ダンジョンへ行こう
マーク君、うだうだしています。ストーリー的には寄り道ですが、書きたかったもので(笑)
週明けのたびにヘロヘロになって戻ってくるライナーを迎えること七度。ふた月が過ぎた。
一週間が七日で七週だと四十九日だから、ふた月五十日に一日足りない。
一年は十四ヶ月だから、ふた月が七回分。
七週が七回で四十九週、足りない一日が七回で七日。
十二歳で受ける卒業試験の計算問題の定番だから、誰もが覚えてる計算式だ。一年三百五十日で五十週ちょうどに収まるんだから面白い。
「なんでそんな、どーでも良いこと口にしてるのさ」
寮のベッドに寝っ転がったライナーがやさぐれた。
まあ、週末ごとにランドール伯爵邸でしごかれてきたんだから、疲労困憊になるのは仕方ないだろう。
「ご苦労様。キャサリン母上の礼儀作法はバルトコル伯爵家仕込みだからな。大変だとは思うけど、基礎が出来れば後は楽になる筈だから。頑張れよ」
「マ~ク~」
頑張れ。僕が代わってやれないのは分かってるだろ。自分で身に付けなきゃ意味が無いんだから。
「ミリアのアルバイトの方はどう。順調?」
「そりゃあ、なぁ。ほら、学園改革のお知らせだろ。来年の入試シーズンまでに周知しなくちゃって張り切ってて、すんごい速さで進んでる。ミリア様、チョウトッキュウって言ってた。マークはチョウトッキュウって、意味分かるか」
「超特急ね。それ多分、神代古語だと思う。ミリアが聖女様になったのは神代古語の神託を理解できるからだし」
「え、聖女様になったから神代古語が解るんじゃねぇの。神代古語、マスターしたら誰でも聖女様になれるんか」
それは……どうだろう。卵が先か鶏が先かだけど。
「少なくとも、今現在、神託を受けられるのはミリアだけだからな。王宮に行けば神代古語の研究者だっていると思うんだ。でも、神託が下ったって話は聞かないし」
「隠してるわけじゃねぇの」
「それは無いと思う。隠すんだったら、ミリアみたいな小娘が神託受けたってことが先だろ。他に居るなら、態々ミリアを聖女に祭り上げる必要、有るか」
「うーん、難しいことは分っかんねぇ。ま、いっか。あ、ミリア様の漫画、今、主人公が学園入試に挑戦する決心したとこまで進んでるよ。学費の貸付制度の説明受けるシーン、俺が背景のベタ塗り全部したんだ」
ま、いっかってな。そんなに軽くスルーするなら、僕に考え込ませるなよ。
「それにしてもミリア様か。ミリア、様付け嫌がってたろ」
「うん、そりゃもう。ほら、メイドさんたち、聖女様って呼べって、無言の圧力ってやつが凄かったんだけどさ、ミリアちゃん本人が名前を呼び捨てにして欲しいって希望してて。そしたら、伯爵令嬢を呼び捨てにさせるとは何事かって、奥様が怒って。色々妥協の産物がミリア様呼び」
呼び方ひとつで揉めるのか。
伝統も何もない新興伯爵家だし、聖女様なんてどう扱えば正解か誰も知らないし、全部が全部手探りになるのはしょうがないんだけど。
「ちょっと来週から領地に帰ることになった。父の代理で視察するよう、王家から依頼が来たんだ」
気は進まないけど、行っとかないと。
「依頼って王家から? それって断れるんか」
「無理。形は依頼でも実質命令だよ。よほどの理由が無きゃ断れないよ」
全く。僕は学園の生徒でまだ未成年だぞ。どうせ形式整えるだけなんだから、態々呼び出さなくても良いじゃないか。デパ地下だかダンジョンだか、勝手に調査しとけば良いのに。
国の調査隊に同行するとは聞いてたけど、王家の馬車が迎えに来て近衛騎士の護衛が付くなんて、僕は知らされていなかった。
クラスのみんなに質問攻めに合う未来が確定した僕は、同情されてしかるべきだと思う。
そうだろ、ライナー。
学園で勉強に追われて、週末はランドール伯爵家へ拉致される。碌に休みの無いライナー君、さすがにやさぐれました。
マーク君はマーク君でうだうだと。
デパ地下ダンジョンに強制同行させられたマーク君が目にするものは。次回をお楽しみに。
お星さまとブックマーク、よろしくお願いいたします。




