ランドール伯爵領は発展途上
えーと、タムルク王国との戦争については、本編を参照してください。オスカー君の活躍が見られます(笑)
荒野の中の一本道。そこにポツンと一軒だけ建つ真新しい宿。
土を固めただけの道をやって来る商隊は、遠くからでもすぐに分かる。
元々往来の少ない立地。何日かぶりに忙しくなると、従業員一同は張り切っていた。
「ここから先、しばらくは似たような場所ばかりですわ。将来必要な施設や村が点在しとりますけどな、軌道に乗るまで、開店休業なんや。人口が増えて経済が回るようになるまでは、わしんとこの商会が食料と日用雑貨を配って歩きますねん。ここにも卸してますねんで」
宿の一階の食堂で、コーカイが自慢げに説明してくれた。フォークでつついているのは、直前の仕入れの中にあった生鮮野菜のサラダだ。
「詳しいな。コーカイも今回が初めてではないのか」
レナードが言うと、こう、いかにも高位貴族らしいオーラというか、重みがある。さすが伯爵令息。
一応僕も同じ立場だけど、ウチは成り上がりだからな。
「そりゃ、予習して来たに決まってますがな。正直、この商隊は単独やと赤字やで。わしの教育にとことん利用して、少しは元を取らんと」
そうだろうな。帰りは空荷になるって言うし、扱う荷は廉価品ばかり。経費を考えると、荷車一つの行商人の方が儲かるだろう。
素人の僕でも解る。
「儲け度外視なら、その分、顔つなぎで有効利用しとかんと。伯爵領への先行投資の一部ですわ」
明け透けな物言いに嘘はないと分かっている。
コーカイ曰く、商人は信用第一。
都合の悪いことを黙っていたり思考誘導したりするのは商売のテクニックで使い方次第だが、嘘を言うのは完全にNG。結果が同じでも、自分の口から偽りを出してはいけないそうだ。
「わしは本当のことしか話さへんで。言葉の裏考えたり、何でその話するのか意図を察したり、その辺は自己責任でお願いします。それにこれ、お貴族様の社交ってやつに通ずるんやないですか」
お説ごもっとも、だね。
本当は全員個室にできたんだけど、大部屋にしてもらった。なんたって修学旅行だし。
ただ、二十人は入れる部屋なのに、僕たちの貸し切りになっている。
まあ、雇い主の息子と高位貴族の息子が二人、おまけに中位貴族の息子までいるんだ。商隊の皆さんが気を使ってゆっくり休めないと言われたら、大人しく隔離されるしかないんだけど。
だいぶ馴染んだと思うし食事は一緒に食べてるけど、まだ無理かなぁ。
「そんでさぁ、ここの従業員、みんな住み込みなんだって。周りになーんも無いからしょうがないって笑ってた」
平民枠のライナーは、辺境開拓村育ちというメンタルの強さで、従業員の中に入り込んで情報収集していた。
本人はただの世間話のつもりらしいが、ちょっとした特殊技能だと思う。
「タムルク王国から出稼ぎに来てるって人が多いのには驚いたよ。真面目に十年働いたら、デパ国の戸籍貰えるんだって。直接移民してきた難民はすぐにランドール伯爵領の領民になれるから羨ましいって言ってた」
へえ、出稼ぎか。難民以外にも来てたのか。
「難民? どういうことだ」
ルイが訊いてきた。
「ほら、タムルク王国との戦争で、大量の難民が出たんだよ。オスカー義父さんが責任者になって占領地政策してたらしいんだけど、いざ撤退するってなったら、おいてかないで下さいって頼まれたんだって」
「はぁ?」
うん、驚くよな。普通、敵の軍隊が居なくなるなら喜ぶはずだもんな。
「戦争だからって、タムルク王国内で無茶な徴兵や徴発が横行してたんだって。それが原因で反乱が起きたりして、酷い有様だったって。占領地以外が」
直接オスカー義父さんに投降してきた領主は、このまま領地ごとデルスパニア王国に併合していただきたいと懇願したそうだ。
戦争で食料を根こそぎ持って行かれるわ、ただでさえ徴兵で少なくなった男手まで徴用されて収穫が激減するわで、このままじゃ餓死者が出ると縋り付かれたって。
「難民対策でデパ国も引き受けることになって、ほとんど無人地帯の家の領地で引き取るように王命が出てるんだ。まあ、一から開墾することになるから、厳しい生活になるだろ。見返りに領民として認めるって報酬付けたってわけ」
戦争捕虜として無理やり連行して強制労働させてるなんて、難癖つけられたら困るからね。
レナードが眉を寄せた。
「大量の難民を受け入れて、治安が悪化しないか。徒党を組んで盗賊になったら困るだろう」
武門の家だと、そこが気になるか。
「それは大丈夫。開拓村はサウザンド商会の物資が届くから食い詰め者なんて出ないし、無人地帯がずぅーっと続くんだよ。襲う相手がいなきゃ盗賊なんて成立しないでしょ」
せめて犯罪が成立するほど開拓しないとな。まだまだ先は長いや。
荒野に点在する貧しい開拓村。略奪する物がありません。
たまに行き交う商人は大規模なキャラバン。下手に襲えば返り討ちです。
どちらも盗賊が狙うには不適切でしょう。
開拓が進んで経済が活性化すれば、盗賊に身を落とさなくても食べていけます。治安対策だって強化されるでしょうしね。
本編を読んでいただけると理由は分かると思いますが、これから驚異的なスピードで発展していきます。来たれ、高度成長期(笑)
お星さまとブックマーク、よろしくお願いいたします。




