相続手続き
パリオリンピック、昨日で閉幕しました。更新、再開します。
ちょっくら重い話になってますけど、気楽に読み流していただければ嬉しいです。
女伯爵のご薨去は何年も前から想定されていて、事前準備が万端整っているそうだ。
高位貴族なら多かれ少なかれ準備するものだけど、病弱でいつまで生きられるかと言われ続けてきた方だからなぁ。
ほとんど寝たきりで伯爵邸で軟禁生活送ってたと、テムニー侯爵第二夫人のアリス伯母様が仰ってた。
それでも老境まで生きられたのは、専属医師団、とりわけ主治医の老先生の手腕があったからこそ。
その献身と尽力は誰の目にも明らかで、バルトコル伯爵を退くことになるカレスン卿が、心からの感謝を捧げていた。
王都からやって来た一行には、貴族院の高官が同行していた。
というか、貴族院の立会いは公務、僕らの見舞いは私事だから、形式上は高官が主で僕らは従なんだ。
そもそも伯爵以上の高位貴族の相続手続きは、王都の貴族院で行われる。
オスカー義父さんが伯爵に陞爵した時にきちんと説明受けているから、間違いない。
わざわざ伯爵領まで出向く今回が例外中の例外なんだ。
バルトコル家は伯爵家筆頭。その上女伯爵は王弟殿下の姫君を母に持つ高貴なお方。しかも爵位返上案件。
そりゃ下っ端じゃなくて事務長閣下が直々においでになるわけだ。
手付き自体は、淡々としたものだった。
後継者不在によるバルトコル伯爵家の爵位返上。伯爵領はそのまま王領となり、代官が統治することになる。
この返上というのがミソだ。懲罰として剥奪されたとかだと、元伯爵家関連の人物は全員排除されて、総入れ替えになってしまう。
今回は何の瑕疵も無いので、従属爵位を持つ伯爵家の分家が代官に任命されることになっている。
「まず、第一候補のカレスン・バルトコル伯爵。貴方は、代官に就任しますか」
「いいえ。私は老齢だ。若者に後を託したい。よって辞退する」
「では、伯爵位の返上、ご実家のランデス男爵家の籍に戻ることになります」
「承知した」
形式的な問答で、最終確認が進んで行く。
「第二候補、分家当主ダレス・バルーダ従属子爵。貴方は、代官に就任しますか」
「いいえ。代官の任は手に余ります。よって辞退いたします」
「では、従属子爵位返上、平民となります」
「承知しました」
バルーダ子爵家は、第二夫人のご実家。
もし、第二夫人がバルトコル伯爵家に嫁いでいなかったら、配偶者の実家からは後継者を出せないという制限に引っかかることなく、ダレス卿が次期伯爵になる筈だった。
なんで代官就任を断るんだろう。平民になってしまうのに。
僕は事前調整に関わらせてもらえる立場じゃないから分からないけど、よほどの理由があったんだろうな。
「第三候補、分家当主リヒト・ランデス従属男爵。貴方は、代官に就任しますか」
「はい。微力を尽くします」
「では、従属爵位返上。改めて子爵に叙爵されます。王家直参貴族となります」
「承知しました」
リヒト卿はまだ二十代。カレスン卿の兄の孫にあたる。新しい体制には若者が良かろうと、代官就任に合わせて代替わりした方だ。
「カレスン卿、ランデス男爵家の陞爵により、卿はランデス子爵家の籍に入ります。よろしいですか」
「承知した。ただし、私はテムニー侯爵家に身を寄せさせていただく。私が残っては、リヒト卿もやり難かろう。王領として新たな道を歩むに、バルトコル伯爵家の残滓は一掃した方が良い」
「歓迎いたしますわ、お父様」
アリス伯母様がすかさず応えて、リヒト卿に笑顔を向けた。
「お父様は長年重責を果たしてきましてよ。楽隠居させていただけますわね」
ニコニコニッコリ。
リアーチェ叔母様そっくりな笑顔は、さすが侯爵家というか、デイネルス女侯爵とはタイプの違う女傑ぶりだった。
「以上で相続手続きは終了とさせていただきます。皆様、異議はございませんか」
貴族院の高官の最後の締めで、ようやく終わりだとホッとしたんだけど。
「異議あり」
口を挟んで来たのは、デアモント公爵その人だった。
「キャサリン・ランドール伯爵夫人とご子息マーク卿について、協議を要請する」
え、僕?
本編ですっ飛ばした部分を書き込んでます。
デアモント公爵の直談判の前に、ダレス・バルーダ氏の思惑を挟もうかなと考えてます。
代官断って平民になる道を選んだ経緯がですね、ここで書いとかないと入れられないかなーと(笑)
お星さまとブックマーク、よろしくお願いいたします。




