いざ出発
シリーズの他の話、読んでいただきありがとうございます。
デルスパニア王国の周辺には、辺境と呼ばれる未開地が広がっている。
領主不在で地名さえなく、行政区分上、王領に分類される無人地帯だ。そのまま隣国との国境へ続く場所も多い。
王領である以上、貴族は勝手に開拓できない。王家から下賜されるまでは手出し無用の禁足地だ。
平民は誰でも勝手に開拓して良いことになっている。法律で定められた基準に達すれば開拓成功、そのまま領地として認められ、代表者は世襲可能な中位貴族として叙爵される。
ランドール伯爵領は、王家から下賜された辺境地帯だ。
南北に細長く、南は神の恩寵の運河と呼ばれる海峡に面している。天然の良港と絶賛される入り江があり、数年の内に隣国との交易の中心地になる将来が確定している。
西側は、長く続く山脈が衝立のように立ちふさがっている。山越えすれば王都からわずか二日の距離なのに、辺境呼ばわりされて来た理由がこの山脈だ。
「平地を大回りしていくか、山越えするか。どっちのルートにする」
「そやな。わしんとこの商会のキャラバンは大型の幌馬車やさかい、大回りルートしかあかんねん。往復で二十日は要りますで。滞在はいいとこ三日やな」
キャラバンの同行そのものが目的ならそれで良いが、三日しか使えないのはどうだろう。
領内移動を加えれば、ダンジョンまで寄り道する余裕はなさそうだ。
「山越えだと、もっと時間かかるのか」
「いや、一応道は通っている。普通の馬車なら通れるぞ。二日あれば余裕で伯爵領へ入れるし、目当てのダンジョンは山肌にあるから意外と近い」
前に一度、現地まで足を運んでいるからな。そこは確認済だ。
山越えの峠道は荷車用だったけど、馬車が通れるように拡張済みだそうだ。途中にすれ違う為の退避場所兼休憩所を整備したって教えてもらった。
自領の基礎知識はしっかり押さえて下さいと家令のリカルド・オーエンさんに言われたけど、後継者教育の一環じゃないかと疑ってる。
もしそうなら、僕じゃなくて弟のカークに施してもらいたいところだ。
「片道だけは商会のキャラバンに同行しないと、コーカイが困るだろ。サウザンド商会の伯爵領支店って、領都にあるのか」
「うんにゃ。港町マイヅルでおま。まだ交易は始まっておませんけど、ランドール伯爵領の商業の中心地になるんは確定済みでっせ。そこに着くまで、途中の開拓地で荷捌きして移動経費まかなってますねん。帰りは空荷になるさかい、真っ直ぐ戻るだけやでかなりの時短になりまっせ」
港町の支店は、港整備の労働者や駐留している国軍相手の小売りくらいしかしていないそうだ。
将来の交易を見据えた先行投資だそうで、年単位の赤字は織り込み済みだとか。さすがは大商会だな。
「じゃあ、山越えでダンジョン寄って、その後マイヅルまで行くか。帰りはキャラバンに混じってけば、休暇中に戻れるだろ」
「うーん、そのキャラバンというのは、毎日出立するのか。上手く合流できなければ行軍計画が破綻するぞ」
行軍計画って。
言ってることは分かるけど、ちょっと軍事から離れようよレナード。修学旅行なんだから。
結局、行きがサウザンド商会のキャラバンになった。空荷で通過するだけじゃコーカイの研修にならないからって。そりゃそうだ。
代わりに、マイヅルの町に着いたらそのまま自由行動して良いと許可が出た。
「支店での研修は何時でも出来ます。マーク様と同行できる機会をフイには出来ません。よろしくお願いしますよ、マーク様」
コーカイの父親でサウザンド商会の大番頭をしているキースさんが言ってきた。
ちなみに商会の会頭はコーカイの母親。キースさんは婿養子なんだ。内密の話だけど、僕の叔父さんでもある。
「ランドール伯爵家との伝手を強固にできる機会、見逃すようでは商人とは言えませんからなぁ。できる限りの便宜は図らせてもらいましょう」
という訳で、幌馬車ばかりのキャラバンに、何故か高級馬車が混じることになった。
表向きは注文を受けた馬車の納車ということになってるけど、部外者の学生が乗車するのはアリなんだろうか。
ちょっと前進。キャラバンの幌馬車、オスカー君の補給物資運搬を思い出します。
今、サイドストーリーが頭の中をグルグルしてます。思い付いちゃったのが運の尽きでしょうか(笑)
頭から追い出さないとマーク君の話が進まないかも(;^_^A 書くしかないのかなぁ。
お星さまとブックマーク、よろしくお願いいたします。




