東へ
なんとか更新。すいません、婦人会の野暮用がががが……。
次の週末はちゃんと更新できるように頑張ります。
参考文献 本編 閑章 伯爵家が終わる時
ネタバレを含みます。アレンジとして時系列を一年ずらしています。
制服のまま、着替えも持たずに校門へと移動した。
手荷物なし、完全に手ぶらだ。教室で持っていた教科書や文房具は、ライナーに預けといた。
待機していた馬車には、デイネルス侯爵家の紋章がデカデカと付いていた。余所行きというか、普段使いじゃないやつ。
馬車の外で待機していたルシカ先輩、じゃなくて僕の側近のルシカが、恭しくドアを開けた。
広くて豪華だね、侯爵家本気の馬車。先輩と二人で乗っても全然狭くないね。
これより上は、公式行事用の八頭立てしかない。王族の方のパレードにだって使用されるやつだ。
校門から森林公園の入り口まで徒歩十分。馬車だとあっという間だ。
そこで合流したのが、デイネルス侯爵領軍の軍服姿の騎馬の護衛。本物の騎士がぞろぞろついてくるなんて、絶対普通じゃない。
「なんだってこんなに大袈裟なんです」
「マーク様。口調が敬語になっていますよ」
「良いじゃないですか。今は人目が無いんだから。先輩に敬語禁止って、地味につらいんです」
ルシカ先輩がやれやれって顔をした。
「主のご要望に応えるのも部下の務めですが、人目のないところだけにして下さいよ」
「分かってます」
家令のリカルドさんに見つかったら叱責されるからね。僕じゃなくてルシカ先輩が。本当に質が悪い。
「あからさまに高位貴族の御一行。それも騎士の護衛付き。そんな危険物に関わりたい平民なんて居ませんから、人も馬車も道を譲ってくれます。速度を落とさずに侯爵邸まで行けますよ。今は時間が最優先です」
先輩の言う通り、王都の公道だというのに、まるで無人の野を行くかのように馬車は駆け抜ける。
高級馬車だけあってほとんど揺れないのに、窓の外の景色の流れる速さが尋常じゃない。
いったい何が起きているのか。はっきり教えてくれないルシカ先輩を問い詰めるのは諦めた。侯爵邸に着けば教えてもらえるだろう。
伯爵邸が建ち並ぶ貴族街を抜けて、侯爵邸と公爵邸が連なるお屋敷街に入った。
たまに通りかかるのは貴族か、そうでなければ出入りの商人の馬車ばかり。
長々と続く高い塀、ほとんど人通りのない道路。ここでもスピードを落とすことなく、爆走できた。
でかでかと侯爵家の紋章を掲げた馬車だ。停められることなく顔パスで門を潜るのはいつものこと。
だけど入った敷地は、何故かデイネルス侯爵邸ではなかった。
「実家の母が危篤だと連絡が来ましたの。薬物で延命処置している間にバルトコル伯爵領まで行かねばなりません。一刻を争います」
端的に説明してくださったのは、テムニー侯爵第二夫人。バルトコル伯爵家から輿入れされた、僕の母の姉になる方だ。
王家の血を継いでいるバルトコル女伯爵の実子で、僕の母とは腹違い。そういうことになっている。
「王都まで早馬が来るのに十日かかっていますわ。猶予はありません。特別に陛下にご許可いただきました。聖女様のお力をお借りします」
高らかな宣言が為されたのは、テムニー侯爵邸の玄関先。
有り得ないよね。侯爵夫人が屋敷の外に出て待ち構えているなんて。
「神代の乗り物を用意していただきました。強行軍になりますが、キャサリンとマーク卿にも同行していただきます。ランドール伯爵も共に。デイネルス侯爵はキャサリンの義兄君の立場で同行を申し出られました。すぐに出立いたします」
ざざっと音がした。その場の使用人たちが、一斉に行動を開始したんだ。
僕? ルシカ先輩と一緒に、その場で立ち竦んだよ。何をすればいいのか、咄嗟に判断できなかった。
「マーク様、こちらへ」
侯爵家のお仕着せ姿の従僕にうながされて移動した先にあったのは、四角い小屋のようなものだった。
不思議なことに、基礎の代わりに車輪が付いていて、接地していない。大型の馬車のようにも見えるが、馬を繋ぐハーネスは見当たらなかった。
あ、テムニー侯爵家の紋章が付いてる。
それが侯爵夫人の言っていた神代の乗り物だった。夫人とその息子で次期侯爵、そこに僕が便乗して、すぐに出発した。ルシカ先輩まで乗せていただくわけには行かないので、ここでお別れだ。
エザール叔父さんも、付いている紋章がデイネルス侯爵家のものである以外、全く同じ乗り物で合流してきた。
そっちにはオスカー義父さんとキャサリン母上が乗っていた。
さらにデアモント公爵家の紋章を付けた乗り物、そして使用人用の紋章無しの乗り物。合計四台の馬無し馬車が王都を進むことになった。
何が何やらだけど、もう神代の奇跡で飲み込むしかないよね。
ミリア、聖女様ってどれだけ規格外なんだい。
マーク君は、天津箱舟を知りません。
空を飛んでないだけ、まだ自重してるんだよ。たかだか自動車じゃないか。はっはっは。
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