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マーク君の学園生活  義父は英雄 義妹は聖女 叔父は宰相やってます  作者: お冨
第八章 叔父さんの訪問

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偽装結婚

 ちょっと長くなりました。

「トマーニケ帝国から恋人が戻ってこないから結婚できない。このままでは未婚で私生児を産むことになってしまう。他に頼れる身内はいない。それで渋々バルトコル伯爵家に来たんだが、正直、追い返されても仕方ないと半分諦めていたそうだ」




 自分は先代伯爵の庶子で、母親は身寄りのない平民。母が亡くなってからはパッタリと父親の訪問が途絶え、伯爵家との縁は自然消滅したものと思っていたらしい。


 手切れ金としていくらか資金援助してもらえれば、出産前後を食いつなげる。その後は働きながら子育てする。

 そんな申し出を受けたカレスン・バルトコル伯爵の行動は早かった。


 実はカレスン卿、先代伯爵から母親を亡くした庶子の面倒を頼まれていた。

『伯爵家に引き取るのは簡単だが、それでは肩身の狭い思いをさせてしまう。不幸な政略結婚などさせたくない。このままのびのびと平民として生きて行って欲しい。何かあった時だけ手助けしてやってくれないか』


 老い先短い(しゅうと)の願いを叶えようと張り切ったカレスン卿は、本人と会って撃沈した。

 溺愛する妻によく似た若い娘。しかも妊婦。将来を約束した恋人は待てど暮らせど戻ってこない。


 この娘は我が子同然、生れてくる子は孫同然、庇護欲爆発である。

 

 保護することは決定として、どうするかが話し合われたとき、カレスン卿の第三夫人として迎えてはどうかと提案したのは、第二夫人だった。


 第二夫人(いわ)く。

 自分の娘二人は、バルトコル伯爵家の血が薄すぎる。形だけ整えるためにカレスン卿の子供ということになっているが、そもそもカレスン卿も分家の出、血が薄いことに代わりはない。

 産まれてくる子は、先代伯爵の実の孫、母親が庶子だとしても血の濃さは比べ物にならない。


「形だけ第三夫人として迎えれば、正式な伯爵家の後継者が生まれますわ。わたくしという前例がありますのに、ためらう理由がありまして」


 この意見にリリアーヌ・バルトコル女伯爵が同調した。

「伯爵家の一員として迎え入れれば、手厚く保護できますわ。産まれてくる子供を手元で養育できる、手放さなくて済みます。当主としても、後継者を増やせるのは好ましいわ」


 カレスン卿もこれに同調。完全に娘を溺愛する父親になっていた。

 (ウチ)の娘はどこへもやらん。どこかの馬の骨になんぞ、渡してなるものか。




「門前払いどころか怒涛(どとう)の勢いで囲い込まれて、平民に拒否できると思うかい。しかも相手は天下のバルトコル伯爵家だ」


 それは、無理だと思う。


「若い娘を第三夫人に迎える理由として、カレスン卿が一目ぼれしたことにした。お腹にはすでに子供がいるとね」

 誰の子供かは極秘事項。産まれるまでに結婚しないと庶子になってしまうからという理由で、強引に婚姻に持ち込んだ。


「晴れてキャサリン義姉さんは伯爵令嬢として産まれることが出来た。これでバルトコル伯爵家は安泰だ。そう思っていたところへ、ひょっこり恋人がトマーニケ帝国から戻って来た」


 


 もともと彼は、一人で行商をする零細商人だった。まだ若く身軽なこともあって、隣国へ足を延ばす冒険に挑戦した。

 そうしてデルスパニア王国で運命の出会いを果たす。


「結婚しようと約束して、デパ国で仕入れた注文の品を届けるためにトマーニケ帝国へ戻ったところで、取引先から隊商への参加を誘われたそうだ」


 商人としての大チャンス。結婚後の生活を見据えて、彼は大勝負に出た。

 結果は大勝利。商売の元手と販路を手に入れて、意気揚々と婚約者を迎えに戻ってきたら。


「行方不明になった婚約者を探して、バルトコル伯爵家にたどり着いた。そこからカレスン卿に一歩も引かず交渉したそうだ。あれだ、娘さんを僕に下さいというやつだ」


 一介の商人、それも他国の平民がバルトコル伯爵に喧嘩を売って一歩も引かず、むしろ弱みに付け込んで若い娘を妻にするとは何事かと糾弾した。


「さすがはエバンス商会を立ち上げた人物だ。見上げた根性だったそうだよ。最後は『娘を不幸にしたら承知しないぞ』って決まり文句で送り出すしかなかったと仰ってた」


 ただし、産まれた伯爵令嬢を連れて行くことは出来なかった。


「キャサリン義姉さんを手元に残すことが、女伯爵が二人の結婚を認める条件だった。父親はあくまでカレスン卿、伯爵家の後継者として育てることにすると。その代わり、出来たばかりのエバンス商会の後ろ盾を伯爵家が引き受けた。伯爵家として最大の譲歩というのは、分かるだろう」


 それは、分かるしかないよな。

 他国の平民一人くらい、人知れず処分できるのが高位貴族だ。むしろ一切相手にせず、問答無用で無礼打ちにしたって非難される恐れはないだろう。


「理由はどうあれ、無事に出産できたのは伯爵家の援助あってこそだ。伯爵令嬢にまでしたのはやりすぎとも言えるが、今更取り消しはできない。他国の平民が父親ではマイナスにしかならないと言われて、引き下がるしかなかったそうだ」



 しばらく沈黙が流れた。全ては過去のこと、どうすることもできない。


「あの、聞いて良いですか」

 ライナーがおずおずと手を挙げた。


「キャサリン様は、バルトコル伯爵家の後継者の筈だったんでしょう。どうしてランドール子爵家へ嫁入りすることになったんですか」







 良い質問だな、ライナー。

 そこにはとってもややこしい、高位貴族の事情があったんだよ。




 本編第三章「遠くて近い親戚は」と読み比べてみて下さい。出来る限り辻褄合わせしております(笑)


 誰も悪くなかったんですけどねぇ。



 お星さまとブックマーク、よろしくお願いします。

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