親戚
二週間ぶりです。なんとか更新。完結までエタらないぞ。
バルトコル伯爵邸は、静かだった。
長らく養生してきた女主人がいよいよ危ないと、誰もが理解している。
諦めと悲しみと、そして覚悟と。
最期の時に臨んで、粛々と準備は進んでいた。
僕が伯爵邸に、いや、そもそもバルトコル伯爵領に来たのは今回が初めてだ。伯爵邸の使用人とも初対面。よそよそしいと言うか、遠慮気味なのは仕方ない。
それに、キャサリン母上が伯爵家に戻ることを拒否したって知ってたら、とても歓迎する気になれないだろう。
母上が次代の女伯爵に成りさえすれば、バルトコル伯爵家は存続できるんだから。
キャサリン母上とオスカー義父さん、それにエザール叔父さんと僕の四人。元ランドール子爵家組が案内されたのは、母上が暮らしていた部屋だった。
部屋というより、離れかな。規模的には別邸と呼んで良いと思う。
広々とした居間。寝室として一人一部屋あてがわれたけど、まだ部屋が余っている。
この広さで子供部屋って。
デイネルス侯爵邸で慣れてなかったら、絶対ビビってたよ。
デイネルス侯爵家からついて来たエザール叔父さんの侍従に荷ほどきと留守を任せて、本邸へ移動した。今回集まった親戚の顔合わせがあるんだ。
話には聞いてたけど、初対面の人が多い。それもこれも、数年前までバルトコル伯爵家と絶縁状態だったことが尾を引いていた。
サロンに集まったのは、バルトコル伯爵家の四姉妹とその配偶者、そして子供。家族枠に入る顔触れだった。
エザール叔父さんや伯爵家の分家の方々は、親族枠で別室で集まっている。
まずは長女のアリス・テムニー侯爵第二夫人と、その子息の侯爵家三男。僕の従弟だ。
侯爵閣下は王都から離れられなくて、今回は不参加。後から追いかけようにも、ミリアのキャンピングカーもどきが無いから、時間が掛かり過ぎて無理。
二女と三女はご夫婦で参加しているけど、どちらも子供なし。ご主人はそれぞれ伯爵家当主だから、他家であるバルトコル伯爵家へ婿養子で入る可能性はゼロ。
四女がキャサリン母上。再婚相手のオスカー義父さんと息子の僕。
総勢九人だけど、年代が見事にバラバラだった。
侯爵夫人は五十代で、母上とはそれこそ親子ほど年が離れている。侯爵家三男は、母上より五歳下。いっそ姉弟と言って良い歳まわりだ。
残る二人の伯母様は四十代後半。
母上とは親子ほど離れてないけど、姉妹というには離れてる。幼少期を共有できなかったのも仕方ないだろうなって思う。
「初めましてだね。私はサミュエル・テムニー。今は領地経営の見習いをしている。マーク卿の噂は、母から聞いているよ」
オスカー義父さんと軍隊式の挨拶を交わしてた次期テムニー侯爵様が、僕に直々に話しかけて来た。
穏やかで、できる男と言うか、頼りがいがありそうというか、カリスマ? 貫録? そんなものが溢れてる。
さすが生まれながらの高位貴族、庶民派で成り上がり伯爵のオスカー義父さんとはえらい違いだ。
そんな義父さんが大好きだけどさ。
「ランドール大将閣下を義叔父上とお呼びできるのは望外の喜び。マーク卿とは昵懇に願いたい。まだ未成年では、共に遊ぶ機会はなかなか無かろうが、何、数年すれば……」
「これ。大人の悪い遊びを教えるものではありませぬよ。マークさん、こんな息子ですけれど仲良くしてやってちょうだいね。従兄弟ですもの」
侯爵夫人、いや、アリス伯母様と言った方が良いかな。ご子息を窘められた。
「はいはい。では、マークと呼んで良いかな。私のことはサミュエルと」
「はい。よろしくお願いします。ですが、さすがに母と同年代の方を呼び捨てには出来かねます。ご容赦ください」
「うーん、硬い硬い。じゃあ、サミュエル兄さんでどうかな。さすがに従兄弟からオジサン呼ばわりは遠慮したいよ」
口調は柔らかいのに、貫録たっぷりですね。断り辛いよ。
ちらりと母上を見たら、軽く頷いてくれた。オスカー義父さんは笑顔だ。
「えっと、じゃあ、サミュエル兄さん。これで良いですか」
サミュエル兄さんの応えは、大きな手だった。僕の頭をグリングリンと撫でてくれた。完全に子ども扱いだ。
玄関でバルトコル伯爵が撫でてくれた手つきと、そっくりだった。
親族と顔合わせ。従兄弟のサミュエル兄さん登場です。
軍人上がりで、救国の英雄(笑)を尊敬しているという設定です。バルトコル伯爵になる筈だったのに、テムニー侯爵家の後継者に成った人物。その間のゴタゴタでまだ婚約できてません。
この人も状況に振り回された被害者と言えるかも。




