穏やかな復讐
週末更新クリア。このペースで書き続けたいです。エタらないぞ、オー(笑)
バルトコル伯爵家の爵位返上手続きは、デアモント公爵の異議申し立てで一時中断した。
というか、別件で追加協議が必要と認められた形だ。
ちょうど昼時ということもあり食事休憩を取ることになって、エザール叔父さんを含むランドール家はあてがわれた離れへ戻った。
喪中ということで簡素ではあるけれど質の高い昼食が用意されているあたり、さすがは伝統ある伯爵家、これが格というものなんだろう。
デアモント公爵に名指しされた僕とキャサリン母上だけど、心当たりは全くない。強いて言えば、バルトコル伯爵家の後継を断った事だろうか。
それだって爵位返上は決まってたんだから、こんな土壇場で言い出すことじゃないだろうし。
なんとも落ち着かない気分で食後のお茶してたら、来客が告げられた。
「面会をお許し下さり、ありがとう存じます」
いらしたのは、ダレス・バルーダ子爵。王領になるバルトコル伯爵領の代官を、断った方だった。
私は父が嫌いだった。生まれた時から、私は父に詰られてきた。
「なんでもっと早く生まれなかったのだ。お前さえ生まれていれば、男爵家などに後れを取らなかったものを」
ご本家に婿入りしたカレスン卿はランデス男爵家の次男。齢回りさえ合えば、子爵家の私に話が来ていただろう。
だからと言って、私に八つ当たりしてどうなる。生まれる前の話だ、どうしようもないだろう。
父の怒りは母にも向けられ、いつもいつも怒鳴り声が絶えなかった。
そんなギスギスした家の中で、私を庇ってくれたのが姉だった。母が怒鳴られている間にそっと私を連れ出してくれた。
明るく元気な姉は、父を反面教師として、自分に貴族は似合わない、絶対に貴族とは結婚しないと公言していた。
一代限りの下級貴族だって御免だと、平民に嫁いで貴族の柵を捨てたいと。
そんな姉が見つけてきた恋人は、穏やかでどうかすると気弱に見えた。絶対姉の尻に敷かれる未来しか見えなかったけれど、本人は幸せそうだった。
今にして思うと、肝の据わり方が半端ない。姉の偽装結婚に尻込みせず、添い遂げる決断をしてくれたのだから。
「父の自業自得です。姉を無理やりバルトコル伯爵家の第二夫人にねじ込んだ手腕は買いますが、その後がいけません。キャサリンお嬢様を亡き者にし、自分の孫娘に家督を継がせようなどと、伯爵家に対しての叛逆行為に他なりません」
ダレス卿はきっぱりと言い切って、僕らに頭を下げた。
「今さら謝罪はいたしません。自己満足を押し付けるだけの行為は、皆様方のご迷惑にしかならないと心得ております故。また、父の罪を表沙汰にしては要らぬ醜聞になりましょう。しかしながら、何の罰も受けずのうのうと暮らすほど恥知らずではございません。なにとぞ、我がバルーダ子爵家の爵位返上をもって溜飲を下げてはいただけないでしょうか」
待って、待って!
そんな話になってたの? だから代官断ったの?
ダレス卿、まともな人っぽいのに。
「ダレス卿」
エザール叔父さんが厳しい顔で呼び掛けた。
叔父さん、怒ってる? でも、ダレス卿ご本人の責任じゃないんでしょう。
母上の暗殺計画なんて昔の事過ぎて、僕は何とも思ってないから。
むしろそれがなかったら、ランドール子爵家へ避難がてら嫁いでこなかっただろうし、僕も生まれてないから。
「今からでも、他家に養子に出られる気はありませんか。そうすれば、配偶者の実家という縛りから抜けて、卿がバルトコル伯爵家の家督を継げますよ。貴族の身分を保持していれば、新たに叙爵して王領を下賜することもできる。平民となってしまっては、それも難しい」
エザール叔父さんの言葉は、第三宰相としてのものだった。
そうか、王家としても伯爵家筆頭の爵位返上はありがたくないよな。
「ご提案、ありがとうございます。しかしながら、ご辞退申し上げます。私は平民になると決めております。それが父への、最大の復讐になりますので」
うっすらと笑ったダレス卿の姿に、ちょっと背筋が寒くなった。
ちょっと、ちょっと、ちょぉっと。ダレス卿、常識人枠じゃなかったの。
「そもそも、主家が爵位返上するのです。従属爵位が消滅するのは道理。それに平民になったとしてもバルーダ家は残ります。領地経営の負担が消えれば、今以上に商会の経営に注力できるというもの。悪い話ばかりではございません」
そう言って、ダレス卿は笑みを深めたのだった。
ほぼほぼ予定通りに話を進められました。
予定外だったのは、ダレス卿のお姉さんが強気になったこと。
第二夫人としてひっそり息を潜めて暮らしていたイメージで気弱な人だと思ってたんですが、いざ書いてみたら、めっちゃポジティブでした。あれぇ?
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