学園改革は終わらない
今日は四年ぶりに自治会のリクリエーションがありました。締めのビンゴ大会、五リーチ。運が良いのか悪いのか。
「なんだこれ」
授業を終えた学生たちが、学生寮の玄関ホールに足を踏み入れた途端、目に入って来たもの。それは巨大な掲示板だった。
試験結果を貼りだす時の仮置きのものではなくて、建物の構造物の一部になっている。
そこに貼り出された数十枚の紙は様式が統一されていて、『新卒採用募集要項』とタイトルがついていた。
「なになに、デアモント建築土木会社、本社所在地デアモント公爵領領都、募集人員百五十名、って、百五十名!?」
素っ頓狂な大声に、何だなんだと人だかりができた。
二階の自治会室は、掲示板のある吹き抜けのホールを見下ろす位置にある。
悠々と下の騒ぎを眺めているのは、去年自治会長を務められた第二王子殿下。そして今年度の自治会メンバーだ。
不本意ながら、僕もその中の一人。
「募集条件に、必須の取得単位と推奨単位を明記したからな。今年からカリキュラムの選び方ががらりと様変わりするだろうよ。貴族の教養はほどほどにして、実務系の授業を取った方が就職に有利に働く」
殿下、顔が悪くなってますよ。
「今までは寄り親の個別の就職斡旋だったが、それでは求人に追い付かない。来年から卒業生は全員下級貴族に叙爵する。全学生に貴族向けの就職情報を開示して不都合はないさ。増えたパイをどこまで手に入れられるかは、各家の力量次第。獲得競争が激しくなれば、労働条件の向上に繋がる。善きかな善きかな」
殿下がここまで言うってことは、王家の方針なんでしょうね。聞かされる身としては心臓に悪いんですけど。
「就職斡旋が無くなるとなると、寄り親の権益が一つ減りますね」
涼しい顔で際どいことをいうのは、二年生の現自治会長。ヒックス公爵家のジュリアン先輩だ。
「ふふ、寄り親と寄り子の関係より、経営者と労働者の関係の方が間口は広いでしょう。規模も桁違いですよ。それぐらいしないと、経済規模の拡大に取り残されますよ」
これまた涼しい顔で言うのは、侯爵家の先輩。第二王子殿下の側近を務める方だ。
だから先輩方、そんな国家規模の話を一学生の僕に聞かせないで下さい。お願いしますから。
「なぜ急に必須授業が増えるのだ。それも経済学だと」
クラスメイトのレナード・ルシアンが、この世の終わりみたいな顔をして頭を抱えた。
レナードは武門の伯爵家の次男坊、騎士団志望で、武術に全振りしたカリキュラムを組んでいる。裏表のない性格で、清々しいほどの脳筋だ。
「決まったものはしょうがおまへんで。いやあ、終戦になって、これからは商人の時代でっさかい、経済のイロハ押さえとかんと、常識無し言われてしまいますで」
王都指折りの大商会の跡取りコーカイが、我が世の春とばかりに満面の笑みで言い切った。
「認めたくはないが、コーカイの言う通りです、レナード様」
いつもならレナードを全肯定するはずのルイ・バーンスタインまでそんなことを言うものだから、レナードは愕然としてた。
「頑張れ、分からないところがあったら、付き合ってやるからさ」
そう言って肩を叩くしか、僕に出来る事はなかった。
レナードが理解するまで復習に付き合ったクラスの連中は、全員が熟練の教師スキルを会得したと思う。
それほど、レナードの脳筋ぶりは半端なかったと言っておこう。
レナード・バーンスタイン。どなたも突っ込んでくれないので、ちょっと寂しい。彼のCD、何枚か持ってます。
レナード・ルシアンとルイ・バーンスタインは、切っても切れない迷コンビ(笑)
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