港町マイヅル
なんだかキリが悪くて長くなってしまいました。気を取り直して、ダンジョンへ向かいます。
僕らが通って来た道は、一直線に港町マイヅルへ延びていた。領都へ行くには、途中で右折する必要がある。
普通、領内の主要道路は領都を中心にするものだが、ランドール伯爵領の肝は他国との水上交易になる予定だからな。貿易港と王都を結ぶ交易路が優先されてしかるべしだろう。
ちなみに、オスカー義父さんは予定地決定に一切関わっていない。タムルク王国との戦争でそれどころじゃなかった。
領政については全てグレーン・スミス代官に丸投げしてる。
「それは乗っ取りではないか。代官が主家を傀儡にして好き勝手するのは王家の監査対象になると思うが」
脳筋なだけじゃなかったんだな、レナード。
「義父さんは事後報告書にサインするだけで済んで助かるって、常々言ってるよ。グレーン卿は元々公爵家の嫡男だった方だし、前職が近衛騎士だからねぇ」
今のなんちゃって近衛騎士じゃない。国王陛下の代理を務める、側近中の側近だった頃の近衛騎士だ。
「どちらかというと、国王陛下の意向を汲んで行動してるから。王家の監査は心配いらないと思うよ」
むしろ、素人の義父さんが口出しする方が不味いんじゃないかな。
伯爵領ってことになってるけど、実質王領じゃないかと思う今日この頃。
「なあ、マーク。それって俺らが聞いても良い話なんか」
ライナーが神妙な顔で訊いてきた。
普通の馬車より広めだけど、同乗してるから全部聞こえてる。
「別に良いよ。なにしろオスカー義父さん、ニーナ義母さんの実家の婿養子に戻りたいって愚痴るような人だからね。貴族の面子がどうこうなんて、絶対言わないから。主導権欲しいならどうぞどうぞって、喜んで譲るから」
ライナーとコーカイ、それにルイが顔を寄せてヒソヒソと話し出した。
「いや、伯爵様がどうこうじゃなくて、代官が牛耳ってるってことが問題なんじゃぁ」
「王家が隠れ蓑つこうて、好き勝手してるっちゅうんがどうにも」
「いやいや、元が王領ですよ。王家が好きに開拓するなら、わざわざランドール伯爵に下賜する必要は無かったのでは」
「んー、何かお偉いさんの考えがあるんだろ。マークん家に肩入れしているだけなら良いけどさ。大丈夫なんかな」
丸聞こえなんですけど。
むしろ王家が後ろ盾になってくれるなら、願ったり叶ったりだよ。開拓失敗の責任を押し付けられさえしなけりゃね。
なんだかんだで、終点、マイヅルに到着。
話には聞いてたけど、潮の香りというのは、独特で強烈だった。そのうち慣れて気にならなくなると言われたけど、本当かな。
真新しい建物が並んで、そこそこ人通りもある。半分が軍服なのは、国軍の駐屯地があるからだ。
街路樹や庭木がたくさん植わっているけど、どれも苗木かヒョロヒョロの若木ばかり。それを見て、出来たばかりの街なんだと実感した。
サウザンド商会マイヅル支店は、商業地区予定地の目抜き通りにあった。もうすぐ到着だ。
無事に高級馬車を引き渡せばミッションクリア。コーカイは自由の身になる。
ワクワクしている内に馬車が停まった。運び終えた達成感でちょっとした高揚感を味わってたら、馬車のドアが遠慮がちにノックされた。
「ようこそ、お出でいただきまして誠にありがとうございます。皆様を歓迎いたします」
業務用の笑顔を浮かべて揉み手をせんばかりに歓待してくれたのは、支店長さん。商談スペースの応接セットへ案内されて、握手を交わす。
そのまま、従業員さんが用意してくれた何枚かの書類にコーカイがサインしてたんだけど。
「あ、これちゃうわ。マーク、サインして欲しいねんけど」
そう言って、僕に回してきた。それは納品書だった。
「こちらも合わせてお読みください」
渡されたオスカー義父さん直筆の手紙には、僕専用馬車にするっていう決定事項が書かれていた。予備を含めた六頭の馬付きで。
「では、このままランドール伯爵家に納車いたします。どうぞお受け取り下さい、マーク・ランドール様」
つまりなんだ、僕はわざわざ自分の馬車を運んで来たのか。
なんだか脱力してしまった僕に、レナードがポンと肩を叩いてきた。
「馬を受け取る用事があったんだ。無駄足にはなってない。そう気を落とすな」
「まあ、そうだね」
コーカイの研修にも付き合えたし、全くの無駄足じゃないなら、良いか。
馬車の馭者と護衛を兼ねた案内役の紹介を頼んだら、キャラバンの責任者さんが立候補してくれた。気心も知れてるし、そのまま同行してもらうことに決定。
交代要員を追加で二人雇って、食品と水、その他の補給して、その日は終わってしまった。
紹介してもらった宿で一泊。
いよいよ明日は、ダンジョンに向けて出発だ。
結局、高級馬車で乗り付けることになりそうな。
マーク君は、「有るモノ使わなきゃ勿体ないだろ」と、贅沢なんだか貧乏性なんだか、どっちなのか分からないことを言ってました(笑)
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