仮称
えーと、笑ってください。
ライナーのアルバイトは、順調に滑り出した、らしい。
残念ながら、ランドール家差し向けの馬車に乗るのはライナー一人。その間、僕は第二王子殿下の呼び出しをくらうことになった。
なんで僕がと思わないでもないが、身分序列を持ち出されては断れない。ルシカ先輩が側近候補なのは極秘なので、向かうのは僕だけだ。
学生寮の玄関ホールの二階に、自治会室がある。学園内では珍しく、限られた生徒しか立ち入れない場所だ。
現会長は二年生のジュリアン・ヒックス先輩。ヒックス公爵家嫡男で、二年生の身分序列一位の方だ。
去年会長を務めてらした第二王子殿下は、OBの資格で利用可能。
僕は来年の自治会長に確定しているから、ほぼ強制的に自治会入りしている。
来年が新米伯爵家の僕って、年々身分が下がって行くよな。誰かお一人でも侯爵家以上の方が居れば、僕に回って来なかったのに。
自治会の活動は割と自由。男子寮内に限るけど、かなりの権限と予算がある。食べ放題の軽食コーナーを作ったのは、百年くらい前の自治会だったらしい。
寮の大浴場が半分露天風呂になっているのも、自治会による改装だそうだ。数年分の予算を積み立てたって言うんだから、実行力が凄すぎる。
さすがは将来国政を担う超エリート集団というところか。
「それで、何の御用でしょうか」
ライナーと一緒に家に戻る筈だったのを邪魔したんだ。それなりの理由があってのことでしょうね。
「ランドール伯爵領で地下遺跡が発見されたことは、聞きおよんでいるだろうか」
いや、初耳なんだけど。
「どういうことでしょうか。確か、国の調査が入っていたはずですが。そちらからの情報でしたら、僕には届いていません」
ランドール家が陞爵と同時に下賜された領地は、辺境の未開地だった。ニーナ義母さんの実家のツオーネ男爵領とは山を挟んで隣同士だ。
行政区分上王領になっていて、引き渡しの前に現状確認の調査隊が国から派遣されていたはず。
「領境の山の中腹で、人工物と思われる洞窟が見つかった。中には照明施設らしきものと通路が続いている。王領から伯爵領への移行を遅らせるわけにもいかず、その洞窟に限り、伯爵領内での国の調査を続行させてもらいたい」
つまり、殿下と僕の私的な話ではなくて、王家とランドール家の話と言う事か。
「本来なら、伯爵家当主のオスカー卿に通す話だが、知っての通りランドール大将はタムルク王国へ出征中だ。正式な申し込みは当主代理の伯爵夫人に為されるが、伯爵家嫡男の卿にも話を通しておくべきだろう。まだ卿は未成年ゆえ、学園で内々に話させてもらった」
非公式な根回しというところか。
僕は長男だけど嫡男呼ばわりは遠慮したい。公式な場で言われたなら、きっちり否定しておかないと既成事実化してしまうけど、今は流しておいて大丈夫だろう。
「まだ調査中だが、名称が無くては不便なのでな。後でランドール伯爵に正式に命名してもらうとして、仮称が付いた。デルスパニア王国、ランドール伯爵領、地下ダンジョン。略してデパ地下だ」
デパ地下ね。ダンジョンって初めて聞いたけど、どういう意味が有るんだろう。
デパ地下と聞いたミリアが盛大に噴き出すことを、この時、僕はまだ知らなかった。
本編で受けた一発ギャグです。
オスカー君が居ない間のあれこれが続きます。
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