メグのパーティが民宿物見遊山にやって来る アサリと鱈のエチュぺ
「こんにちは。今日はヨロシクね」
「いらっしゃいませ」
メグの仲間の冒険者パーティがやって来た。
メグが十六の時親に内緒で着いていったという魔法騎士がリーダーのパーティだ。
「お世話になるよ、ここの飯が旨いと聞いてぜひにとメグに頼んで今回来たんだよ。」
「まあ、それは緊張します。」
「俺はリーダーのハルク、こっちが嫁のライザ回復師だ。で、こっちが息子のマイクで魔法使い見習いってとこかな?」
ハルクは大柄で薄茶色の髪にグレーの目をしたなかなかの美丈夫だった。
「親父、見習いはないだろ!」
アンナのところの末っ子と同じぐらいの年だろうか、少年と青年のちょうど狭間くらいの男の子が突っかかって言った。反抗期なのかもしれない。背丈はまだそれほど大きくはなくてメグと同じくらいだろうか、とはいえメグはたぶん170センチはあるので、良子に比べれば全然大きいのだが。
「親子喧嘩は他所でやんな!ライザだよ、ヨロシクね。あたしも楽しみに来たんでね、これからしばらくご厄介になるね、よろしくね。」
「はい、ヨロシクお願いします。」
ライザは赤毛に翠の目をした美しい女性だが、背も高く筋肉質な感じがやはり冒険者という職業なのだなと思わせた。
「当店は一泊朝食付で五十ゴールドになります。お風呂は温泉で十五時から夜中の零時までです。朝食はパンとご飯どちらになさいますか?」
「そりゃあ、ヨシコがこの前の視察で言っていたエチュパ定食のごはんだろう!」
メグが嬉しそうに告げる。
この前のレストランで話したことを覚えていたらしい。
「それが名物!?じゃあそれで四人分」
ライザが決めて、他の二人も頷いている。
「では、一日二百ゴールドになります。五泊と聞いていますが変更は無いでしょうか?」
「ああ、頼むよ。ちょっとした依頼で、この辺りの海の様子を数日間見に行かなければならないからな。」
「では、朝早く出発ですか?」
ヨシコがリーダーに聞くと、メグが代わって答えた。
「いやそんなことはないよ。親方の船をチャーターして兄貴に周回してもらうことになっているから、朝は七時で大丈夫。」
「半分、旅行気分よね。」
ライザが楽しそうに話す。
「そうですか、では前金で千ゴールドになります。」
はいよ、ドンっとリーダーが布袋から金貨十枚出して渡される。
「お風呂はもうご利用いただけます。お部屋は二階の全室、桜と梅と杏の部屋を好きにお使いください。」
ドヤドヤ・・・一行が部屋へと昇っていく。
さて、今日のお客はメグたちだけなので、しばらくのんびりと作業をする。
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夕飯を食べに親方のやっている漁師の食堂に行った一行が十時頃に帰って来た。
メグはそのまま私の部屋に遊びに来ていた。
「お酒の持ち込みはいいだろう?」
と、出先で買ってきたワインを良子の部屋で飲んでいる。
「ええ、良いわよ。」
良子がツマミにと、自家製のカツオの薫製を薄く切って出してやると、嬉しそうに頬張っていた。
「今回の仕事は割りが良いんだ。自分がちょうど村に帰ってきていたのを知っていたギルドから直接連絡を受けたからさ、宿泊費も船代も別途で出してもらえるんだよ。」
「へえ、何の調査なの?」
「大島の先の海に変わりはないかだって。」
「へえ、結構遠くまで行くのね。朝、ゆっくりで大丈夫?」
「大丈夫さ、魔物が出て退治するとか、海猫の羽根を集めるとかのクエストじゃなくて、様子を見るだけなんだから。」
「なるほど、確かに割りの良い仕事ね。」
「そう、長男の兄貴夫婦に騙されて村に帰ってきていてラッキーだったよ。」
「まあ、そうね。」
「なんでもキョコト市国にある教会の本部が急ぎでと頼んできたらしくて、一番近くにいるギルト員が自分だったから受けれたんだよ。」
「へえ、教会がねえ」
遥か昔、創生の夫婦神がこの世界を創ったと言われている。
その教えが大陸共通の信仰となっていて、大陸の各国には教会の支部があちらこちらにある。その総本山がキョコト市国という小さな町一つの独立した国でちょうどこの王国の北側の国に位置している。
教会は学校として《読み書き計算》を平民に教育する機関であり、貧しい者・病んだ者の面倒を見る《病院や福祉施設》としての機関であり、各国の王を王として認めまとめ上げる国連のような機関である。
なのでこの世界では、各国の王族の上に教会とそれを統べる教皇がいて、その上に創生の夫婦神がいる。
神の祝福を受けることは非常に名誉なことであり、教皇の支持を受けることを以てして王は王として君臨することが出来るのだ。
各国の王族や貴族、金持ちは神の祝福を受けるために事或毎に寄付をするのだ、教会が富を吸い上げていると言っても過言ではない。
その教会からの依頼を急に受けたというのだ、かなりの稼ぎになるのだろう。
「良かったわね。」
「ああ、明日の朝飯も楽しみだし、良かったよ。」
ワインのボトルを抱えて、メグがウトウトし始めた。
「さあ、メグ部屋に帰ってゆっくり寝なさいな。」
寝てしまっては、体の大きなメグを部屋まで運んであげられない良子は、慌ててメグの手を引いて立ち上がらせると、力一杯背中を押した。
朝早く、調理場では良子が朝食の準備をしている。
今日は久しぶりに土鍋でご飯を炊く。
食べやすいように、マグロの角煮と明太子を具にしたオニギリを握る。
海苔は好き嫌いがあるようなので、四等分した物を別の皿に乗せて置いた。
この村の名物になった煮干しの頭と腸を除き、鍋に水と一緒にいれ浸けて置く。
その鍋を火にかけて出汁を取る。
別の鍋にポロネギとニンジンのスライス、ざく切りキャベツ、アサリと鱈の切り身をいれて出汁と白ワインを注ぎ、塩コショウで味を整えて蒸し煮にする。
貝が開き、鱈に火が通ったら鱈とアサリのエチュぺの出来上がり。
残りの出汁に魚醤と塩で味をつけ、千切りにしたネギを散らしかき玉汁をつくる。
ガラスの器に手作りヨーグルトとミカンで作ったママレードを入れて。
飲み物は、マルコから買った発酵番茶を湯飲みに注いで。
四人分を配膳し終えた頃、待ち構えていたようなタイミングでメグの一行が席についた。
メグたちは、朝食の食材をあるだけ全部をお代わりして食べきった。
冒険者の食欲はスゴい。
支度を整えた一行が港へ向かって歩いていく。
その後ろ姿を良子が見送った。
良子の一日がまた始まる。
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