伯爵家の事情
例の騒動です。
十二月に入ってグッと冷え込みました。寒いよー。
一昨年の騒動。
母上の実家のバルトコル伯爵家が、当時まだ子爵だったランドール家に接触してきた。それまで絶縁状態だったのに突然に。
その時のゴタゴタが尾を引いている訳だけど。
「事は我が家だけじゃなくて、バルトコル伯爵家とテムニー侯爵家に関わって来るので、どこまで説明して良いですか」
意思の疎通は大事だ。忙しいオスカー義父さんはなかなか捕まらないし、ちゃんと確認しておかないと。
「そうだな。今回、王宮でバルトコル伯爵を交えて話を通してある。陛下のお言葉も伝えておきたいし、私から直接話しておこう」
来客が辞去した後の応接室で、内密の説明会が始まった。
「まず、念を押しておくが、これから話すことは王家も関わる機密事項だ。トマーニケ帝国との外交に関わる問題になりかねないと言えば分かるかな。あくまで共通認識を持つためのもので、この部屋を出たら一切口外無用。立会人はリカルド・オーエン。我が家の家令としてではなく、元オーエン伯爵家当主で国王陛下の侍従長経験者として同席していただく」
リカルドさんが、優雅に一礼した。さすが王宮仕込み、隙が無い。
いや、この場はリカルドさんじゃなくてリカルド卿って呼ぶべきだな。立場的に。
さっきまでカールさんとキースさん、それにコーカイの三人が座っていた場所に、ライナーとルシカ先輩、そしてリカルド卿が座った。
ルシカ先輩、そんなにガチガチに緊張しないで下さい。今のうちに慣れておいた方が良いですよ。色々と。
「知っての通り、ランドール伯爵家の第一夫人は、キャサリン・ランドール、形だけ俺と再婚してるけど、俺の上の兄貴と結婚してマークを産んでくれた女性だ。バルトコル伯爵家の四女で、母は第三夫人だった。ここまでは良いかな」
みんなの目がキャサリン母上に向かった。母上は小さく頷いた。
「キャサリン義姉さんの母君は平民だった。なのに正式にバルトコル伯爵家の第三夫人に成れたのは、先代バルトコル伯爵の庶子だったからだ」
ライナーの喉がひゅっと音を立てた。この辺は説明してなかったから、そりゃ驚くだろう。
「バルトコル伯爵家の家督を持つのは、リリアーヌ・バルトコル女伯爵。婿養子のカレスン・バルトコル伯爵は、分家のランデス男爵家出身だ。お二人の間に生まれた嫡女が現テムニー侯爵夫人だけど、幼少時は病弱で、成人まで生きられるかどうか危ぶまれていたらしい」
そもそも女伯爵が病弱で、次の子供は望めなかった。親族会議の末、カレスン卿に第二夫人をあてがって後継者を得ることになった。
「第二夫人はもう一つの分家の出。分家と分家を掛け合わせて、薄いながらバルトコル伯爵家の血筋を守ろうとしたわけだ」
ここで、オスカー義父さんが言いよどんだ。ちらりとキャサリン母上を見た。
「あー、キャサリン義姉さん、今回、バルトコル伯爵に直接聞いたんですが、カレスン卿と第二夫人は白い結婚だったそうです」
えっ。そうなんですか。僕も初耳だ。
「何でも、第二夫人には恋人がいたとか。これは女伯爵も承知のことで、分家の血を持つ子供を伯爵家に引き取るために、形だけの結婚をしたんだそうです。カレスン卿は『今更時効だろう』って笑ってましたけどね」
第二夫人は娘を二人産んだ。これで安泰かと思ったとき、女伯爵の異母妹が訪ねてきた。
「先代伯爵の庶子で、キャサリン義姉さんの母君だ。女伯爵とは親子ほど年が離れていて、妹というより娘のような存在だったそうだ。リリアーヌ様の面影があって可愛くて仕方がなかったらしい。カレスン卿は親ばか状態で暴走したと言っていた」
あれぇ。カレスン卿が一目惚れして第三夫人にしたって話じゃなかったっけ。老いらくの恋じゃなくて親ばか故の過保護状態って。
あー、それは傍から見たら区別付かないか。
「平民として平穏な暮らしをしていた母君は、トマーニケ帝国から来た商人と恋仲になっていた。将来を約束したんだが、仕事で帝国に帰った恋人は待てど暮らせど戻ってこない。キャサリン義姉さんを身ごもって、どうしようもなくバルトコル伯爵家を頼った」
そこは聞いているけど。
オスカー義父さん、ライナーとルシカ先輩にそこまで教えて良いんですか。
時間が経って、ちょっとは落ち着いて情報を反芻していたら。
テムニー侯爵夫人から聞いた説明とは微妙に違う情報が出てきました。本人にしか分からない事情というやつです。
表向きの話と事実と真実。高位貴族はとにかくややこしくて面倒です。
次話ではまだまだ新事実が出てくる……かも(笑)
本編とは微妙にアレンジした部分、間違い探し気分で楽しんでください。ただし、ほとんどはお冨のポカミスです(;^_^A
お星さまとブックマーク、よろしくお願いします。




