寄り親と寄り子
前話、改稿しました。少しは解り易くなったかな。読み直していただければ幸いです。
「ランドール家が子爵のままだったら、子爵家筆頭と言うことでそこそこの身分序列だったんだけれどね。伯爵位に陞爵したことと、同学年に公爵、侯爵の子弟がいないこと、条件が重なった訳だ」
わざわざ念押ししていただかなくても、身分序列一位だって了解しましたよ。
「今在学しているテムニー侯爵家とデイネルス侯爵家の従属爵位の生徒は私たち四人だ。声を掛けてもらえれば、いつでもサポートさせてもらう。それから……」
先輩が立ち上がり、くるりと後ろを向いた。テーブルを背に周囲へ向き合う。
「テムニー侯爵家、デイネルス侯爵家の寄り子に通達する。今後、マーク卿への身分序列上の接触は、学園内に限り我々を介するように。これは寄り親である侯爵家の意向と心得よ。この場に居ない者にも遺漏なく伝達せよ。以上だ」
ガタガタと椅子が音を立てた。
立ち上がった生徒は二十人以上。一斉に深々と腰を折っている。最敬礼だ。
「すげぇ」
ライナーが小声でつぶやいた。
全く同感だよ。僕だって侯爵家をなめてたかも知れない。
寮の部屋に戻って、備え付けのソファにドスンと腰を下ろした。今になって疲れがどっと出てくる。
後から入って来たライナーが、僕の前を通り過ぎてベッドに座った。
「あのさ、マーク」
ああ、何言われるかな。ごめんな、僕の面倒に巻き込んで。
「寄り子って何。侯爵家が寄り親って言ってたけど」
あっけらかんとしたライナーの声に、肩の力が抜けた。
「えーっ、何笑ってんの。どしたのさ」
「いや、何でもないよ」
ありがとう、ライナー。君はそのままでいてくれよ。
「寄り親と寄り子って言うのは、平たく言うと親分子分の関係だよ。寄り子は就職や縁談の伝手を頼ったり、何かあった時の援助を頼んだりする。寄り親は面倒を見る代わりに雑用を言いつけたりするわけだ」
「へぇ」
「家臣に近いけど、それよりゆるいかな。きっかけは、領地が近いとか商売の関係があるとか、先祖が上司と部下の関係だったなんてのもあるらしい。ものすごく遠い親戚だったりするしね」
「ふうん。じゃあさ、マークのとこ、子爵だったんだろ。寄り親っていたのか」
「いや、無かったよ。僕の家は王都から馬車で一日の距離なんだ。あ、元の子爵領のことだけど。王都近郊の地方貴族で、その他大勢だったから。強いて言うなら王家かな」
ライナーが分からないって顔をしてる。
「上位貴族は、地方に大きな領地が有るんだ。その地方の旗頭さ」
「旗頭?」
「うん、顔役ってこと。代表と言うかまとめ役? 頼れる存在だから自然と寄り親になるんだろうね」
実際には、経済力のある子爵が寄り親で貧乏伯爵が寄り子と言うパターンも有るけど、そこまで言いだすとキリが無いからな。
「あのさ、俺、てっきりバルトコル伯爵家がマークん家の寄り親だって思ったんだけど、違ったんだな」
鋭いな、ライナー。さすがは奨学生か。
「あー、まぁな。そこは聞かないでくれ。物すっごくややこしい話になるから。聞きたいって言うなら話すけど、覚悟してくれよ」
我ながら冷たい声が出た。ライナーも何か感じ取ったんだろう。
「いや、遠慮しとく」
「それが良いと思うぞ」
ちょっと気が重い。話題を変えよう。
「明日から週明けまで、学園は休みだ。先生方は実力テストの採点で大忙しだからな。と言うことで、早速叔父さん家に付き合ってもらうから」
侯爵邸は半端ないからな、ライナーの驚く顔が楽しみだ。
寄り子と寄り親。なんだかんだでランドール子爵家は寄り親を持たなかったなと。
デイネルス侯爵家がそれっぽかったですけど、オスカー君、ほとんど侯爵邸に寄り付きませんでしたしね。バルトコル伯爵に至っては、絶縁状態が長かったですし。
詳しくはシリーズ前作をどうぞ(笑)
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。GW、どれだけ投稿できるかな。