神の祝福
えーと、本編の第八章と併せて読んでいただけると嬉しいです。オスカー君とミリアちゃんはテラスの上、マーク君は下から見上げています。
急遽開催された国際連携機構設立祝賀祭の最終日。デルスパニア王国の王都の中央にある王城は、世界の中心になっていた。
王城の正門を潜ってすぐに、広い前庭がある。平素より開放されているそこは、旅行者を含む民の憩いの広場として活用されてきた。
さらに奥、普段は許可なく立ち入ることの出来ない場所に王宮がある。
そのテラスから見下ろすことの出来る広場が開放されるのは、即位式や王族の婚姻式など、めったにない国を挙げての祝賀行事に限られている。
その場所が開放されたということは、今回の行事がそのレベルだという宣言と同義だ。
「いや、複数の国家元首が揃っているのだ。国内だけの祝賀より、レベルは上ではないか」
レナード・ルシアンの言葉に、僕たちは驚いた。
「レナードはんがそない言うなんて、いやぁ、御見それしましたわ」
コーカイの言いように、同意の頷きが多数。レナードが脳筋だってのはクラスの共通認識だからな。
「失礼な。レナード卿は腐っても伯爵家ご次男、武術以外の知見があっておかしくない。ちゃんとわかっておられるぞ」
ルシアン伯爵家の寄り子で、レナードの取り巻き兼友人やってるルイ・バーンスタインが突っ込みを入れた。
いつものことだけど、それ、コーカイよりひどくないかな。レナードが脳筋だって認めちゃってるだろう。
貴族学園は臨時休校している。なにしろ王立だからな。学業より行事優先だ。特に各学年のAクラスは王宮前広場まで入ることを許された。許可という名の強制参加だけどさ。
ずーっと立ちんぼでひたすら待ってるより、平民街で出店の食べ歩きとかしたいよな。
ひときわ大きな歓声が起きた。見上げるテラスに、人が出てきた。
遠目では小さくて、顔がはっきり見えない。それでも服装が豪奢なのは分かった。
「あ、あのマント、トマーニケ帝国のものだよ。あの人が皇帝か。思ったより若いよね」
「あの方が即位したお陰で終戦できたんだろ。戦後処理がスムーズにできて、今回の国連設立に協力的だったって聞いてる」
「タムルク王国とは逆でんな。あそこは敗戦の責任取って退位したんでっしゃろ。代替わりのごたごたが治まってへんゆうて、宰相はんが国王代理で来はったそうやで」
「まあな。責任取るの嫌がって、王位の押し付け合いが起きてるって噂だけど、ホントかな」
みんな言いたい放題だけど、歓声の中じゃ聞きとがめられる心配は要らないか。
「あ、陛下だ」
遠目でも分かる。我が国の国王陛下だ。後ろから王太子殿下もいらっしゃっ……。
ちょっと待て。なんでミリアが王太子殿下にエスコートされてるんだ。僕は聞いてないっ。
「な、なぁマーク、あすこに居んのって、もしかして」
ライナーの声が焦ってたけど、それどころじゃない。
テラスに出てきたのは男性ばかり。王妃殿下だっていらっしゃらないんだ。そんなところに未成年の義妹が混じってるって、可笑しいだろ。
ミリアが手を挙げた。両手を広げて前に差し出してる。何か言ってるかもしれないけど、全然聞こえない。
「ミリア!」
思わず大声で呼び掛けた。
応えは、今まで聞いた事のない大音響だった。
ラッパの音。太鼓の音。それから笛の音らしきもの。
知らない楽器の音が、天から降って来た。それは幾重にも重なりあって、壮大な天上の音楽を構成して。
ただ、ただ、呆然と音のシャワーを浴び続けた。
広場を埋め尽くす大群衆が、しわぶき一つ、身動き一つ出来ぬまま、凍り付いていた。
静寂の中で、ミリアの声が、やけにはっきり聞こえた。
「神は国際連携機構の創立を寿がれます。その証として、運河を与えるとの仰せ」
光の帯が、空を走った。
まるで稲妻のように。それとは違い、どこまでも真っ直ぐに。
遅れて轟く雷鳴。空全体が光に包まれた。
その日、王都の全ての民が、神の御業の目撃者になった。
音楽文化のショボい世界で、●タ―・ウォーズを大音響で叩きつけられたら、そりゃ硬直するでしょうね。
ミリアちゃん、この事件(笑)で民衆レベルまで聖女様として認識されました。今までは上流階級どまりでしたから。
なお、この時点で曲の後の光については、何が何だか分かっていません。王家の広報活動はこれからです。
お星さまとブックマーク、よろしくお願いいたします。




