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異世界民宿 物見遊山  作者: 有栖多于佳
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物見遊山オープン おにぎりと干物サンドウィッチ

伊豆の海辺によく似た異世界の民宿での日常の様子です。

魔法のある世界ですが、主人公は魔法を使うことはありません。

北に千メートルの山、南に突き出した半島の先、冬でも暖かい温暖な気候 寄せては返す波

海まで1分 小さな木造二階建ての家 そこが《民宿 物見遊山》


「いらっしゃいませ、ご予約のお客様ですか?」

「ああ、パーティ鷹の爪だ。」

「はい、男性二人女性二人の四名様ですね。お部屋は二部屋でよろしかったでしょうか?」

「ああ、そうしてくれ。」

「はい、では階段昇って二階左側のお部屋、梅と桜をお使いください。また当方は朝食のみとなっておりますので、お夕食は近隣の食堂をご利用下さい。朝食はこちら一階にご用意させて頂きます。」

「ああ、時間は?」

「朝7時から9時の間ですが、お早い出発ですか?」

「ああ、船に乗るので6時には出たい。」

「そうですか。ではお弁当をご用意致しますので、道中お召し上がり下さい。」

「それはありがたい。」

「ごはんとパンとお弁当を選べますがどうされますか?」

「ご飯とは?」

「ライスです。それを丸めて具材を中に入れたおにぎりという料理です。」

「おにぎり?聞いたことないな、どうする?」

振り向いて、パーティのメンバーに聞く。

「私はパンで。」

「私もパン」

「じゃあ、俺はそのオニギリにしよう。」

「そうだな、この店のオリジナルのようだし、話のネタに俺もそうしよう。ではパンを二つとオニギリを二つにしてくれ。」

「はい、承りました。こちらのカウンターで朝6時に受け渡しになります。それではお支払は前金で、一人五十ゴールドですので四名様で二百ゴールドになります。」

「ああ、ではこれで。」

百ゴールドコインを二枚渡される。

「毎度ありがとうございます。一階の奥の浴場午後3時から夜12時までです。もうご利用頂けますので、ごゆっくりおくつろぎ下さい。」

「ああ、ありがとう。」


パーティ鷹の爪ご一行様が階段を昇って行く。

今日の予約は後一組だ。

というか、部屋数が三部屋しかないのだ。

一人で切り盛りするには、これくらいが調度いい。




渡辺良子は月曜日の朝七時アパートの前のごみ捨て場にいた。

アパートは長い下り坂の突き当たり、そこから道は急カーブになる。

ごみ袋を捨てゲージを閉めたその時、坂の上から良子の方に暴走自動車が突っ込んできたのだ。


良子が自動車に気づいた時には目の前に迫っていて、避ける時間もない。

良子は目を閉じ身を固くした。


ーーーぶつかる!!助けて!


強い衝撃が来るのを意識していたが、来たのは下への重力に引っぱられる感覚だった。

ーーザッパーーーン

高いところから水中に落とされ、驚いて水を飲み込んでしまった。

ゲホゲホッパニックで手足をバタつかせる。どちらが上でどちらが下かわからない。

溺れ、し、死ぬ・・・


意識を手離しかけたその時、力強く手を引かれ水面に引き上げられた。

数人の男達が船上に引き上げてくれた。

ゴホゴホゴホ、オエェ・・・はぁはぁはぁ

飲み込んだ水を吐き出し浅い息をする。

甲板は日の熱で温かい。今度こそ良子は意識を手放した。


気がつくとそこは港の診療所のベッドに寝かされており、駐在さんと思わしき人とお役人さんと思わしき人に聞き取りをされた。

その時、良子は気づいた。

異世界転移したことに。

だって、彼らは騎士っぽい格好や中世西洋の貴族っぽい格好をしていたし、書いている文字も見たことないヒエログリフのようだし、でも言っている言葉も文字も理解できるし、これアニメとかでよくある転生チート的なやつ!?とすぐ理解した。


良子は普通のアニメ好きだ。コミケにはいかないがアニメは観るしマンガもラノベも読む。

良い年してと言われても、別に悪いことしているわけじゃないし気にしない。趣味嗜好は自由だしね。


なので、この状況を一瞬で看破し、自分を召喚したのはどこの王族か教会かと駐在さんとお役人さんに聞いた。


しかし、全く理解してもらえなかった。

「誰かがなぜわざわざ異世界からあなたを召喚するのか」

と逆に質問された。

「魔王復活を阻止するのでは?それか聖女なのでは?」


私を助けてくれた漁船の漁師さんの目撃証言では、晴れた空が急に一部暗雲が立ち込めその雲の割れ目から落ちてきたそうだ。魔方陣ではないらしい。

そして、私が海に落ちると、また空は晴れ渡ったという。


「とにかくここは田舎の漁村なので情報が無いから、国の首都へ報告するのでしばし待たれよ」

そういうと、二人は帰っていった。


その後は助けてくれた漁師の網元の家に身を寄せ、手伝いをしながら暮らすこと一年。

国の偉い人に呼び出されて、王様に謁見して、どうやら『渡り人』という異世界から迷い混んだごく稀にある事だとわかり、聞き取り調査や私のスキル調査が一年かけてじっくり行われて、

「国の発展に寄与する重要人物に成りうる存在」

ではないと証明され、一国民として暮らすなら許可をもらえることになった。


ーどこに住んでもいいなら初めの漁村で暮らしたいー

という希望が叶えられ、調査の協力料が少しもらえたので、初めの漁村で民宿をすることにした。

一年間住ませてもらった面倒見のよい網元の協力を得て、私の異世界生活が始まったのである。


この国には、魔王はいないが魔物はいる、らしい。

魔法はたまに使える人がいて魔法使いという職業がある、らしい。

冒険する人は、冒険者ギルト、商売するなら商人ギルトといように職業組合に加入しなければならない、らしい。ちなみに民宿というものはないようだが、宿屋ギルトはある。


宿屋は飲み屋を兼ねた食堂と宿泊場所を提供するのが一般的だが、私は曲がりなりとも女である。

一人で酔客の世話をするのはちょっとなーと思ったので、B&B形式の民宿にした。

民宿っていう名称は、宿泊客の共有スペースが私の生活スペースと共有できる簡易宿泊施設だから使用しただけである。

自分一人でやるには家事と仕事と分けない方がやりやすいかな?て、元来ズボラなもので。


網元の親方から魚も安価で買わせてもらえるし、それを干物にして朝食に出すのだ。

この世界は上水道は引かれているので、水道はある。下水道は無くて汲み取りのトイレだ。

電気は無いが魔石はある。魔石のランタンを光源とし、ガスの代わりに魔石のオーブンで煮炊きをする。

値段は、まあプロパンガス位かな?たぶん。切れたら、魔石に魔力を魔石屋で詰めてもらう。


お米がね、あるのかな?と思っていたけれど、ありました。

米は野菜として利用されていて、主食は小麦で作ったパンだね、多くの場合は。

うちの朝食はパンかご飯が選べるけれど、9割がパンだ。

パンはあまりうまく作れないから、村のパン屋から買っている。

1割のご飯派はお弁当に持っていったおにぎり弁当を気に入ったリピーターさん。

米は腹持ちがいいからね、大体食べた次からはご飯を頼まれることが多いかな。


私は民宿に関わる人との変わらない毎日の中、冒険も戦いも冤罪もない、穏やかな異世界生活を送っている。


次の日の早朝、まだ日も昇らぬ頃、調理場では良子が《鷹の爪》達の弁当作りをしていた。

まずはパン弁当から。

魚は網元から安価で分けてもらった、この辺りの海でよく獲れるものだ、アジに似ている。

魚を開いて内蔵を取り、10%の塩水に20分ほどつけて網に入れ夜風にあてて一夜干ししておく。

これを魔石のオーブンで焼く。

レタスを洗い水気を切り、紫玉ねぎを粗みじん切りにする。

オリーブオイルにワインビネガーをいれ、塩胡椒で味をつけて紫玉ねぎを入れドレッシングを作る。

焼いた魚から頭と骨を外しほぐしドレッシングと和える。

トーストしたパンにバターとマスタードを塗りレタスと魚の和えたものを挟む。

食べ易く四等分しワックスペーパーに包む。


次はおにぎり弁当だ。

炊いたご飯に手塩をして握る、中には魚を甘く煮てほぐしたマグロフレークのような常備菜を入れる。

もう一つは時季にまとめて漬けたプラムの塩漬け(梅干し)を具にして握る。

この漁村には海草を固めて干した海苔に似た名物ノリィーがあるので、

それを巻きまたワックスペーパーで包む。


前日に預かっていた水筒に煮出して冷ましておいたハトムギ茶を入れて出来上がり。


「おはようございます、お弁当できてますよ。」

「おはよう、女将弁当ありがとう。では行ってくる」

「「「行ってきます、行ってくるよ」」」

「お気を付けて行ってらっしゃいませ。」


外に出て、手を振り見送る。

パーティーの各々も手を振り返してくれる。


さて、後はもう一組のお客さんの朝御飯したくしないと。

今日もまた一日が始まる。



そうそう、ノリィーはこの漁村では千切ってスープに入れたりパンに挟んだりされています。



 

お読みくださいましてありがとうございました。


誤字誤謬があるかもしれません。


わかり次第訂正いたします。


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