグも元気でね。」


小さくなっていく一行の背中に手を振る。


良子の一日がまた始まる。

お読みくださいましてありがとうございました。


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