いざダンジョンへ
ちょっとキリが悪く、長くなりました。まだダンジョンの入り口です(笑)
山の中腹にあるダンジョンの入り口。そこを塞ぐように存在を主張している大きな門。
そこからまっすぐ伸びる登山道を下りきると、探索者ギルドの建物の裏口になる。
いや、ダンジョン側から見たら正面になるのかな。
とにかくギルドの建物の中を通り抜けしないと、門前町には入れない造りだ。合理的と言えば合理的だね。
建物の正式名称はまだ無くて、ギルド本部って呼ばれてるみたいだ。
一階には長いカウンターがあって、いくつも窓口が並んでる。探索者登録や依頼受付、依頼完了報告その他のプレートが付いてるから、大体何をするのか予想はつく。
通路でつながっている別館はカフェになっていて、待ち合わせや軽い打ち合わせ場所だそうだ。
「窓口と酒場を併設するなんてふざけた案もあったけどねー、そんなのは町中の食堂へ行けって話だよ。酒場とか宿とかも充実させてるのにさー、何でギルド本部で酔っ払う必要あるのよ」
ゆるーい口調は、探索者ギルドマスターのテイラムさん。
侮るなかれ、平民でありながらオスカー義父さんの副官として国軍で准将まで出世した人だ。
平民初の将官、立身出世の立役者、平民の星って言われてる。本人を知らない人たちから。
「いやだってさ、俺、オスカーのおまけだからねー。中位貴族なのに中将になったオスカーが凄いだけでしょ。今は伯爵で大将だけどさー」
ケラケラ笑うテイラムさんは、本当に昔通りで変わりない。ある意味凄いと思う。
これで軍務の時はキリッとしたしゃべり方になるんだから、公私の切り替えが見事なんだよな。
「もうちょっとしたら、探索者ギルドの体制が整うから、ちゃんと民間人のギルドマスターに交代予定なんだけどさー。適任者が決まらなくて困ってるのよ。前例とか前任者が居ないって、本当、面倒くさいよねー。全部一から決めなきゃなんないし」
あまりの緩さに、レナードが硬直していた。
レナードは武門の伯爵家の次男。学園で僕たちにもまれて大分軟化したけど、基本的に脳筋。テイラムさんにも准将閣下と呼び掛けようとして、速攻で断られていた。
「今は一時的に軍人資格を停止してるからねー。階級呼びは無しにしてー。探索者ギルドは民間組織でランドール伯爵家の持ち物って建前なのよ。国軍の軍人が責任者やってたらいろいろ不味いからさ」
王家の介入が見え見えでもねと続けられて、ルイやコーカイ、ライナーも硬直してた。
僕? 今更だよね。
家の陞爵と義妹ミリアの聖女認定騒動で鍛えられましたとも。
現役探索者でギルド職員を兼ねているディックさんが案内に立って、学生ダンジョンツアーが始まった。
先ずは受付カウンターで探索者認定証を発行してもらう。
と言っても、仮発行。有効期限はひと月で、初心者講習を修了しないと本発行は受けられないそうだ。
「講習を受けるという形で、ダンジョン見学に入ってもらいます。まだ制度を整えている段階なので、あまり特例を作りたくないんですよ。前例があるからとゴリ押しする連中はどこにもいますからねぇ」
御尤も。お忙しいときにご迷惑かけて済みません。
むしろ初心者講習を体験させてもらえる方がレポートの充実になるので、特別扱いは結構ですよ。
「そう言っていただけると助かります。ただ、本気で探索者になるために講習受ける人と同行するのはスケジュール的に無理ですので、今回は皆さんだけになります」
そりゃあ、ささっと見学だけしてすぐ帰る僕らに付き合ってもらうのは悪いよね。
デパ地下ダンジョンの入り口を塞いでいる大門は、朝と夕方、全開にされるそうだ。日中は半開きで交通量を制限して、夜は閉門してしまう。
緊急時用の通用口が脇に設置されていて、門番が詰めている。
「事務手続きなどは全てギルド本部で行います。ここは本当に見張りだけですね。怪我人の応急処置くらいはできますが」
簡単に説明しながら通るディックさんに、門番さんがビシッと敬礼した。
「元騎士団の部下なんです。ギルド職員になっても、国軍時代の癖が抜けなくて」
返礼代わりに手を振って、ディックさんは苦笑した。
いざ中に入ると、前に来た時と変わらない通路が続いていた。みんな、珍し気にキョロキョロしている。
「ここは古代都市の遺跡で間違いないようです。以前ご覧いただいた採掘場を中心に、鉱山都市が広がっています。どうも山をくりぬいて造ったようで、最上階は山頂を突き抜けて地上に出てましたよ。下はどんどん地下に潜ってます。まだ最下層まで到達してないんですよ。どれだけ深いのかは不明です」
へええ。そうなんだ。
いったいどれだけの規模が有るんだろう。
「聖女様は氷山の一角と表現していらっしゃいましたよ」
「氷山、ですか」
ルイが首をひねった。僕も聞いたことが無い。
「大きな氷の山だそうです。海に浮かんで漂流するんだとか。体積のほとんどが海中に沈んでしまうので、水面にはほんの僅かしか覗かないそうです」
「なんか想像できないけど、海には氷が浮かぶんか」
ライナーが不思議そうに言ったけど、それ、たとえだと思うよ。でっかい山だって沈められるほど海は大きいって。
氷じゃなくて普通の山だったら、海を埋め立てることになっちゃうし。それで氷山になったって思うぞ。
デルスパニア王国で海に面しているのは、ランドール伯爵領だけ。僕たちが海を初めて見たのは港町マイヅルでだ。
つい最近まで誰も知らなかった海をたとえに使うなんて、ミリアの発想は独特だ。それもやっぱり神託にあったんだろうか。
いろいろ脱線しながらゆるく見学しています。
マーク君たち、誰も氷山が実在するとは思っていません(笑)
アクシデントを起こすかどうか、迷ってます。
普通にダンジョンを見て回るだけにするか、ご都合主義の事件を起こすか。どっちにしましょうかね。
リクエスト、ありますか。
お星さまとブックマーク、よろしくお願いします。




