新たな日常
うっかりリアーチェ侯爵令嬢の方に更新してしまいました。訂正します。やっちまったぜい。
二年生に進級して、僕は男子寮自治会の会長に就任した。
これは新二年生の身分序列一位の者が自動的に就く役職で、個人の適性とは全く関係ない。
まあ、高位貴族なら取り巻きとか親類縁者の人脈とかが標準装備だから、本人がダメダメでもなんとかなるもんだ。
新興伯爵家の僕には無縁だけど。
いや、叔父さんと伯母さんは親類縁者だった。あと義妹とか、義父さんとか、ちょっと規格外な縁はあったな。ハハハハハ。
新会長の初仕事は、新入生の私物を寮の部屋へ配達すること。
当日の受付で部屋割りが決まってから入学式終了後新入生が入寮するまでは、ほぼ半日。時間制限内でミッションクリアするためには、事前準備が欠かせない。
三年生になった先輩方からノウハウの引継ぎをして。
自治会メンバーをリーダーとしたチーム分けで在校生全員に役割分担して。
現場のトラブルに臨機応変で対応して。
なんとかギリギリ間に合わせたら、次は打ち上げを兼ねた新入生歓迎会の開催だ。
去年の先輩方は、こんな大変な事してたんだな。新入生諸君、来年は君たちの番だぞ。
今年から始まった入学試験。それと同時に行われた進級試験で、僕とライナー、コーカイ、レナード・ルシアンとルイ・バースタインは、無事にAクラスに残ることが出来た。
正直、脳筋レナードが残れたのには驚いたが、ルイがつきっきりで座学の面倒を見た甲斐があったってことだろう。騎士科の武術は流石の成績だったらしいし。
他にも持ち上がりは居るけど、半数近くが入れ替わっていた。
新入生については、年齢構成がバラバラだった。
去年まで義務だった貴族階級は全員が今年十五歳。奨学生や特待生も同じく。
そこへ入学試験に挑戦しようという平民が加わったんだけど、そのほとんどが年上だったわけだ。
とっくに成人済みで僕らより十は年上の下級生って、何だかな。
ちなみに、今年卒業された第二王子殿下と同学年のボリューム層がごっそり抜けたので、定員には余裕があった。
そこを平民が埋めたわけで、人数比がかなり変動したようだ。将来的には、貴族学園という通称が実態に合わなくなるかもしれない。
色々変化はあったけど、まずまず平穏な学園生活が続いてた。
平穏じゃなかったのは、僕の実家、ランドール伯爵家だった。
「マーク卿、宜しければ我が家のパーティーへお越し頂けませんかしら。是非、招待状をお送りしたいわ」
「せっかくですが、ご遠慮いたします」
制服にアクセサリーをこれでもかと盛った女子生徒に声を掛けられて、貼り付けた笑みで応える。
ここでうんと言おうものなら、あっという間に招待状の山に埋もれてしまうだろう。
正式に受け取ったら、お断りの手紙を出さなきゃいけない。朝から晩までペンを走らせるなんて、そんな徒労はご免こうむる。
「ご招待を全て受けるには、この身が持ちません。ですので、受けないことにしております」
にっこり。
ここで不快感を出してはいけない。相手に非難する隙を与えては後が面倒だ。
キャサリン母上とリアーチェ叔母様に鍛えられた上級貴族のマナーは、なかなか役に立っていた。
「さすがだね、マーク。淑女のあしらいが見事ですよ。でも、あんな美女を袖にして、勿体なくはないのかな」
「羨ましいなら譲るよ、ライナー」
「ご冗談を。私のような平民は相手にされないよ」
つい、作り物ではない笑みが浮かんだ。
「大丈夫。充分貴族の子弟に見えるよ。キャサリン母上の特訓の成果だね」
「えー、勘弁して。俺、平民で充分だから」
「ははっ」
「あ、そうそう。ルシカ先輩から伝言届いてた。次の週末、ランドール邸へお戻りくださいって」
ルシカ先輩は卒業と同時に僕の側近になった。今はランドール伯爵邸で、家令のリカルドさんにしごかれている。
わざわざ伝言してきた用件は何なんだろう。
「ああ、了解。ライナーもミリアのアルバイトだろ。一緒に行こう」
この時僕は、軽く考えていた。そこで会う意外な人物に驚愕することになるとは、夢にも思っていなかったんだ。
新章スタートです。え、ミリアちゃんのその後はって。あー、その内出てきます(笑)
三年はイベントが目白押しなので、このネタは二年生に持ってきました。目指せ、卒業式のエピローグ。
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